表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/65

第59話 作られた命と、大地の怒り

 ――ズガガガガガガッ!!


 無機質な金属の通路に、破壊の光が嵐のように吹き荒れていた。

 偽りの聖女たちが放つ、冷たく無機質な「奇跡の光」。

 かつて人々の傷を癒やすために使われていた神聖な力が、今はただの殺戮兵器として乱れ撃たれている。


『くっ……! 重てぇな!』


 トムさんが大盾を構え、光の弾幕を必死に弾き返す。

 鋼鉄の盾は高熱を帯びて赤熱し、今にも溶け落ちそうだ。


『リゼル、防壁がもたないわ!』


 シルフィが叫びながら、防壁の隙間から矢を放つ。

 風を纏った矢が、一体の偽リゼルの肩口に突き刺さった。


 ガキンッ!


『え……?』


 肉を裂く音ではなく、硬い金属を叩くような音が響いた。

 矢が刺さった偽リゼルの傷口から覗いていたのは、血肉ではなく、銀色に輝く金属の骨格と、青白い魔力回路だった。


『……生身じゃねぇ。こいつら、機械仕掛けの人形だ!』


 トムさんが驚愕の声を上げる。

 偽リゼルは肩に矢が刺さったまま、痛がる素振りも見せずに無表情で光を放ち続けている。


『エラー。損傷率三パーセント。戦闘行動に支障なし』


 機械的な音声。

 その顔は、紛れもなくリゼルと同じものなのに。

 瞳には一切の感情が宿っていない。


『ひどい……』


 リゼルは青い光の防壁を展開しながら、唇を強く噛み締めた。


『そんなものまで作って……命を、何だと思っているの!』

『――命とは、エネルギーを変換するための装置に過ぎない』


 不意に、通路全体を震わせるような声が響いた。

 偽リゼルたちの口が、一斉に同じ動きで開く。

 個別の意思ではなく、システムの中枢が彼女たちのスピーカー機能を使って直接話しかけてきているのだ。


『我々は、この星の資源を効率よく回収するために「人類」という種を管理してきた。聖女とは、その回収効率を最大化するための特化型インターフェースだ』


 無表情のまま語る偽リゼルたち。


『お前は第七十四期聖女。……ここにいるのは、お前と同じ遺伝子情報から出力された「予備パーツ」であり、起動テストで基準値を満たさなかった「失敗作」たちだ』

『失敗作……!』

『魂などという非効率なノイズは搭載していない。ゆえに、痛みも恐怖もない。完璧な歯車だ。……さあ、オリジナルよ。無駄な抵抗をやめ、システムに還れ』


 一斉に、偽リゼルたちの出力が跳ね上がった。

 数十人分の「奇跡」が融合し、極太の破壊光線となってリゼルたちの防壁に襲いかかる。


 メリメリメリッ……!


 リゼルの展開していた青い光の壁に、無数のヒビが入る。


『リゼル! このままじゃ押し潰されるぞ!』


 トムさんが大盾で壁を支えようとするが、足元の金属床がひしゃげ、後ずさってしまう。


『……私は』


 リゼルは、俯いたまま静かに呟いた。


『私は、第七十四期聖女なんかじゃない。インターフェースでもない』


 脳裏に浮かぶのは、フェルナ村での日々。

 泥だらけになって畑を耕したこと。

 子供たちと一緒に、黒板の前で笑い合ったこと。

 トムさんの淹れてくれた、少し苦いお茶の味。

 シルフィと一緒に見た、果てしなく広い空。


『私は……フェルナ村の学校の先生、リゼル・アルティナよ!!』


 リゼルが顔を上げた瞬間。

 胸元の青いペンダントが、かつてないほどの爆発的な輝きを放った。


 ドクンッ!!


 大地の鼓動が、冷たい金属の通路を揺らす。

 それは、システムという偽りの神に対する、星そのものの怒りだった。


『こんな人形を作って、命を馬鹿にしないで! 命は……歯車なんかじゃないわ!!』


 リゼルは防壁を解き、両手を前へ突き出した。

 防御ではない。

 星の怒りと、彼女自身の悲しみを込めた、全力の反撃。


『トムさん、シルフィちゃん! 伏せて!』

『おおおッ!』


 二人が床に伏せた瞬間、リゼルの両手から、津波のような大地の光が奔流となって押し寄せた。


『――【母なる大地の還葬アース・リターン】!!』


 青く、温かく、そして圧倒的な質感を伴った光の波。

 それは偽リゼルたちの放つ無機質な光線を真っ向から呑み込み、彼女たちの群れへと直撃した。


『警告。規定値を超える未確認エネルギーを検知。防御不能――』


 機械的な音声が、ノイズ混じりに途切れる。

 リゼルの光は、彼女たちを「破壊」したのではない。

 無理やり形作られていた偽りの魔力回路を溶かし、大地の力で「土に還した」のだ。


 パァァァァァァ……ッ。


 光に包まれた偽リゼルたちの体が、金属の骨組みごと光の粒子へと分解されていく。

 その顔から、虚ろな無表情が消える。

 分解される直前、彼女たちの顔が、微かに安らかに微笑んだように見えたのは、リゼルの錯覚だったろうか。


『……ごめんね。もう、休んで』


 リゼルは祈るように手を組んだ。

 数十体いた偽リゼルたちは、一人残らず光の粒子となって消え去り、あとには静寂だけが残った。


『……すげぇ』


 トムさんがゆっくりと立ち上がり、信じられないという顔で光の残滓ざんしを見つめる。


『あんな数、一瞬で……。船長、お前本当にバケモノだな』

『ふふ、褒め言葉として受け取っておきます』


 リゼルは少し肩で息をしながら、苦笑した。


『すごい光だった。風が、優しくなったみたい』


 シルフィも立ち上がり、リゼルの背中をポンと叩いた。


『これなら、あのムカつくシステムの親玉も一発で吹き飛ばせるんじゃない?』

『そうね。……出し惜しみはしないわ』


 リゼルは前を向いた。

 偽リゼルたちが守っていた通路の最奥。

 そこには、これまでとは比較にならないほど巨大で、重厚な扉がそびえ立っていた。

 扉の表面には、赤黒い瘴気が血管のように脈打っている。


『いよいよだな』


 トムさんが斧を肩に担ぎ直す。


『ああ。この奥に、この世界の元凶がいる。……行くぞ、リゼル、シルフィ』

『はい!』

『ええ!』


 三人は顔を見合わせ、力強く頷いた。

 リゼルが扉に手を触れると、大地の光に反応して、重苦しい音を立てて扉が左右に開いていく。


 ――ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!


 開かれた扉の向こうに広がっていたのは、想像を絶する光景だった。


 巨大なドーム状の空間。

 その中央に、世界樹と呼ばれる機械の「心臓」が浮遊していた。

 星の命を吸い上げる、巨大なエネルギーの渦。

 そして、その中心で彼らを待ち受けていたものとは――。


(第59話・終)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ