表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第一章 異世界転生編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/369

第57話 遅れてやってきた幼馴染み

 満天の星が金銀の芥子粒のごとく散らばり、生気を得ているかのように瞬く。

 一方、足下は雲の上なのか、白くて濃密でとろけそうなスモークが無数の起伏を見せ、陰影を揺らめかせている。

 そう、ここは、あの一乗(いちじょう)ハヤテ達が立っていた「死後の世界」。


 そこに、金髪を夜会巻きにセットした女が、ピンクのドレス姿で後光を背負いながら、スモークを蹴りつつ、ゆっくり右に左に歩いている。

「もう店じまいかしら? 今日は地獄行きばっかでつまらないわ」

 退屈そうな女は立ち止まり、大きなあくびをして背伸びをする。


 とその時、遠くから少女の声がした。

「あのー!」

 女は、声のする方を見た。


 白装束で腰まで伸びた黒髪の少女が走り寄ってくる。

 面長な顔。ぱっちりした目。少し濃い眉。高い鼻。

 スレンダーで、可愛いというより少々大人びた雰囲気がある。

 声だけは、幼さを残しているが。


「走ってくるなんて、めったにいないわ。何があったのかしら? どれどれ……。……ふーん、なるほどね」

 女は、少女の過去の所業を素早く把握する。


「あのお……」

 女に数メールまで近づいた少女は、息が切れてうつむいてしまい、両膝に手を当てて上体を支えた。

 女は首をかしげて声をかける。

「何そんなに慌てているの? 五條(ごじょう)アリスさん」


 息を整えたアリスは、まだ苦しそうな表情を女に向ける。

「え? 私の名前をわかるんですか?」

「もちろんよ。ここは、あなた達が言う『死後の世界』で、私はここに来る人のことを何でも知っているの」


「ということは、私、死んじゃったってこと? それは困るわ! 生き返らないと! 待っている人がいるの!」

「駄目よ。もうあなたは、肉体がないの。あなた達の世界でいう『火葬』が行われたわよ」


「えっ!? もう戻れないの!? 一乗(いちじょう)ハヤテに会えないの!?」

 アリスは絶句し、絶望的な表情で歪んだ顔を覆う。


「ハヤテは生きているんです! 病院で私、まだ意識があって、耳元でお母さんが『ハヤテちゃんは生きているから頑張れ』って言われて……その後、意識がなくなって。私が死んだら、駄目じゃない……、なによ、それ……、ひどすぎる……、うう……」

 彼女は激しく嗚咽した。


一乗(いちじょう)ハヤテ? もしかして少年?」

「そうです! 一緒にバスで事故に遭って! 彼は生きているんです!」

 アリスは、クシャクシャの泣き顔を女に向けた。


「その少年、死んだわよ」

「えっ……」


「前にここに来たわよ」

「……うそ、……嘘でしょう!」


「あなたくらいの年齢の少年でしょう?」

「そうです! 本当にここに来たのですか!? ハヤテは死んじゃったのですか!?」


「一度死んで、転生したわ。転生ってわかる? 生まれ変わりのこと」

「えっ!? じゃあ、今生きているの!?」


「ええ、そうよ」

「会わせてください! 私も彼の生まれたところに転生させてください!」


「あのねぇ、天国、地獄、転生のどれかは、私が決めること。誰も、自分の思い通りにならないわ。みんな平等にね」

「お願いします! お願いします……。どうか、どうか……、私を助けてください……」

 アリスは、女の手を両手でギュッと握って、泣きじゃくりながら嘆願する。


 女は彼女の所業を調べていたので、こうも強く願う理由を理解できた。


 アリスは、ハヤテの幼馴染みで、ずっと彼にべったりだった。

 べったりだった幼馴染みは、もう一人いる。

 そこに幼馴染みでツンデレの二城(にじょう)カリンが割り込んで、ハヤテの気持ちを徐々にアリス達から引き剥がしていった。

 アリスはどうしても諦めきれない。


「頼まれたから決める訳じゃないけど、転生させていいわよ。あなた達、仲がいいのね」

「はい! ……小さいとき、結婚の約束をしていて。彼からプロポーズされて。私……今でも信じています!」

 アリスは、泣きじゃくりながら答えた。


「約束したからといって、まあ、一途な男もいるけど、結構、キレイな女の子が現れると男って気が変わるわよ。見上げてご覧なさい? この星の数だけ男がいるのよ。視野を狭くしないの。いいこと?」

 アリスは、女の人生相談に聞く耳を持たない。

「とにかく、会わせてください!!」


 女は、うなずいて詠唱を始めた。

 すると、アリスは宙に浮き、悲鳴を残してフッと消えた。

「さあって、いつもの馬小屋に」

 女はそうつぶやくと、右手を高く掲げて、指をパチンと鳴らした。


 数分後、遠くから、また少女らしい白装束の人物が辺りを見渡しながら、女の方へ歩いて来た。

「あらあら、また女の子? さっきの子とはぐれたのかしら? どれどれ……。……ふーん、ふふふ、これは面白いわね。噂をすればなんとやらってやつね」

 女は、少女の過去の所業を把握すると、さも愉快だという表情を見せた。


 少女は目が悪いのか、近くに来てようやく女を見つけ、ゆっくり歩み寄ってきた。

「す、すみません。こ、ここって、どこですか?」

 顎が張っていて四角い顔。糸のように細い目。書いたような細い眉。丸い鼻。ピンク色の髪で、ショートボブ。

 背が低くぽっちゃりした体型で、声は低いアルトである。


「いらっしゃい、禄畳(ろくじょう)ミチルさん」

「こ、こんにちは。ど、どうも」


「最初に言っておきますけど、あなたは死んだのですよ。戻る肉体もありません」

「そ、そうですか。や、やっぱり、ここは三途の川ですか?」


「さて、あなたはどこへ行きましょうかねぇ」

「そ、その前に、一乗(いちじょう)ハヤテって、あたしみたいに死んでいます?」


「ええ」

「そ、そうですか。ざまあみろ!」


「ああ、今は転生していますよ。転生って、生まれ変わるってことですから、もう死んではいませんが」

「うっそ! い、生きているんですか? あ、あの女たらしが!」


「あら、ずいぶんな言い方ね」

「だ、だって、それまであたしにべったりだったのに、このあたしをだんだん避けるようになったんですよ。幼稚園からの長い付き合いで、親同士もすっごく仲良しなのに」


「避けられても、あなたがまた振り向かせるよう頑張れば良かったじゃない」

「こ、このあたしがモテないのは、どう考えてもあいつが悪いんです!」


「まあまあ、それは違うと思うけど。二城(にじょう)カリンさんと五條(ごじょう)アリスさんとの競争に負けたのがそんなに悔しいのですね?」

「く、悔しいなんてもんじゃないです! あたしを見ないなんて、死ね、です!」


「嫌いなら、なんで同じバスに乗ったの?」

「あ、あいつを振り向かせる最後のチャンスだと思って……」


「未練があったのね。……まあ、理由はなんであれ、あなたのような人の行き場所は、残念だけど、あそこがふさわしいわね」

「へ? ど、どこ?」


 女は素早く詠唱を始めた。

 すると、ミチルも宙に浮き、長い悲鳴を残してフッと消えた。

 女はさらに右手を高く掲げて、指をパチンと鳴らした。


「さあ、そろそろ終わりにしましょうか」

「おいおい。さっきの子、その前の子と同じ所へ転生させたけど、いいのかい?」

 突然、彼女の後ろの方から、深いため息混じりの少年の声が、反響しながら聞こえてきた。

 彼の姿は、もちろん見えない。


「何言ってんの。地獄に送ったわよ」

「えー、馬鹿言っちゃいけないよ。よーく見てたけど、最初から最後まで同じ動作だったよ。つまり、二回同じことをしたってこと。自分のやったこと、思い出してごらんよ」


「あーーーーー!!!」

「つい、勢い余って同じことしたよね?」


「うわあ、やっちゃったあ!」

「しーらない!」


「ま、これで、数的にはバランス良いから、お後がよろしいようで」

「結構、適当なんだね、君の振り分けは」


 こうして、ハヤテと同じバスに乗って事故に遭い、遅れて他界した二人の幼馴染みは、ハヤテ達と同じ異世界へ転生した。

 しかも、また女の勘違いで、ハヤテ達と同じ12歳からスタートするのであった。


   ◆◆◆


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
cont_access.php?citi_cont_id=229234444&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ