第101話 宙づり状態での死闘
アーデルハイトとトールは、同時に前のめりに倒れ込んだ。
うつ伏せになった二人とも、自分の右足首の方に目を向ける。
そこが何者かに握られている感覚がするからだ。
見ると、地面からヌッと出ている土色の太い手が右足首をつかんでいるではないか。
青ざめた彼らは、体を左回りにねじって、尻を地面につけてから上体を起こす。
そして、つかんでいる手を左足で蹴ろうとしたが、別の太い手が地面から出てきて、左足首をつかんでしまった。
足をジタバタと動かす二人だが、握る力が強くて、どうしても振り払えない。
剣で攻撃しようにも、自分の足が危ない。
そうこうしているうちに、手の持ち主が、ボコボコと音を立てて地面から湧き出てきた。
泥人形、ゴーレムだ。
土の塊が人の形をしていて、顔はのっぺらぼう。
背丈は2メートル半は超えると思われる。
二人は泥人形に両足首を握られたまま、宙づり状態になった。
彼らの視界に映るのは、上下が逆の骸骨の群れ。
そいつらが、もう間近に迫っている。
「先輩! 大丈夫ですか!?」
「大丈夫! それより、自分のことを心配して!」
アーデルハイトは、実は、全然大丈夫ではなかった。
宙づりになってしまったので、ミニスカートが完全にめくれていたのだ。
しかし絶世の美女は、骸骨相手だからと腹をくくり、羞恥心をかなぐり捨てた。
最前列の骸骨達が、二人に迫って、剣や斧を振り下ろす。
それを、体をねじって防ぎつつ、骸骨へ素速く剣を振る。
幸い、二人の剣が長かったので、ちょうど骸骨の肋骨の下側を剣が通り、背骨を折るように斬ることができた。
宙づりの体勢で攻撃できる箇所は、せいぜい背骨か腰骨しかなかった。
背骨を折られた骸骨は、上半身が落下し、遅れて下半身が倒れ込む。
真っ二つになって斃れた亡霊は、光の粒に包まれたかと思うと、煙のように消えた。
もう一体。
返す刃でもう一体。
さらに一体。
なおも一体。
次々と押し寄せる白骨部隊の剣戟を交わしながら、二人は必死で斬り捨てていく。
しかし、彼らの動きが少しずつ鈍ってきた。
頭に血が上ってきた。
いや、今は頭は下だから血が下がってきたのだ。
二人の顔は、ぐんぐん赤くなってきた。
今にも、顔が破裂してしまいそうだ。
そこで、二人はほぼ同時に思いついた。
腹筋を使って、上体を上に起こすのだ。
わずかな時間でもいい。
これで血が少し下がる。
ただし、後ろがよく見えない。
素速く左後ろを見て剣を交え、素速く右後ろを見て剣を交わす。
この体勢では、骸骨を斬り捨てるのは難しい。
たまに首が飛ぶことがあるが、それは偶然に近い。
彼らは、考えた。
今、この上体を起こしたままで、泥人形を斬り捨てられないか、と。
しかし、真後ろに剣と斧を持っている骸骨が多数控えている。
一瞬でも背中に隙を見せたら終わりだ。
やむなく、二人は腹筋を緩めて頭を下ろす。
こうして再度、確実に一体、一体を斃していく。
だが、きりがない。
時間が掛かる。
それでまた、頭に血が上ってくる。
トールは、めまいに襲われた。
胃から何かが逆流して、吐きそうにもなる。
剣の動きが、ほとんど止まる。
「気を抜かないで!」
アーデルハイトが叫ぶ。
我に返ったトールが答える。
「はい! 先輩!」
再び剣を鋭く振るう。
とその時、泥人形の背後から「「たああああああああああっ!」」と鬨の声が聞こえた。
二人いる。
シャルロッテとマリー=ルイーゼだ。
(シャル! マリー! 頼む!)
トールは、長剣を振り回しながら、祈るように『仲間』の到着を待った。
そう。彼はもう、『幼馴染み』ではなく、大切な『仲間』と思っていたのだ。
「「えいっ!!」」
シャルロッテとマリー=ルイーゼが、同時に渾身の力を込めて叫んだ。




