第30話 精霊との契約
ゾフィーはハヤテに向かって、口には笑みを残しつつ、一方で心の中まで見通すような真剣な目つきで語りかける。
「さあ、あなたは今日からトールよ。今から、大地の精霊の力を授けるわ。『契約の儀』を行うからこちらに来て」
今度は、アンジェリーナがカリンに向かって、ゾフィーと同じような表情で語りかける。
「さあ、あなたは今日からシャルロッテよ。今から、天空の精霊の力を授けるわ。『契約の儀』を行うからこちらに来て」
トールとシャルロッテになった少年少女は、精霊の表情から、これから起こる儀式が神聖なものであることを感じ取って、きわめて緊張した面持ちになり、身震いした。
クラウスは、最後の念押しのつもりで確認する。
「ゾフィー。本当にここで行うんだよね?」
「そうよ。それとも、あなた一人であの厄災を防げると思って!?」
ゾフィーは、クラウスを睨み付けた。
精霊に魔力不足を見抜かれて、嘘でも肯定できないクラウスは、半分泣きそうな顔になっていた。
「……」
「知っていると思うけれど、本来はこんなところでは行わないのよ。だけれども、この子らを奪われて他の精霊と契約させられる危険を今すぐ回避するには、これしかないの」
「……」
「それだけ、私達は真剣に惚れ込んでいるのよ。気まぐれだと思った? そういう精霊もいるけれどね」
とその時、アンジェリーナが「そうそう、忘れ物」と言って、左手を差し出し、その手のひらの上に、お椀の形に丸めた右手をかぶせるように置いた。
そして、右手を上に持ち上げると、ごく薄い水色の液体が入ったガラスの小瓶が2本出てきた。
「秘水を忘れるところだったわ」
「ドジね」
ゾフィーは笑いながら、その1本を受け取った。
そうして、クラウスの体が正面を向いている方向を時計の12時の方向だとして、2時の方向にゾフィーがトールを連れて、10時の方向にアンジェリーナがシャルロッテを連れて、それぞれ30メートルほど遠ざかって歩みを止めた。




