作戦会議
前回のあらすじ
討伐隊の隊長と出会う
討伐隊の隊長フレアと別れ、ニャゴ丸は夕食を作るために調理場へ向かい、誠志郎たちは用意された居住テントに入った。
テントの中は、簡易ベットが11個置かれているだけで、非常に殺風景な感じがする。
(えぇ~っ、ベットだけ? …………あぁ、そっか、この感じは軍隊だ。討伐隊のキャンプ地は、軍隊の前線基地と同じ扱いかぁ。はぁ、過酷な生活になりそう)
誠志郎が今後の生活を考えていると、呆れ顔のベルがため息をついて愚痴を言う。
「なんとまあ、随分と寂しい部屋ですわね」
「ふむぅ、まあ、キャンプ地の様子から考えて、ベットがあるだけマシかのぉ。そうじゃ、天才のベルなら内装をもっと立派に出来んか?」
「おほほほ、きねさん、全て私にお任せくださいませ。華麗で優雅な内装に、作り変えて見せますわ。あら? ワンコさん、どうかなさいまして?」
「はぁ、その無駄な自信は、どこから出てくるのかなぁ~。と、呆れていただけです」
「自信など身体中から、満ち溢れてきますわ! おほほほ」
「へぇ~、そうですか。天災さんは凄いですねぇ~」
「あぁーっ! ベットが小さいよぉ。ドラコには無理だぁ」
ベルたちが好き勝手に騒いでいたら、レイが軽く手を叩いて注意する。
「はい、みんな! もっと落ち着きなさい。ふぅ、とりあえず寝るためのベットがあれば十分。ですよね? ご主人様」
「えっ、あっ、はい! …………そうだドラコ、ベットが小さいなら2つ使ってみたら?」
「はーい、分かったよぉ~」
「さてと、これからの事について、みんなで話し合った方が良いと思います。ご主人様、作戦会議を開きませんか?」
「うん、そうしよう」
(…………やっぱりレイは、俺よりも仲間をまとめるのが上手い。あぁ、俺の存在意義が薄れていく)
各自、手近なベットに腰掛けると、レイの進行で作戦会議が始まった。
「コホン、では最初の議題、この森についてです。みなさん、今日の移動中で気になった事がありましたか? 私は、少しありましたね」
「へぇ、レイ、何かあったの?」
「はい、ご主人様、実は森の中を索敵していましたら、奥地に進むにつれ精霊の影響力が弱くなっていくのです」
「弱くなっていく? レイ、どういうこと?」
「森羅万象に影響を与えるのが、精霊の力。例えば、炎を使用する敵がいたとしますね。弱い相手なら、火の精霊技で相手の炎に影響を与え、使用不可に出来ます。ですが、強い相手では、火の精霊の影響を受けず独自の力で炎を使用出来るのですよ」
「ふむ、なるほど…………要するに?」
「森の奥地に、精霊の影響を受けない強力な魔物がいると思われます」
「うむ、レイの意見に賛成じゃ。我は、直感力に優れておる。実はなぁ、奥地に向かって移動を続けていると、嫌な感じが強くなって寒気がするのじゃぞ。実際、尾の毛が逆立っていくのを感じたしのぉ」
「おほほほ、きねさん、強い魔物がなんですの? この私がいましてよ。全て殲滅して見せますわ!」
「ベル、油断せん方が良い。ここは異世界じゃ。ご主人様、万一の場合ドラコの本気戦闘が必要になるかもしれん」
「えっ!? そこまでヤバイの? …………みんな、この森には強敵が居るみたいだから、油断しないように」
「「「はい!」」」
(それにしても、ドラコかぁ。ドラコの攻撃は、スイ以外で受け止められる者がいないはず。まぁ、簡単に言うと究極のワンパンマン。頼りになるけど、周囲の被害が大き過ぎて困るなぁ~)
難しい話に飽きて、うたた寝をするドラコを見ると誠志郎は不安に襲われる。
「それでは、次の議題、このキャンプ地についてです。到着して間もないですが、みなさんの感想は?」
「ふむ、意外と強い者が揃っておるのぉ。鑑定技を使って少し調べたのじゃが、キャンプ地にいる者は猛者揃い。元の世界で言うとモン娘と互角、いや、それ以上の者がいるようじゃな」
「ほぅ、私たち伝説のモン娘と互角の者がいたと?」
「ワンコ、心配いらん。全員を鑑定してはおらんが、まぁ、我らの脅威となる相手はいないじゃろう」
「そう…………ですか。では、隊長のフレアと言う者について、どう思います?」
「フレアかぁ、なかなか面白い奴じゃった。まず、あやつは鑑定スキルを持っとる。じゃから、我らの事を知ってビビっておったわ。くっはっはっ、しかも職業がなんと」
「ちょっと待って! きねストップ! 討伐隊では、個人的な事を詮索しないのがルール。だから、俺はフレアの事を知らない方が良いと思う」
「ふむぅ、確かに…………フレアの事は、我の胸にしまっておこう」
きねの話が終わり、次の話題に移ろうとしたときに、ベルがベットから立ち上がって大声を出す。
「そんなことは、どうでもいいですわ! 大問題がありますでしょ。キャンプ地の様子を見た感じ、文化レベルが低過ぎですわよ!」
「ベル、ここは前線基地のような場所だから、贅沢は出来ないよ。都市に行けば、もっと良い生活が送れると思うなぁ。あっ、そうだ。ベルのDIYに期待しているから、頑張って!」
「お任せください、ご主人様! 大工仕事などちょちょいのちょいですわ! おほほほ~」
見栄を切って胸を張り、高らかに笑うベルを見て仲間たちが愛想笑いをする。
テントの中に、すきま風が吹く。
「コホン、それでは次の議題、今後の予定についてです。ご主人様、明日の行動ですが、どうしましょうか?」
「うーん、ニャゴ丸の護衛が俺たちの仕事だから、傍を離れるのはダメだと思う。だから、ニャゴ丸の仕事を見学しようかな」
「ならば、我はニャゴ丸の仕事を手伝うかのぉ。趣味が料理じゃと、ニャゴ丸に話したら手伝って欲しいと言われたのじゃ」
(あっ、思い出した。きねは、趣味が料理で和食の達人という設定だった。と、いう事は異世界に来たけど日本食が食べられる! やったー! きね万歳! きね万歳!)
「えっと、他に話がある者はいませんか? なければ作戦会議を終えたいと思います」
「ねえ、服装の事なんだけど」
「服装ですかぁ…………。ご主人様、私たちモン娘の身に着けている服は体の一部。ですから、他の衣服を身に着けるのは嫌です」
「えっ、着替えが出来ないの?」
「ふふっ、安心してください。衣装替えと言う技で、服装を変えることが出来ますよ」
(衣装替え? …………あぁ、コスチュームチェンジ機能の事かな? 1着3000円の課金要素で、いろいろな服を買ったなぁ~)
「ですが、ご主人様、変更できる衣装は南国コス、水着コス、セクシーランジェリーなど肌の露出が多い物がほとんどです。正直言って、このキャンプ地では似合わないと思いますよ?」
(あぁーっ! そうだった。彼女たち、エロいゲーム出身でした。入手した衣装はセクシー系だったはず。…………どうしよう)
「あっ、待ってください。有りましたね。ミリタリーコスが、丁度いい感じだと思います」
「おぉー! それは良い。助かったぁ~」
「はい、ではさっそく着替えますね…………ちょっと、みなさんもミリタリーコスに着替えるのですよ?」
「はぁ、嫌ですわ。私の趣味じゃありません」
「うむ、その通りじゃ、我も好かん」
「同感ですね」
「ドラコは、もっと動きやすい服が良い」
「スイは、スライムだから着替える意味が無い」
「ライも同じ」
「みなさん、ご主人様の命令ですよ? スイ、ライ、スライムの姿で他人の前に出てはダメですよ。無駄に相手を警戒させますからね。ミリタリーコスを着て、いつも通りの少女姿で出歩きなさい」
「えぇ~っ、めんどくさい」
着替えを嫌がっていると、レイの怒りが静かに高まっていく。彼女が本気で怒ったら、鬼説教が始まる。その事を知っている仲間たちは、手のひらを返して喜んで着替えると言い出す。
レイに説得され? しぶしぶ着替えることを了解したモン娘たちは、一瞬でミリタリーコスに変身する。
目の前で起こった早着替えに、誠志郎が驚いている途中で、ニャゴ丸が泣きながらテントに飛び込んで来た。
きねの姿を確認すると、ニャゴ丸はきねの足に抱きついて泣き叫ぶ。
「助けてニャー、あいつら役に立たないニャー!」
「おや、ニャゴ丸どうしたのじゃ?」
「200人くらいの夕食を作るニャ、でも料理人は僕1人ニャ。手伝いの者が10人いたけど、全く役に立たないニャー!」
「なるほどのぉ」
「あいつら、食材を洗わず、切らず、下ごしらえせずに、鍋にぶち込んだニャ~。肉を焼かせたら、外は黒焦げ、中は生焼けニャ~。あぁー、もぉー、引っ掻いてやりたいニャ!」
「それは酷い、許せんなぁ」
「きね姐さん、料理が得意ニャら、手伝って欲しいニャー、このままだと、夕食が遅れてしまうニャ~」
「うむ、我に任せておけ。共に美味しい食事を作ろうぞ!」
「嬉しいニャーー!」
その後、きねの活躍があって無事に夕食が間に合った。誠志郎たちは、想像以上に美味しい食事を楽しむと疲労のせいで深い眠りに就く。
皆が寝静まった深夜。
不審な敵の気配に気付いて、ワンコが目を覚ます。
ワンコは漆黒狼の特性として、夜になると全能力が50%強化される。その強化された鋭敏な感覚で、誰よりも早く敵の気配に気付く。
(ふむぅ、敵ですか。キャンプ地から少し遠いですが、間違いなくこちらに向かっていますね。
…………数は、およそ500かぁ。乱戦になるでしょうね。とにかくご主人様を起こさないと)
次回予告 レイとスイ、ライ
「スイ、ライ、キャンプ地の男性を刺激しないために、おっさんに擬態したらどうですか?」
「絶対に嫌!」
「異世界で、パワハラ受けて、泣く私。ライ、心の俳句」
「すみません。忘れてください。コホン、次回予告、ワンコが戦います」