第100話 仕掛けられた罠
骸骨は、骨同士がぶつかる音を立てながら、迫ってくる。
縦揺れで船酔い状態だったイヴォンヌとイゾルデは、パニックになった。
膝をガクガクいわせて必死で堪えているのは、マリー=ルイーゼとヒルデガルト。
シャルロッテは、しゃがみ込んだままだ。
黒猫マックスは、背中が総毛立つ。
冷静なのは、トールとアーデルハイトのみ。
「先輩! ここは僕に任せてください!」
トールの申し出に、アーデルハイトは首を素早く左右に振る。
「いいえ。ここは私に任せて! 12ファミリーが卑怯な手を使ってくるのは慣れているから」
アーデルハイトは、右手を高く掲げ、天に向かって「出でよ! 剣!」と叫ぶ。
すると、彼女の手の先に朱色に輝く幾何学模様に古代文字の魔方陣が現れた。
そこから、細めの刀身が二つある1メートル弱の刀が、その魔方陣から生み出されるようにヌウッと出現した。
二本の刀身はそりのない日本刀のように見え、左右が線対称のように、互いが背を向けて配置されている。
彼女は軽くジャンプして、白いミニスカートを翻しながら、その剣の柄をガシッとつかむ。
すると、それを合図に、二つの刀身の背が互いに接近し、シャキンと音を立てて合体。
幅が広い一つの諸刃の剣に変化した。
彼女は仁王立ちになり、その鋭い剣先を骸骨の群れに向ける。
「さあ、覚悟なさい! この聖なる剣は、お前達を一人残らず斬って捨てても、何一つ刃こぼれはしないわよ!」
トールは最初、その見事な剣と彼女の雄姿に見とれていたが、シャルロッテの悲鳴で我に返った。
彼もアーデルハイトに続く。
「行くぜ!! 剣!!」
彼が真横に伸ばした右手の先で、金色に輝く幾何学模様に古代文字の魔方陣が現れた。
そこから1メートル半の長剣がぐんぐん伸びるように出現する。
刀身には、金色で刻まれた護符の古代文字。
銀色の鍔の縁には、これも金色で描かれた幾何学模様。
柄に紅色で浮き彫りされた、火炎を吐きながら爪を立てるドラゴンの彫刻。
今度は、剣の刀身の幅が少し広がって見える。
重量感もある。
彼の剣は彼の心の強さを反映し、また姿を変えたのだ。
一方、迫り来る骸骨の群れは、行進しながら呪いの言葉を唱和する。
一刻も猶予はない。
「やああああああああああっ!!」
アーデルハイトは剣を振りかざし、骸骨の群れに突進した。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
トールは長剣を握りしめ、遅れまいと彼女に続いた。
ケートは、アーデルハイト達の鬨の声を耳にして、少し顔を上げた。
彼女がすっぽりかぶる黒いフードから、顎と、真一文字に固く結ばれた唇だけが覗く。
とその時、口角が少しつり上がった。
まるで『引っかかったな』と、ほくそ笑むように。
彼女は、足を肩幅に広げて、両手を真横に目一杯伸ばした。
そして、中腰になり、両手の指をパチンと鳴らす。
と突然、
「「あっ!!」」
アーデルハイトとトールは、ハモるように叫んだ。
二人は、罠に掛かったのである。




