●7日目:風と潮と想いと……ペダルが紡ぐ青森の詩~青森港から三内丸山遺跡、そして浅虫温泉へ~」
朝もやが晴れ始めた青森港の空の下、真中清風と水上爽香は、新たな冒険の始まりに胸を躍らせていた。二人は函館港からフェリーでここまで移動してきたのだ。
「爽香、いよいよ青森サイクリングの幕開けだ! まずは三内丸山遺跡に行ってみよう!」
清風の声には、抑えきれない興奮が滲んでいた。
「うん! 私、今からドキドキしちゃう! 青森の海の匂い、もう最高!」
爽香は笑顔で応え、その瞳には期待と冒険心が輝いていた。
三内丸山遺跡までの道のりは、二人の健脚ならあっという間だった。
自転車のスタンドを立て、二人は遺跡の広大な敷地に足を踏み入れた。朝露に濡れた草が、二人の足元でしっとりと光っている。
清風は深い息を吸い込んだ。空気が違う。まるで時間が遡っていくような、不思議な感覚が全身を包み込む。
「ねえ、清風……なんだか神秘的な雰囲気だね」
爽香が小さな声でつぶやいた。その声音には、場所が醸し出す厳かな空気への畏怖が滲んでいた。
「ああ……ここには、縄文人たちの息づかいが今も残っているんだ」
清風の声には、普段は見せない感情の高ぶりが感じられた。爽香は少し驚いて清風の横顔を見つめる。
前方には、高さ15メートルもの巨大な掘立柱建物跡の復元物が立っていた。その威容に、二人は思わず足を止めた。
「実は……俺、大学時代に考古学を専攻してたんだ」
突然、清風が切り出した。爽香は目を丸くする。
「えっ! 知らなかった……! そうだったの?」
「ああ。今まで話す機会がなくてね。でも、ここに来たら、どうしても話したくなった」
清風の瞳が、懐かしさと情熱で輝いていた。
「縄文時代って、よく原始的な時代だと思われがちなんだ。でも、実際はとても豊かで、文化的な生活を送っていた。この三内丸山遺跡は、そのことを証明しているんだよ」
清風は遺跡を見渡しながら、熱を帯びた声で語り始めた。爽香は、初めて見る清風の一面に、心を奪われていた。
「例えばこの大型建物。当時の建築技術の高さを示しているんだ。そして、ここで見つかった土器や装飾品の精巧さ。これらは、芸術的感性の豊かさを物語っている」
清風の声は次第に熱を帯びていく。
「最も感動的なのは、この集落が1500年以上も続いていたことなんだ。それは、持続可能な生活を確立していたということ。自然との共生を知っていた人々だったんだよ」
爽香は、清風の言葉一つ一つに、深く頷いていた。彼女の中で、縄文時代のイメージが大きく変わっていくのを感じる。
「私たちの自転車の旅も、きっと縄文人に通じるものがあるんじゃないかな」
爽香が静かに言った。清風は驚いて爽香を見つめる。
「どういう意味?」
「だって、私たちも自然の中を旅して、各地の文化に触れて、そして持続可能な旅を目指してるでしょ? エンジンを使わないエコな移動手段で」
清風は爽香の言葉に、深い感銘を受けた。彼女はいつも、自分には思いつかない視点を見せてくれる。
「そうだね……爽香の感性には本当に驚かされるよ。縄文人たちも、きっと僕たちの旅を応援してくれているのかもしれないな」
二人は笑顔で見つめ合った。朝日が昇り、遺跡全体を優しく照らし始めている。その光は、まるで縄文人たちが二人を見守っているかのようだった。
展示室に入ると、ガラスケースの中に並ぶ土器や装飾品の数々に、爽香は目を奪われた。特に、精巧な模様が刻まれた土器の造形美に、芸術家としての感性が強く刺激される。
「すごい……! これ、全部手作りなんだよね?」
「ああ。しかも、当時は轆轤もない。全て手びねりで作られたんだ」
清風は土器を見つめながら、静かに、しかし情熱を込めて説明を続けた。
「見てごらん。この渦巻文様。単なる装飾じゃない。縄文人たちの世界観や、自然への畏敬の念が込められているんだ」
爽香は、あらためて展示品を見つめ直す。すると、今までは気づかなかった細部が、次々と目に飛び込んでくる。
「なんだか……祈りを感じるね。自然の恵みへの感謝とか」
「そう! その通りだよ。縄文人たちは、自然を征服するのではなく、共に生きることを選んだ。その知恵と精神性は、現代の私たちにも大きな示唆を与えてくれる」
清風の声には、研究者としての冷静さと、一人の人間としての感動が混ざり合っていた。
「ねえ、清風。どうして考古学から離れちゃったの?」
爽香が恐る恐る尋ねた。清風は少し寂しげな表情を浮かべる。
「まあ有体に言えば就職難だったんだ。考古学って専門職の口が少なくてさ……結局、一般企業に就職することにした」
その言葉に、爽香は胸が締め付けられる思いがした。清風の中に眠っていた情熱を知り、その夢を諦めなければならなかった彼の心情を想像する。
「でも、悔いはないよ」
清風は爽香の表情を見て、すぐに付け加えた。
「だからこそ爽香と出会えたしね。そして今、こうして自転車で日本を旅することができる」
その言葉に、爽香の目に涙が浮かんだ。
「私も……清風と出会えて本当に良かった。清風の新しい一面を知れて、もっと好きになっちゃった」
二人は手を握り合い、縄文の遺物たちを見つめる。そこには、5000年以上の時を超えて、人々の願いや祈り、そして暮らしの痕跡が刻まれていた。
「縄文人たちも、きっとこんな風に手を取り合って生きていたのかもしれないね」
爽香のつぶやきに、清風は深く頷いた。
「そうだね。彼らは協力し合い、支え合って生きていた。その証がここにある」
展示室を出ると、外では復元された竪穴住居が、朝日に照らされて温かな表情を見せていた。二人は住居の中に入り、当時の生活を想像する。
「ここで、家族が団らんを過ごしていたんだね」
「ああ。炉を囲んで、今日あった出来事を語り合ったり、明日の計画を立てたり」
清風の言葉に、爽香は自然と目を閉じた。すると、5000年前の家族の会話が、かすかに聞こえてくるような気がした。
「ねえ清風、縄文時代って争いや戦争がまったくなかったんでしょう?」
「そう。驚異的なことだよね」
「なんで今の世界って、戦争だらけなんだろう?」
「そうだね……なんでだろうね……俺にはわからないけど……縄文人が持っていた何か大切なものを、現代人は失ってしまったんだろうね……」
清風はどこか遠くを見つめていた。
自転車に乗り込みながら、二人は最後にもう一度振り返る。
「また来たいね」
「ああ、必ず。今度は、もっとゆっくりと時間をかけて」
ペダルを踏み始めた二人の背中を、縄文の風が優しく押していた。まるで古代の人々が、現代を旅する二人を見送っているかのように。
この予期せぬ寄り道は、二人の旅に新たな深みを与えることとなった。考古学への情熱を胸に秘めていた清風の意外な一面。それを受け止め、共感する爽香の感性。二人の絆は、縄文という時空を超えた人々の営みに触れることで、さらに深いものとなっていった
◆
二人は軽快なペダリングで、陸奥湾沿いのサイクリングロードを駆け抜けていく。涼しい朝の空気が頬をなで、髪を揺らす。潮の香りが鼻腔をくすぐり、カモメの鳴き声が耳に心地よい。
清風は爽香の後ろ姿を見つめながら、胸の内で静かに決意を固めていた。「このサイクリングで、きっと爽香との絆をもっと深められるはずだ。一緒に困難を乗り越え、新しい景色を見ることで、俺たちの関係はさらに強くなる」そう考えると、清風の心は期待で満たされていった。
一方、爽香は前を向きながら、清風への感謝の気持ちを噛みしめていた。「清風がいなかったら、こんな素敵な冒険、始められなかったかも。彼の計画性と冷静さがあるからこそ、私は安心して前に進める」爽香の目に、清風への愛おしさが宿る。
「ねえ清風、あそこに見える建物、なんだか面白い形してない?」
爽香が指さす先には、奇抜なデザインの建物が見えた。
「おお、あれは青森県立美術館だ。棟方志功の作品で有名なんだよ」
清風が答える。その声には、知識を共有できる喜びが滲んでいた。
「へえ、棟方志功って……あの版画の人だよね? ちょっと寄ってみない?」
爽香の目が好奇心で輝く。
「いいね。せっかくだから、芸術の風にも当たってみようか」
清風は微笑みながら頷いた。
美術館に入ると、二人は棟方志功の力強い版画の前で立ち尽くした。
「すごい……なんだかエネルギーが伝わってくるみたい」
爽香がつぶやく。その目は感動で潤んでいた。
「ああ、まるで版画から魂が飛び出してきそうだ」
清風も同意する。彼の論理的な頭脳でさえ、芸術の力に圧倒されていた。
美術館を後にした二人は、再び自転車に乗って走り出す。道中、彼らは様々な会話を交わしながら、絆を深めていった。
「ねえ清風、私たちってさ、なんだか棟方志功の版画みたいかもしれないね」
爽香が突然言い出した。
「え? どういう意味だ?」
清風は少し驚いた表情で尋ねる。
「だって、私たち二人で力を合わせると、一人じゃ生み出せないような大きなエネルギーが生まれるでしょ? それって、版画の線と線が重なって生まれる力強さに似てるなって」
爽香の言葉に、清風は深く感動した。彼女の感性が、自分には思いつかなかった視点を与えてくれたのだ。
「そうだな……爽香の感性には本当に驚かされるよ。俺たち、これからもっともっと素晴らしいものを生み出せる気がするよ」
清風は優しく微笑んだ。二人の間に流れる空気が、さらに温かいものになる。
昼頃、二人は青森市場に到着した。市場内は活気に満ち、新鮮な魚介類の香りが漂っている。
「うわぁ、すごい匂い! お腹空いちゃった」
爽香が目を輝かせながら言う。
「よし、じゃあ海鮮丼でも食べようか。あそこの店、地元の人で賑わってるぞ」
清風が指さす先には、小さな食堂があった。二人は自転車を停め、中に入った。
「いらっしゃい! 若いカップルさんかい?」
年配の女将さんが、にこやかに二人を迎えてくれた。
「はい、サイクリング旅行中なんです。おすすめはありますか?」
爽香が笑顔で尋ねる。
「そうだねぇ、うちの『特製海鮮丼』がいいよ。今朝獲れたての魚をたっぷり使ってるからね」
女将さんのおすすめに、二人は顔を見合わせてうなずいた。
程なくして運ばれてきた海鮮丼は、色とりどりの海の幸が艶やかに盛り付けられていた。マグロ、ウニ、イクラ、ホタテ……新鮮な魚介の香りが鼻腔をくすぐる。
「いただきまーす!」
二人で声を合わせて箸を付ける。
「うまい! これぞ青森の味だね」
清風が感動した様子で言う。爽香も頷きながら口に運ぶ。
「ねえ清風、私たちの旅って、この海鮮丼みたいだね。いろんな出会いや発見が、彩り豊かに詰まってる」
爽香が海鮮丼を見つめながら言った。その言葉に、清風は心を打たれる。
「そうだな。そして、それぞれの味が調和して、かけがえのない一つの経験になるんだ」
清風は爽香の手を優しく握った。二人の目が合い、温かな笑顔を交わす。
食事を終えた二人は、市場を散策することにした。新鮮な野菜や果物、干物や海藻類など、青森の豊かな食材が所狭しと並んでいる。
「おや、お二人さん。どっから来たの?」
干物を売る年配の男性が、二人に声をかけてきた。
「私たち、北海道から自転車で来たんです」
爽香が答えると、男性は目を丸くした。
「まあ! そいでこっから先はどこさ行くだ?」
男性の言葉に、青森の方言が感じられる。
「浅虫温泉に向かう予定です」
清風が答えると、男性は嬉しそうに微笑んだ。
「そいがそうか。浅虫さ行くなら、ここの干しイカ持ってけ。温泉の後の酒の肴にゃ最高だぞや」
男性は干しイカを二人に手渡した。その優しさに、清風と爽香は心を打たれる。
「ありがとうございます! 大切にいただきます」
二人は感謝の言葉を述べ、男性と別れた。
「青森の人って、本当に優しいね」
爽香が感動した様子で呟く。
「ああ、人との出会いが旅を豊かにしてくれるんだな」
清風も深く頷いた。
午後、二人はねぶたの家 ワ・ラッセを訪れた。巨大なねぶた人形の迫力に、二人は息を呑む。
「すごい……これが青森の伝統文化なんだね」
爽香が感嘆の声を上げる。
「ああ、民族の魂みたいなものを感じるな」
清風も感動した様子で答えた。
ガイドさんの説明を聞きながら、二人はねぶたの歴史や製作過程に思いを馳せる。その後、ねぶた囃子の体験コーナーで、二人は太鼓や笛に挑戦した。
「ハネトぉ! ラッセラー! ラッセラー!」
爽香が楽しそうに掛け声を上げる。その姿を見て、清風は思わず笑みがこぼれた。
「爽香、すっかりねぶた祭りの雰囲気に浸っているな」
「だって楽しいんだもん! 清風も一緒にやろうよ!」
爽香に促され、清風も恥ずかしそうに掛け声を上げる。二人の声が重なり、展示室に響き渡った。
夕暮れ時、二人は浅虫温泉に到着した。老舗旅館に入ると、優しい女将さんが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。お二人とも、お疲れさまでした」
女将さんの温かい言葉に、二人の疲れが癒されていく。
夕暮れ時、清風と爽香は旅の疲れを癒すべく、宿の食事処に足を踏み入れた。木の温もりが感じられる和室に通されると、二人は静かに座布団に腰を下ろした。窓の外では、夕日に染まった空が美しく広がっている。
程なくして、着物姿の女将さんが、にこやかな笑顔で料理を運んできた。
「お待たせいたしました。本日の夕食は、青森の郷土料理でございます」
女将さんの柔らかな声に、二人は期待に胸を膨らませた。
まず目に飛び込んできたのは、大きな陶器の鍋に入った「けの汁」だった。蓋を開けると、立ち上る湯気と共に、豊かな香りが部屋中に広がった。
「わぁ、いい匂い!」爽香が目を輝かせながら声を上げる。
清風も鼻を鳴らしながら深呼吸をした。「ああ、
本当だ。なんだか懐かしい香りがするな」
鍋の中には、たっぷりの野菜と鶏肉が煮込まれていた。キャベツ、人参、ごぼう、大根など、色とりどりの野菜が、優しい味噌の香りに包まれている。表面には、緑鮮やかな刻みねぎが散らされ、彩りを添えていた。
隣には、大きな貝殻を器に使った「ホタテ料理」が置かれていた。ふっくらと焼かれたホタテの身が、バターのような黄金色の液体に浸されている。香ばしい匂いが漂い、二人の食欲をさらにそそった。
「こちらは、陸奥湾で獲れた新鮮なホタテを使った特製料理でございます」
女将さんが説明を加える。
「うわぁ、美味しそう!」
爽香が目を輝かせる。
「ああ、青森の味が凝縮されてるみたいだな」
清風も期待に胸を膨らませる。
一口食べると、素朴な味わいが口いっぱいに広がる。野菜の旨味と鶏肉の香り、そして味噌の風味が絶妙なハーモニーを奏でている。
「美味しい……青森の大地の恵みを感じるね」
爽香がうっとりとした表情で言う。
「ああ、素材の味を活かした料理だ。シンプルだけど奥深い」
清風も同意する。
食事の後、二人は露天風呂に浸かった。湯けむりの向こうに、陸奥湾の夜景が広がっている。
脱衣所で浴衣を脱ぎ、タオルを手に取る。二人とも少し照れくさそうな表情を浮かべながら、お互いの目を見つめ合う。
「行こうか」と清風が優しく声をかけ、爽香はうなずいた。
混浴の露天風呂に足を踏み入れると、温かい湯が疲れた体を優しく包み込む。清風が先に湯船に浸かり、爽香に手を差し伸べた。爽香はその手を取り、ゆっくりと湯船に身を沈める。
「あぁ……気持ちいい」
爽香がため息をつく。その声に、清風も同意するように頷いた。
湯けむりが立ち上る中、二人は肩を寄せ合って座った。温泉の香りが鼻をくすぐり、遠くで波の音が聞こえる。湯船の縁に腕をかけ、二人は目の前に広がる景色に目を奪われた。
湯けむりの向こうに、陸奥湾の夜景が広がっている。漆黒の海面に、漁り火や遠くの街の明かりが点々と浮かび、まるで天の川が地上に降りてきたかのような光景だ。月明かりが海面を銀色に染め、波のさざなみが光を反射して煌めいている。
「ねぇ、清風」
爽香が小さな声で呼びかける。
「こんな素敵な景色、今までに見たことある?」
清風は爽香の肩に腕を回し、優しく抱き寄せる。
「ないね。でも、爽香と一緒だからこそ、さらに美しく見えるんだと思う」
爽香は清風の胸に頭をもたれさせ、幸せそうに目を閉じた。二人の周りでは湯気が立ち上り、まるで二人を世界から隔離するようだ。
しばらくの間、二人は言葉を交わすことなく、ただ互いの存在と目の前の景色を楽しんでいた。時折、遠くに見える漁船の明かりが移動するのを眺めたり、星座を探したりしながら、静かな時間が流れていく。
湯に浸かっているうちに、日中の疲れが溶けていくのを感じる。自転車で走った70kmの道のりの緊張感や苦労が、温泉の力で洗い流されていくようだった。
「明日からまた頑張ろうね」
清風が爽香の髪を優しく撫でながら言った。
「うん。清風となら、どんな道でも走破できる気がする」
爽香が答える。
二人は再び目を合わせ、優しく微笑み合った。湯けむりと夜景に包まれた二人の姿は、まるで一枚の絵画のように美しかった。
「ねえ清風、今日一日どうだった?」
爽香が優しく尋ねた。清風は少し考えてから答えた。
「正直、予想以上に充実してたよ。美術館での発見、市場での出会い、ねぶたの体験……全てが新鮮で、心に残る一日だった」
清風の言葉に、爽香は嬉しそうに頷いた。
「私もよ。特に、清風と一緒に過ごせたことが何よりも嬉しかった」
爽香の言葉に、清風の頬が少し赤くなる。
「そうか……俺も爽香と一緒だからこそ、こんなに楽しい旅ができてるんだと思う」
二人は顔を見合わせ、優しく微笑んだ。湯けむりに包まれながら、静かに寄り添う。窓の外では、星空が二人を見守るように輝いていた。
その夜、二人は部屋で地元の日本酒「陸奥男山」を味わいながら、市場でもらった干しイカをつまんでいた。
「ん?、この日本酒、すっきりしてて飲みやすいね」
爽香が感想を述べる。
「ああ、青森の米と水が生み出す味わいだな。干しイカとの相性も抜群だ」
清風も頷きながら答えた。
「ねえ清風、明日からの旅も楽しみだね」
「ああ、きっと今日以上に素晴らしい体験ができるはずだ」
二人は笑顔で見つめ合い、グラスを軽く合わせた。窓の外では、浅虫温泉の夜空に星々が輝いていた。それは、まるで二人の旅の前途を祝福しているかのようだった。
清風と爽香は、この日の思い出を胸に刻みながら、明日への期待に胸を膨らませていった。青森の風土と人々の温かさに触れ、二人の絆はさらに深まったように感じられた。そして、これから始まる本格的な旅への決意を新たにしたのだった。