14. 次の段階
自分の修行を始めて一週間が経過した。
「どうだ?鍛冶の腕は上達したか?一本、剣を打ってみろ」
ワレリー師匠は俺の修行を見てない。
ちらっとは見ているが、ほとんどそれぞれ別の部屋で打ってるので、俺の修行の進み具合は知らないのだ。
「ええ、自分では上達したと思いますが、一度、ワレリー師匠にも見てもらいたかったんですよね」
そう言って、剣を打ち始める。
剣を打つからには全力を注ぐ。
決して手を抜いたりはしない。
今の自分の打てる最高の一振りを完成させる。
「どうぞ」
剣を差し出す。
ワレリー師匠は無言だった。
工房は完全な静寂に包まれる。
この工房は剣を打つ時の音の僅かな変化も聞き逃さない為に完全防音となっている。
元いた世界の防音の比ではない。
聞く所によると、魔法的な仕組みらしい。
スッと剣を返される。
「見事だ。ここに来た時の剣とは比べ物にならないくらいの出来だ。誇ってよい。儂がここまで褒める事は中々ない」
ベタ褒めだった。
とても嬉しかった。
やっと一人前の鍛冶師として認められたような気がした。
「ふむ、このレベルまで腕前を上げたとなると、もう独立させてもいいかもしれんな」
ワレリー師匠が呟く。
本当に小さな声だったが、鮮明に聞こえた。
「えっ、独立……ですか?」
「うむ。鍛冶レベルが10になった時に言ったであろう。一流の鍛冶師は剣士のクセなんかを見極めてその人に合った剣を打つ、と。その段階に移ってもいいだろう、と思ってな」
確かに。
そんな事を言っていたような気がする。
「で、だ。その経験を積むには相手が必要になる。儂が紹介してもいいが、それだとどうしても相手は一流の剣士になってくる」
一流の剣士には剣を持つ時の違和感に耐えられないだろう。
その人達相手に剣を打つのは無理だろう。
「普通は一人前になって独立した時に新人の冒険者だったり兵士だったりを捕まえて、専属って形を取って経験を積むんだが、お前の場合は経験不足だが、技術は超一流だからな。新人がいい剣を使うと実力が伸びないし、冒険者なら自分の実力を勘違いして死ぬだろう。……さて、困ったもんだ。誰がいいだろうか?」
自分の実力をちゃんと把握した上で経験不足の剣士……か。
ん!
ああ、そういえば一人だけ心当たりがある。
「一人だけ心当たりがあるのですが、確認の為に明日は休みにしてもらえませんか?」
「……分かった。と言っても、やるとしても自分の修行だからな。休みかどうかはお前が決めればいい」
〜〜〜
「……という訳なんだよ」
「はい、事情は分かりました。とりあえず座って下さい」
そう言われ、ソファーに腰掛ける。
ここはレンタローの部屋だ。
そう、俺はレンタローに剣を打たせてくれないか、と頼みに来たのだ。
「俺の為だと思ってどうか……」
「いいですよ」
即答だった。
「えっ、いいのか?ほらっ、色々と危険だと思うのだが。君の使う剣を打たせてもらうんだぞ」
「はい。大丈夫です。もし剣に何かあっても力技で押し切るので、問題ないです」
いや、それを言われると俺の立場がないのだが……。
まあ、でも流石はステータスチートである。
「そうか、それは良かった。ありがとう」
「いえ、むしろ僕の方こそお礼が言いたいです。実は僕の使える剣がなくてですね。僕は力はあるんですが、剣がそれに耐えられないんです」
「えっ、どんな剣も?」
「いえ、名剣とかだと耐えられるかもしれませんが、ユージローさんがさっき言った通り、そういった剣を打てる人は一流の人ばかりで、その剣を使うと実力が伸びないと言われていて、どうしようかと思っていた所なんです」
つまり、レンタローは今の俺と似たような状況みたいだ。
一流の鍛冶師に剣を彼に合わせないで打ってもらえば、解決だとは思うが、恐らくそれは鍛冶師としてのプライドが許さないだろう。
「まあ、とにかく良かった。じゃあ詳しい事はまた後日話しに来るから。今日の所は帰る事にするよ」
「あの、一つ言っておきたいのですが」
「えっ、何?」
「僕の事は『レンタロー』と呼び捨てにして下さい。何か余所余所しいですよ」
呼ばれ方を気にしていたらしい。
「ああ、分かったよ、レンタロー」
「はい。それでは、お気をつけて」
俺はレンタローの部屋を出た。
やはり俺の後ろには専属メイドさんがついて来ていた。




