第32話 魔法使いの顔をした略奪者達
馬車が出発して20分後。
牧草地帯に邪気を含む風が吹き、辺り一面の草むらを波のように振るわせた。
近くで餌を求めていた鳥たちが、ただならぬ気配に怯えて、一斉に羽ばたき、ちりぢりに逃げ惑う。
精霊ゾフィーの言う『厄災』の到来だ。
例の、馬にまたがった黒マントの二人組がやってきたのだ。
二人は、クラウス達が死闘を繰り広げた一帯に馬を止めた。
辺りの草むらには、無数の黒焦げの跡が残る。
スキンヘッドの男が、まだ生々しい黒焦げを数えながら嘲り嗤う。
「魔法のど素人が、何発かましたんですかね? 下手な鉄砲でも数打ちゃ当たるはずが、この阿呆は全部外した、って感じですぜ」
髭の男は、腹を揺さぶりながら大笑いする。
「フハハハハハハハハハハッ! 連中、ど素人まがいの戦い方で魔力を相当使ったみたいだな。これは好都合」
スキンヘッドの男も、つられて笑った。
「お頭。祝杯は案外近いですぜ」
「ところで、あいつらは誰とやり合ったと思う?」
「この爆裂魔法の痕跡だけでは、何ともわかりませんが、横取りしそうなのは、ポーレ王国の黒魔法の連中か――」
「ああ、あの四大阿呆どもか」
「奴らの派閥争いに利用するか、ポーレ王国のお家騒動に荷担して勢力を伸ばすつもりかもしれませんぜ」
「ふふん、阿呆の考える浅知恵よ」
「あるいは、フランク帝国の白魔法の連中か――」
「フン、あの馬鹿どもめ」
「いずれあの帝国は、近代化で力をつけるローテンシュタイン帝国を早期に叩こうと一戦交えるはずで、ここらで力をつけたい帝国に取り入る材料にでもするのでしょう」
「奴らはエリートのくせに、おべっかが上手だからな。連中の薄笑いは、考えただけでもおぞましいわい」
「後は、スカルバンティーア大公国の連中か、イタリオン連邦の連中か、まあないとは思いますが、スベリエ王国くらいでしょう。帝国周辺の残りの25カ国は、腰抜けどもばかりで、動くはずはありませんぜ」
「まさか、そいつらが!?」
「ええ。奴らなら、強大な魔力を感知できるはずです。いや、仮にできないにしても、情報網はローテンシュタイン帝国の宮廷内に持っているはずで、すぐに動くでしょう」
「なるほど。力のないネズミほど、ずる賢いからな」
「それにしても、ローテンシュタイン帝国の宮廷内は、ガラス張りですな」
「雷帝と言われていても、その実、脳天気な皇帝陛下であらせられるからな」
「ハハハ!」
「ハハハハハハ!!」
「で、どうしやす?」
「そいつらに先を越されるとまずい。国は小さいくせに、精鋭がおるからな。先を急ぐぞ!」
「へい」
二人組は、馬の腹を強く蹴った。
瞬時に反応した馬は、堅い蹄で地面を蹴り、乾いた土埃を巻き上げる。
彼らは邪悪な風を纏いつつ、逃走する馬車の土煙を追い求めんとして、恐ろしい早さで突き進んだ。




