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勇者の俺より幼馴染が強すぎた件  作者: 丸いドーナツ


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10/13

魔獣王バール

アズール村――。


旅の途中、四人の冒険者たちが偶然この村を訪れていた。


しかし、彼らが目にしたのは、無惨にも破壊し尽くされた村の姿だった。家々は崩れ、道には壊れた荷車や家具が散乱している。四人はその惨状を前に言葉を失い、やがて手分けして生存者を探し始めた。


腰に剣を携えた、熟練の冒険者を思わせる出で立ちの男が、亡くなった村人の前で静かに手を合わせていた。


「これはひどい……。一体、誰がここまで……。魔物だけの仕業とは思えんな。せめて弔ってやらないとな」


男は立ち上がると、仲間の一人に声をかけた。


「サーチェス、辺りに魔族の気配はないようだが、警戒は怠るなよ」


そのとき、細身で長い顎髭を蓄えた男が、少し離れた倉庫の前から大きく手を振った。


「おーい! こっちの倉庫から子供の泣き声が聞こえるぞ! 生き残りがいる! すぐに来てくれ!」


仲間たちが急いで倉庫へ駆けつけると、地下室の入り口を塞ぐように大きな棚が置かれていた。


「サーチェス、頼めるか?」


「ああ、任せろ!」


大柄な戦士のような男が、巨大なハルバードを構えた。


「どりゃあっ!」


ハルバードを勢いよく振り抜くと、地下室の入り口を塞いでいた大きな棚が吹き飛んだ。


床にある扉を引き上げると、地下室には身を寄せ合う子供たちがいた。突然差し込んだ光に驚いたのか、子供たちは互いにしがみつき、怯えた目で冒険者たちを見上げている。


「……子供たちだけでも助けようとしたみたいだな」


紺色のベールをまとった女性が、子供たちの目線に合わせてしゃがみ込み、優しく声をかけた。


「こっちにおいで。怖かったよね。もう大丈夫だからね」


子供たちの無事を確認すると、剣を携えた男が仲間たちに声をかけた。


「この子たちを馬車に乗せて、ひとまず王都へ向かうしかないな。予定変更だ。急ぐぞ」


*


その夜、王都郊外――。


アズール村を襲撃した魔族の男が、およそ百匹の魔獣を従え、王都を目前にしていた。


(勇者はこの街にいる。結界が張られているようだが、この魔獣王バールの前では紙くず同然。今宵は満月……面白くなりそうだ)


バールは王都を見据え、不敵な笑みを浮かべた。


「俺が結界を破る。お前たちは街へなだれ込み、住民を皆殺しにしろ。そうすれば勇者も姿を現すはずだ」


そう命じると、バールは夜空に浮かぶ満月を見上げた。


その瞬間、バールの身体がみるみる膨れ上がり、獣のような姿へと変貌していく。全身を覆う筋肉が隆起し、鋭い爪が伸び、巨大な獣の姿へと変わっていった。


やがて変貌を終えたバールは、天を仰ぎ、空気を切り裂くような雄叫びを上げた。


「グアアアアアッ!!」


その雄叫びとともに、王都を覆う結界が激しく震えた。結界の表面に波紋が広がり、やがて一筋の亀裂が走る。


バールは巨大な爪を振り上げ、亀裂の入った結界に勢いよく叩きつけた。


「どりゃあっ!」


爪が結界に食い込み、激しい光が弾けた。しかし、結界はすぐには破れず、バールの爪を押し返そうとする。


「ほう……なかなか頑丈ではないか」


バールは口元を歪めると、さらに力を込めた。


次の瞬間、亀裂が一気に広がり、結界の一部が砕け散った。


そこには、巨大な穴が開いていた。


「行け! 皆殺しだ!」


その命令とともに、魔獣たちが次々と王都へなだれ込んでいく。


城壁の見張り台から警鐘が鳴り響き、夜の街に兵士たちの怒号が飛び交った。突然現れた魔獣の群れに人々は逃げ惑い、魔獣たちは手当たり次第に襲いかかっていった。


*


俺が目を覚ましたのは、廊下から聞こえてきた激しい物音のせいだった。


「アルク! 起きなさい! 王都が襲われています! 早く支度をして、王都から脱出するのです!」


エクシア様の声だ。


慌ててベッドから起き上がり、新たに手に入れた剣を手に取ると、部屋の扉を開けた。


廊下では、ネグリジェ姿のエクシア様が隣の部屋の扉を激しく叩いていた。


「エクシア様、どうしたんですか!?」


エクシア様は振り返ると、すぐに俺のもとへ駆け寄ってきた。


「アルク! 王都の結界が何者かに破られました。相手は今のあなたでは敵わないほどの強敵かもしれません。すぐに王都を脱出します。今ここで、あなたを失うわけにはいかないのです!」


結界が破られた……?


エクシア様の結界を破るほどの敵が、王都に侵入したというのか。


俺は剣を握りしめ、エクシア様をまっすぐに見つめた。


「戦う前から逃げたら、もう勇者じゃない。俺は戦います。この街を守るために!」


その瞬間、エクシア様の手が俺の頬を打った。


「あなたをここで失うわけにはいかないのです! 言いましたよね。何かを諦めなければならない時が来ると。その覚悟が必要なのは、今なのです!」


エクシア様は俺をまっすぐに見つめ、さらに言葉を続けた。


「私はここに残り、あなたの盾になる覚悟もできています。アルク、あなたの気持ちは痛いほどわかります。ですが、どうか私の願いを聞いてください」


頬に残る痛みとともに、熱くなっていた頭が少し冷静になった。


エクシア様の言っていることはわかる。俺が死ねば、世界を救うという使命も果たせなくなる。勇者として生き残ることも、大切な役目なのだろう。


それでも、このまま逃げるわけにはいかない。


今、この瞬間にも、王都のどこかで誰かが襲われているかもしれない。その人たちを見捨てて逃げたら、俺は何のために勇者になったんだ?


俺はエクシア様を見つめ返し、改めて剣を胸の前に掲げた。


「今ここで逃げたら、俺はもう勇者ではいられなくなります。勇気ある者ではなくなってしまうから……」


そう言い残すと、俺はエクシア様の横をすり抜け、襲撃を受けている街へと駆け出した。


*


街へ出ると、あちこちから悲鳴や怒号が聞こえてきた。兵士たちが魔獣を相手に必死の抵抗を続けている。


そのとき、一匹の魔獣が兵士に飛びかかろうとしているのが見えた。


「危ない!」


俺は剣を構え、魔獣に向けて光の魔法を放った。


「ライトニングレイ!」


放たれた光の閃光が魔獣の身体を貫いた。魔獣はその場に崩れ落ち、襲われかけていた兵士が驚いたようにこちらを振り返る。


「た、助かった!」


だが、礼を聞いている暇はなかった。


別の魔獣が横合いから飛びかかってきたのだ。


俺はとっさに剣を構え、振り下ろした。


「スラッシュエッジ!」


鋭い斬撃が魔獣を真っ二つに切り裂いた。


(……すごい。こんなに簡単に倒せるなんて)


自分でも驚いていた。以前の俺なら、これほど簡単に魔獣を倒すことなどできなかったはずだ。


(レベルアップしたおかげか……!)


そのとき、少し離れた場所から女性の悲鳴が聞こえた。


振り返ると、倒れた荷車の陰で、一人の女性が魔獣に追い詰められていた。


俺は剣を握り直すと、迷わず駆け出した。


*


(この街に厄介な奴が来たみたいね。エクシアがあんなに慌てていたんだから……)


私は建物の屋根から屋根へと飛び移りながら、魔獣たちの中にいる強敵を探していた。


(アルクを、まだ危険な目に遭わせるわけにはいかない。私が倒す)


街を見渡していると、ひときわ大きな獣の姿が目に入った。その周囲には、多くの魔獣が集まっている。


「いた。あの集団の真ん中にいる奴ね」


私は屋根の上から手をかざし、魔法を放った。


「メテオアロー!」


無数の光の矢が魔獣の集団を容赦なく射抜いていく。魔獣たちは次々と倒れていったが、中央にいた巨大な魔獣には、傷一つつかなかった。


(……へえ。あれを受けても無傷なんだ)


私は屋根から飛び降り、魔獣のボスの前に降り立った。


ボスが私を見据えた。


「ほう。あの村の偽勇者のジジイと同じ魔法を使うとはな。勇者は女だったようだな」


(この魔獣、今なんて言った……? あの村って……まさか!)


「今、なんて言った……。貴様、村長に何をした!」


「ふん。ジジイの死期が早まっただけだろ。貴様もすぐに後を追わせてやる」


両手の紋章が光り出し、私の周囲に紅い光が集まり始めた。


「死になさい」

読んでいただき、ありがとうございます。


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