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9/21

●7日目:風と潮と想いと……ペダルが紡ぐ青森の詩~青森港から三内丸山遺跡、そして浅虫温泉へ~」

 朝もやが晴れ始めた青森港の空の下、真中清風と水上爽香は、新たな冒険の始まりに胸を躍らせていた。二人は函館港からフェリーでここまで移動してきたのだ。


「爽香、いよいよ青森サイクリングの幕開けだ! まずは三内丸山遺跡に行ってみよう!」


 清風の声には、抑えきれない興奮が滲んでいた。


「うん! 私、今からドキドキしちゃう! 青森の海の匂い、もう最高!」


 爽香は笑顔で応え、その瞳には期待と冒険心が輝いていた。


 三内丸山遺跡までの道のりは、二人の健脚ならあっという間だった。


 自転車のスタンドを立て、二人は遺跡の広大な敷地に足を踏み入れた。朝露に濡れた草が、二人の足元でしっとりと光っている。


 清風は深い息を吸い込んだ。空気が違う。まるで時間が遡っていくような、不思議な感覚が全身を包み込む。


「ねえ、清風……なんだか神秘的な雰囲気だね」


 爽香が小さな声でつぶやいた。その声音には、場所が醸し出す厳かな空気への畏怖が滲んでいた。


「ああ……ここには、縄文人たちの息づかいが今も残っているんだ」


 清風の声には、普段は見せない感情の高ぶりが感じられた。爽香は少し驚いて清風の横顔を見つめる。


 前方には、高さ15メートルもの巨大な掘立柱建物跡の復元物が立っていた。その威容に、二人は思わず足を止めた。


「実は……俺、大学時代に考古学を専攻してたんだ」


 突然、清風が切り出した。爽香は目を丸くする。


「えっ! 知らなかった……! そうだったの?」


「ああ。今まで話す機会がなくてね。でも、ここに来たら、どうしても話したくなった」


 清風の瞳が、懐かしさと情熱で輝いていた。


「縄文時代って、よく原始的な時代だと思われがちなんだ。でも、実際はとても豊かで、文化的な生活を送っていた。この三内丸山遺跡は、そのことを証明しているんだよ」


 清風は遺跡を見渡しながら、熱を帯びた声で語り始めた。爽香は、初めて見る清風の一面に、心を奪われていた。


「例えばこの大型建物。当時の建築技術の高さを示しているんだ。そして、ここで見つかった土器や装飾品の精巧さ。これらは、芸術的感性の豊かさを物語っている」


 清風の声は次第に熱を帯びていく。


「最も感動的なのは、この集落が1500年以上も続いていたことなんだ。それは、持続可能な生活を確立していたということ。自然との共生を知っていた人々だったんだよ」


 爽香は、清風の言葉一つ一つに、深く頷いていた。彼女の中で、縄文時代のイメージが大きく変わっていくのを感じる。


「私たちの自転車の旅も、きっと縄文人に通じるものがあるんじゃないかな」


 爽香が静かに言った。清風は驚いて爽香を見つめる。


「どういう意味?」


「だって、私たちも自然の中を旅して、各地の文化に触れて、そして持続可能な旅を目指してるでしょ? エンジンを使わないエコな移動手段で」


 清風は爽香の言葉に、深い感銘を受けた。彼女はいつも、自分には思いつかない視点を見せてくれる。


「そうだね……爽香の感性には本当に驚かされるよ。縄文人たちも、きっと僕たちの旅を応援してくれているのかもしれないな」


 二人は笑顔で見つめ合った。朝日が昇り、遺跡全体を優しく照らし始めている。その光は、まるで縄文人たちが二人を見守っているかのようだった。


 展示室に入ると、ガラスケースの中に並ぶ土器や装飾品の数々に、爽香は目を奪われた。特に、精巧な模様が刻まれた土器の造形美に、芸術家としての感性が強く刺激される。


「すごい……! これ、全部手作りなんだよね?」


「ああ。しかも、当時は轆轤ろくろもない。全て手びねりで作られたんだ」


 清風は土器を見つめながら、静かに、しかし情熱を込めて説明を続けた。


「見てごらん。この渦巻文様。単なる装飾じゃない。縄文人たちの世界観や、自然への畏敬の念が込められているんだ」


 爽香は、あらためて展示品を見つめ直す。すると、今までは気づかなかった細部が、次々と目に飛び込んでくる。


「なんだか……祈りを感じるね。自然の恵みへの感謝とか」


「そう! その通りだよ。縄文人たちは、自然を征服するのではなく、共に生きることを選んだ。その知恵と精神性は、現代の私たちにも大きな示唆を与えてくれる」


 清風の声には、研究者としての冷静さと、一人の人間としての感動が混ざり合っていた。


「ねえ、清風。どうして考古学から離れちゃったの?」


 爽香が恐る恐る尋ねた。清風は少し寂しげな表情を浮かべる。


「まあ有体に言えば就職難だったんだ。考古学って専門職の口が少なくてさ……結局、一般企業に就職することにした」


 その言葉に、爽香は胸が締め付けられる思いがした。清風の中に眠っていた情熱を知り、その夢を諦めなければならなかった彼の心情を想像する。


「でも、悔いはないよ」


 清風は爽香の表情を見て、すぐに付け加えた。


「だからこそ爽香と出会えたしね。そして今、こうして自転車で日本を旅することができる」


 その言葉に、爽香の目に涙が浮かんだ。


「私も……清風と出会えて本当に良かった。清風の新しい一面を知れて、もっと好きになっちゃった」


 二人は手を握り合い、縄文の遺物たちを見つめる。そこには、5000年以上の時を超えて、人々の願いや祈り、そして暮らしの痕跡が刻まれていた。


「縄文人たちも、きっとこんな風に手を取り合って生きていたのかもしれないね」


 爽香のつぶやきに、清風は深く頷いた。


「そうだね。彼らは協力し合い、支え合って生きていた。その証がここにある」


 展示室を出ると、外では復元された竪穴住居が、朝日に照らされて温かな表情を見せていた。二人は住居の中に入り、当時の生活を想像する。


「ここで、家族が団らんを過ごしていたんだね」


「ああ。炉を囲んで、今日あった出来事を語り合ったり、明日の計画を立てたり」


 清風の言葉に、爽香は自然と目を閉じた。すると、5000年前の家族の会話が、かすかに聞こえてくるような気がした。


「ねえ清風、縄文時代って争いや戦争がまったくなかったんでしょう?」


「そう。驚異的なことだよね」


「なんで今の世界って、戦争だらけなんだろう?」


「そうだね……なんでだろうね……俺にはわからないけど……縄文人が持っていた何か大切なものを、現代人は失ってしまったんだろうね……」


 清風はどこか遠くを見つめていた。


 自転車に乗り込みながら、二人は最後にもう一度振り返る。


「また来たいね」


「ああ、必ず。今度は、もっとゆっくりと時間をかけて」


 ペダルを踏み始めた二人の背中を、縄文の風が優しく押していた。まるで古代の人々が、現代を旅する二人を見送っているかのように。


 この予期せぬ寄り道は、二人の旅に新たな深みを与えることとなった。考古学への情熱を胸に秘めていた清風の意外な一面。それを受け止め、共感する爽香の感性。二人の絆は、縄文という時空を超えた人々の営みに触れることで、さらに深いものとなっていった



 二人は軽快なペダリングで、陸奥湾沿いのサイクリングロードを駆け抜けていく。涼しい朝の空気が頬をなで、髪を揺らす。潮の香りが鼻腔をくすぐり、カモメの鳴き声が耳に心地よい。


 清風は爽香の後ろ姿を見つめながら、胸の内で静かに決意を固めていた。「このサイクリングで、きっと爽香との絆をもっと深められるはずだ。一緒に困難を乗り越え、新しい景色を見ることで、俺たちの関係はさらに強くなる」そう考えると、清風の心は期待で満たされていった。


 一方、爽香は前を向きながら、清風への感謝の気持ちを噛みしめていた。「清風がいなかったら、こんな素敵な冒険、始められなかったかも。彼の計画性と冷静さがあるからこそ、私は安心して前に進める」爽香の目に、清風への愛おしさが宿る。


「ねえ清風、あそこに見える建物、なんだか面白い形してない?」


 爽香が指さす先には、奇抜なデザインの建物が見えた。


「おお、あれは青森県立美術館だ。棟方志功の作品で有名なんだよ」


 清風が答える。その声には、知識を共有できる喜びが滲んでいた。


「へえ、棟方志功って……あの版画の人だよね? ちょっと寄ってみない?」


 爽香の目が好奇心で輝く。


「いいね。せっかくだから、芸術の風にも当たってみようか」


 清風は微笑みながら頷いた。


 美術館に入ると、二人は棟方志功の力強い版画の前で立ち尽くした。


「すごい……なんだかエネルギーが伝わってくるみたい」


 爽香がつぶやく。その目は感動で潤んでいた。


「ああ、まるで版画から魂が飛び出してきそうだ」


 清風も同意する。彼の論理的な頭脳でさえ、芸術の力に圧倒されていた。


 美術館を後にした二人は、再び自転車に乗って走り出す。道中、彼らは様々な会話を交わしながら、絆を深めていった。


「ねえ清風、私たちってさ、なんだか棟方志功の版画みたいかもしれないね」


 爽香が突然言い出した。


「え? どういう意味だ?」


 清風は少し驚いた表情で尋ねる。


「だって、私たち二人で力を合わせると、一人じゃ生み出せないような大きなエネルギーが生まれるでしょ? それって、版画の線と線が重なって生まれる力強さに似てるなって」


 爽香の言葉に、清風は深く感動した。彼女の感性が、自分には思いつかなかった視点を与えてくれたのだ。


「そうだな……爽香の感性には本当に驚かされるよ。俺たち、これからもっともっと素晴らしいものを生み出せる気がするよ」


 清風は優しく微笑んだ。二人の間に流れる空気が、さらに温かいものになる。


 昼頃、二人は青森市場に到着した。市場内は活気に満ち、新鮮な魚介類の香りが漂っている。


「うわぁ、すごい匂い! お腹空いちゃった」


 爽香が目を輝かせながら言う。


「よし、じゃあ海鮮丼でも食べようか。あそこの店、地元の人で賑わってるぞ」


 清風が指さす先には、小さな食堂があった。二人は自転車を停め、中に入った。


「いらっしゃい! 若いカップルさんかい?」


 年配の女将さんが、にこやかに二人を迎えてくれた。


「はい、サイクリング旅行中なんです。おすすめはありますか?」


 爽香が笑顔で尋ねる。


「そうだねぇ、うちの『特製海鮮丼』がいいよ。今朝獲れたての魚をたっぷり使ってるからね」


 女将さんのおすすめに、二人は顔を見合わせてうなずいた。


 程なくして運ばれてきた海鮮丼は、色とりどりの海の幸が艶やかに盛り付けられていた。マグロ、ウニ、イクラ、ホタテ……新鮮な魚介の香りが鼻腔をくすぐる。


「いただきまーす!」


 二人で声を合わせて箸を付ける。


「うまい! これぞ青森の味だね」


 清風が感動した様子で言う。爽香も頷きながら口に運ぶ。


「ねえ清風、私たちの旅って、この海鮮丼みたいだね。いろんな出会いや発見が、彩り豊かに詰まってる」


 爽香が海鮮丼を見つめながら言った。その言葉に、清風は心を打たれる。


「そうだな。そして、それぞれの味が調和して、かけがえのない一つの経験になるんだ」


 清風は爽香の手を優しく握った。二人の目が合い、温かな笑顔を交わす。


 食事を終えた二人は、市場を散策することにした。新鮮な野菜や果物、干物や海藻類など、青森の豊かな食材が所狭しと並んでいる。


「おや、お二人さん。どっから来たの?」


 干物を売る年配の男性が、二人に声をかけてきた。


「私たち、北海道から自転車で来たんです」


 爽香が答えると、男性は目を丸くした。


「まあ! そいでこっから先はどこさ行くだ?」


 男性の言葉に、青森の方言が感じられる。


「浅虫温泉に向かう予定です」


 清風が答えると、男性は嬉しそうに微笑んだ。


「そいがそうか。浅虫さ行くなら、ここの干しイカ持ってけ。温泉の後の酒の肴にゃ最高だぞや」


 男性は干しイカを二人に手渡した。その優しさに、清風と爽香は心を打たれる。


「ありがとうございます! 大切にいただきます」


 二人は感謝の言葉を述べ、男性と別れた。


「青森の人って、本当に優しいね」


 爽香が感動した様子で呟く。


「ああ、人との出会いが旅を豊かにしてくれるんだな」


 清風も深く頷いた。


 午後、二人はねぶたの家 ワ・ラッセを訪れた。巨大なねぶた人形の迫力に、二人は息を呑む。


「すごい……これが青森の伝統文化なんだね」


 爽香が感嘆の声を上げる。


「ああ、民族の魂みたいなものを感じるな」


 清風も感動した様子で答えた。


 ガイドさんの説明を聞きながら、二人はねぶたの歴史や製作過程に思いを馳せる。その後、ねぶた囃子の体験コーナーで、二人は太鼓や笛に挑戦した。


「ハネトぉ! ラッセラー! ラッセラー!」


 爽香が楽しそうに掛け声を上げる。その姿を見て、清風は思わず笑みがこぼれた。


「爽香、すっかりねぶた祭りの雰囲気に浸っているな」


「だって楽しいんだもん! 清風も一緒にやろうよ!」


 爽香に促され、清風も恥ずかしそうに掛け声を上げる。二人の声が重なり、展示室に響き渡った。


 夕暮れ時、二人は浅虫温泉に到着した。老舗旅館に入ると、優しい女将さんが出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ。お二人とも、お疲れさまでした」


 女将さんの温かい言葉に、二人の疲れが癒されていく。


 夕暮れ時、清風と爽香は旅の疲れを癒すべく、宿の食事処に足を踏み入れた。木の温もりが感じられる和室に通されると、二人は静かに座布団に腰を下ろした。窓の外では、夕日に染まった空が美しく広がっている。


 程なくして、着物姿の女将さんが、にこやかな笑顔で料理を運んできた。


「お待たせいたしました。本日の夕食は、青森の郷土料理でございます」


 女将さんの柔らかな声に、二人は期待に胸を膨らませた。


 まず目に飛び込んできたのは、大きな陶器の鍋に入った「けの汁」だった。蓋を開けると、立ち上る湯気と共に、豊かな香りが部屋中に広がった。


「わぁ、いい匂い!」爽香が目を輝かせながら声を上げる。


 清風も鼻を鳴らしながら深呼吸をした。「ああ、


本当だ。なんだか懐かしい香りがするな」


 鍋の中には、たっぷりの野菜と鶏肉が煮込まれていた。キャベツ、人参、ごぼう、大根など、色とりどりの野菜が、優しい味噌の香りに包まれている。表面には、緑鮮やかな刻みねぎが散らされ、彩りを添えていた。


 隣には、大きな貝殻を器に使った「ホタテ料理」が置かれていた。ふっくらと焼かれたホタテの身が、バターのような黄金色の液体に浸されている。香ばしい匂いが漂い、二人の食欲をさらにそそった。


「こちらは、陸奥湾で獲れた新鮮なホタテを使った特製料理でございます」


 女将さんが説明を加える。


「うわぁ、美味しそう!」


 爽香が目を輝かせる。


「ああ、青森の味が凝縮されてるみたいだな」


 清風も期待に胸を膨らませる。


 一口食べると、素朴な味わいが口いっぱいに広がる。野菜の旨味と鶏肉の香り、そして味噌の風味が絶妙なハーモニーを奏でている。


「美味しい……青森の大地の恵みを感じるね」


 爽香がうっとりとした表情で言う。


「ああ、素材の味を活かした料理だ。シンプルだけど奥深い」


 清風も同意する。


 食事の後、二人は露天風呂に浸かった。湯けむりの向こうに、陸奥湾の夜景が広がっている。


 脱衣所で浴衣を脱ぎ、タオルを手に取る。二人とも少し照れくさそうな表情を浮かべながら、お互いの目を見つめ合う。


「行こうか」と清風が優しく声をかけ、爽香はうなずいた。


 混浴の露天風呂に足を踏み入れると、温かい湯が疲れた体を優しく包み込む。清風が先に湯船に浸かり、爽香に手を差し伸べた。爽香はその手を取り、ゆっくりと湯船に身を沈める。


「あぁ……気持ちいい」


 爽香がため息をつく。その声に、清風も同意するように頷いた。


 湯けむりが立ち上る中、二人は肩を寄せ合って座った。温泉の香りが鼻をくすぐり、遠くで波の音が聞こえる。湯船の縁に腕をかけ、二人は目の前に広がる景色に目を奪われた。


 湯けむりの向こうに、陸奥湾の夜景が広がっている。漆黒の海面に、漁り火や遠くの街の明かりが点々と浮かび、まるで天の川が地上に降りてきたかのような光景だ。月明かりが海面を銀色に染め、波のさざなみが光を反射して煌めいている。


「ねぇ、清風」


 爽香が小さな声で呼びかける。


「こんな素敵な景色、今までに見たことある?」


 清風は爽香の肩に腕を回し、優しく抱き寄せる。


「ないね。でも、爽香と一緒だからこそ、さらに美しく見えるんだと思う」


 爽香は清風の胸に頭をもたれさせ、幸せそうに目を閉じた。二人の周りでは湯気が立ち上り、まるで二人を世界から隔離するようだ。


 しばらくの間、二人は言葉を交わすことなく、ただ互いの存在と目の前の景色を楽しんでいた。時折、遠くに見える漁船の明かりが移動するのを眺めたり、星座を探したりしながら、静かな時間が流れていく。


 湯に浸かっているうちに、日中の疲れが溶けていくのを感じる。自転車で走った70kmの道のりの緊張感や苦労が、温泉の力で洗い流されていくようだった。


「明日からまた頑張ろうね」


 清風が爽香の髪を優しく撫でながら言った。


「うん。清風となら、どんな道でも走破できる気がする」


 爽香が答える。


 二人は再び目を合わせ、優しく微笑み合った。湯けむりと夜景に包まれた二人の姿は、まるで一枚の絵画のように美しかった。



「ねえ清風、今日一日どうだった?」


 爽香が優しく尋ねた。清風は少し考えてから答えた。


「正直、予想以上に充実してたよ。美術館での発見、市場での出会い、ねぶたの体験……全てが新鮮で、心に残る一日だった」


 清風の言葉に、爽香は嬉しそうに頷いた。


「私もよ。特に、清風と一緒に過ごせたことが何よりも嬉しかった」


 爽香の言葉に、清風の頬が少し赤くなる。


「そうか……俺も爽香と一緒だからこそ、こんなに楽しい旅ができてるんだと思う」


 二人は顔を見合わせ、優しく微笑んだ。湯けむりに包まれながら、静かに寄り添う。窓の外では、星空が二人を見守るように輝いていた。


 その夜、二人は部屋で地元の日本酒「陸奥男山」を味わいながら、市場でもらった干しイカをつまんでいた。


「ん?、この日本酒、すっきりしてて飲みやすいね」


 爽香が感想を述べる。


「ああ、青森の米と水が生み出す味わいだな。干しイカとの相性も抜群だ」


 清風も頷きながら答えた。


「ねえ清風、明日からの旅も楽しみだね」


「ああ、きっと今日以上に素晴らしい体験ができるはずだ」


 二人は笑顔で見つめ合い、グラスを軽く合わせた。窓の外では、浅虫温泉の夜空に星々が輝いていた。それは、まるで二人の旅の前途を祝福しているかのようだった。


 清風と爽香は、この日の思い出を胸に刻みながら、明日への期待に胸を膨らませていった。青森の風土と人々の温かさに触れ、二人の絆はさらに深まったように感じられた。そして、これから始まる本格的な旅への決意を新たにしたのだった。


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