第102話 シャルロッテのとっても危ない攻撃
泥人形の背後で、ほぼ同時にドスドスと音がした。
「斬っても斃れない!」
マリー=ルイーゼの声だ。
アーデルハイトをつかんでいる泥人形の後ろから聞こえる。
「何よこれ!? 土を刺しているみたいじゃないの!」
これはシャルロッテだ。
トールをつかんでいる泥人形の背中から聞こえる。
彼女達が、泥人形の背後で攻撃してくれている。
苦戦している様子だが、トールは彼女らの勇気に元気づけられた。
彼は力を奮い立たせ、襲いかかる骸骨を剣で防戦する。
「えいっ!!」
シャルロッテの声だ。
とその時、トールの足の付近、今は泥人形に宙づりにされて逆さになっているので、泥人形の胸か腹の辺りだが、そこでズボッと音がした。
彼は足下を見やる。
視界に、細くて尖った金属製の棒のような物が映った。
彼は最初、漠然と『ああ、あれはシャルロッテのレイピアだな』『泥人形だから、刺せば突き抜けるんだ』と思った。
えっ? 足の付近に?
ええっ? レイピアが突き抜ける!?
えええっ!? まさか!!??
彼は腹筋を使って少し上体を起こし、自分の足の付近で起きている出来事を確認した。
彼は鳥肌が立った。
なんと、シャルロッテのレイピアが泥人形の背中から突き刺さり、体を通り抜けて、自分の股間の上、約10センチメートルのところから刀身が出ているのである。
その細くて鋭い刀身が、シュッと引っ込んだ。
「えいっ!!」
また彼女の声がする。
ズボッという音。
トールは音の方を見る。
今度は、剣先がトールの股間の上、約5センチメートルのところから突き出る。
「わわわっ! 待って! 待って! 待って! シャル! 僕に刺さる!」
トールは、シャルロッテに向かって叫んだ。
何に刺さる、とはさすがに言えなかった。
ところが、彼女は「えええ!? 斃れないわよ!」としか言わない。
彼の叫びもむなしく、どうやら聞こえていないらしい。
トールは、足をジタバタさせた。
股間が緊張して、ジンとする。
ちょっと内股気味になった。
彼は、骸骨の猛烈な攻撃にも耐えながら、自分の股間の心配もしないといけなくなったのだ。
これは一大事!
しかも、万が一、彼女の手元が狂うと、レイピアの剣先が自分に刺さるかもしれないのだ!
敵と味方に、前から後ろから攻撃される英雄。
これは、最大のピンチである。
「このー!!!」
「やめてー!!!」
ズボッ!
今度は、レイピアの剣先がトールの股間をかすめた。
後2、3ミリずれたら!
彼は、恐怖のあまり青ざめた。
「シャルウウウウウウウウウウ!! ヤバいよ! ヤバいよ! マジでやめてー!!」
「えー!? なんか言ったぁ!?」
とその時、神様が、哀れなトールに救いの手を差し伸べた。
「シャル! ヒルが呼んでいる! 戻るわよ!」
マリー=ルイーゼの声だ。
これぞ天の助け!
「わかった、マリー! いったん、退却ね!」
これは、シャルロッテだ。
レイピアの刀身が、トールの股間をこすらんばかりに引っ込んだ。
「ふううううっ……」
トールは深呼吸のようなため息をつき、安堵の胸をなで下ろした。
そこへ、逆向きになった骸骨が斧を振り下ろす。
「させるかぁ!!」
トールの長剣が風を切り、骸骨の背骨を折った。
股間の憂いは去った。
反撃再開である。
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