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祟られ体質の俺、疫病神仕込みの呪術で、世の中の不幸を無双します!  作者: 書仙凡人
新天地での不幸編

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三十五の巻 巫蠱師

  [三十五]



 幸太郎と指宿は急ぎ、須藤達がいたであろう林の方へと向かった。

 じゃが、そこに須藤と野上の姿は無かったのじゃ。

 2人は慌てた表情で周囲を見回したが、誰もおらぬ。

 辺りは不気味な静けさだけが漂っているだけであった。

 時折、セミの鳴く声が小さく聞こえていたが、それだけじゃ。

 しかし、かといって嫌な霊的気配もない。

 この感じじゃと、恐らく、妖魔や悪霊の類はおらぬじゃろう。

 ふむ、妙じゃな。須藤はさっき、化け物と叫んでおったが……はて?

 幸太郎もそれが気になるのか、周囲を静かに見ているところじゃ。


「おい、いないぞ……どこに行ったんだ! さっきまでそこにいた筈なのに……須藤さぁん! どこにいるんですかぁ! 野上刑事! どこですか!」

 

 指宿は大きな声で呼びかけた。

 じゃが、一向に言葉は返ってこなかった。

 指宿は不安気に幸太郎を見た。


「どこに行ったんだろう……さっきの悲鳴は確かに須藤さんなんだが。三上君は須藤さん達を見たかい?」


 幸太郎は頭を振る。


「いいえ、見てませんよ。指宿さんと事件現場を見てましたし」


「だよな。もう一度、呼びかけてみよう。須藤さぁん! 野上刑事! どこに行ったんですか! 返事してください!」


 じゃが、結果は同じであった。

 指宿は身構えつつ、周囲を見回した。


「おい、三上君……なんか様子が変だぞ。なんで返事しないんだよ……嫌な予感してきた。ど、どうする?」


 幸太郎はそこで林の前へ行き、しゃがみ込む。

 そして、地面に目を凝らしたのじゃった。

 ふむ、何かを見つけたようじゃな。

 幸太郎は指宿を手招きした。


「指宿さん、ちょっとこっちに来てくれますか」


「何か見つけたのかい?」


 指宿が来たところで、幸太郎は地面を指さした。


「ここなんですけど、雑草が踏み潰されてますよね。傷み具合からして、真新しい感じです。恐らく、須藤さんと野上さんは、ここから林の中に入ったんでしょう。どうします? 行ってみますか?」


 幸太郎はそう言って、林の奥に視線を向けた。


「なんだってぇッ! って、君……結構冷静だな? あんまり驚かないタイプか?」


 お前が大袈裟に驚きすぎなだけじゃ。


「いや、驚いてますよ。俺はあんまり表情に出ないだけです。で、どうしますか?」


「行くに決まってる。というか、行こうぜ。須藤さん達の身に何かあったかもしれないんだ。でも、すぐに霊術を使えるよう、準備はしとこう」


「了解です」


 そして幸太郎と指宿は、林の中へと足を踏み入れたのじゃった。

 やや鬱蒼とした薄暗い林を2人は進んでゆく。

 すると程なくして前方に、地に倒れている者がいたのじゃった。

 それは須藤であった。

 須藤は仰向けで倒れていた。動く気配はない。

 2人は慌てて、須藤の元へと駆け寄った。


「す、須藤さん! だ、大丈夫ですか! どうしたんですか、一体!」


 指宿は須藤の肩を揺すった。

 しかし、微動だにしない。

 息はしておるが、完全に気を失っているようじゃ。


「目を覚まさないな。チッ、一体、何があったんだよ……妖魔の気配なんて全然しなかったのに……ン? あ、あれは!」


 指宿はそこで前方へと視線を向けた。

 すると、やや離れた所で、仰向けで倒れている刑事の野上を見つけたのじゃ。

 須藤と同様、瞼は閉じており、気を失ってる感じであった。


「の、野上さんまで……クッ、一体何があったんだよ。この林の中に、四津谷さんを吹っ飛ばした、あの化け物がいるのか……」


 指宿はこの突然の状況を前にし、周囲をキョロキョロしながら、呼吸が荒くなっていた。

 若干パニックを起こしているようじゃ。

 コイツはあまり、そういう経験がないのかもの。

 ちなみに幸太郎は堂々としたもんじゃった。

 潜ってきた修羅場の数が違うからのう。

 我が言うのもなんじゃが、こ奴はある意味では相当な猛者じゃからな。ほほほほ。

 まぁそれはさておき、幸太郎はそこで腰を下ろし、須藤の首筋に手を当てた。


「恐らく、須藤さんは気を失ってるだけですね。脈も正常だと思います。若干、擦り傷がありますが、そう大した怪我でもないでしょう。もしかすると、眠らされてるだけなのかもしれませんね」


「え? 眠らされてるだって……なんでまた……」


「それは勿論……何者かの思惑があるんでしょう」


「お、思惑? どういう事だよ」


「そのままの意味ですよ。というか……俺達はどうやら、ここに誘い込まれたと見て良さそうです。ほら、そこを見てください。変なのがいますからね」


 幸太郎はそう言って、野上が倒れている所を指さした。

 すると野上の傍には、いつの間にか、群青色の顔をした不気味な猿が置物のように立っていたのじゃ。


「誘い込まれたって……え? なッ!? おい、なんだよあれ……」


 その猿はチンパンジーのような姿じゃが、毛並みはドス黒く、地肌は真っ青じゃった。

 また首には、腐りかけた蝮みたいな蛇が巻きついており、今は威嚇するかのように、大きな口を開けておるところじゃ。

 見るからに、普通の猿や蛇ではない。

 恐らく妖魔の類じゃが……少し様子が変じゃった。

 なぜなら、この猿や蛇からは、生気や霊気の類を全く感じぬからじゃ。

 そう、死骸と言っても差し支えないモノだったのである。

 幸太郎も既に、それに気づいていよう。

 ふむ、面白い事になってきたのう。

 しかし、なんじゃろうな、この妙な猿と蛇は……。


「なんかヤバくね……ど、どうしよう」


 指宿は猿を見るや、大きな目をして少し後退った。

 逃げの体勢に入っておるのう。

 じゃが、もう遅いぞよ。


「あ、指宿さん、ちょっと待った! 後ろを見てください」


 幸太郎の指摘を聞き、指宿は恐る恐る振り返った。


「え? 後ろって……なッ!?」


 するとそこには、同じような猿が2匹立っていたのである。

 完全にしてやられたのう。


「おいおいおい……もう勘弁してくれよ。同じような気味悪い猿が、他に2匹もいたのかよ。クソッ、もう逃げ場ないじゃないか」


 指宿は項垂れ、泣き言を呟いていた。

 コイツは案外ビビりなのかものう。


「そうみたいですね。まぁ要するに、俺達はもう、敵の罠にハマってしまったんですよ。敵ながら、なかなかの策士です」


 幸太郎は何でもない事のように、淡々とそう告げた。

 肝が据わっとるわ。

 伊達に長年、不幸に揉まれてないからのう。ほほほほ。


「さ、最悪じゃないか……って、君……こんな状況なのに、全然驚いてないね? どういう神経してんだよ。それはともかく、どうしよう……俺、妖魔との戦いは苦手なんだよな。悪霊系なら結構場数踏んでんだけど……」


 やはりコイツは、妖魔退治の経験があまりないようじゃ。

 足手まとい確定じゃな。


「こうなった以上、やるしかないでしょう。ですが……コイツ等は恐らく、単独では動けない筈です」


 ほう、幸太郎の奴、もう見抜きおったか。

 流石じゃな。

 化け物に気を感じぬ以上、考えられる事は限られるからのう。


「え? どういう事?」


「コイツ等には指揮官がいるって事ですよ。オイ、そろそろ寝たふりはやめたらどうなんだい、野上さんだっけ?」


「はぁ? 野上さんが……て、ああ!?」


 指宿が驚く中、野上はゆっくりと立ち上がる。

 そして、人が好さそうな笑みを浮かべたのであった。

 ふむ、やるな、幸太郎。

 コイツが怪しいと、よう見抜いたわ。

 これは我もわからなんだぞ。

 野上は衣服に付着した土を払うと、(おもむろ)に口を開いた。


「やるなぁ、君……俺が怪しいと気付くの早すぎだよ。もう少し泳がす予定だったのになぁ……参った参った」 


 頭をポリポリ掻きながら、野上は惚けたように答えた。


「アンタはもう少し、警察の現場検証を見ておいたほうが良かったね。強盗や殺人の現場で、普通は赤い印なんて付けないんだよ。血痕がある場合、紛らわしい色だからな。だから、よっぽどの事がない限り、大概は白か黄色がファーストチョイスらしい。残念だったね」


「へぇ……なるほどね。まぁいい、お陰で予定が狂っちまったよ。お前が気付きそうだから、須藤とかいう姉ちゃんを急いで気絶させる事になっちまった。何事も、そう上手くは行かないもんだねぇ」


 野上はそう言うと溜息を吐いた。


「その耳にしている無線イヤホンで、俺達の会話を盗聴していたんだろ。芸が細かい。ところで……アンタ、一体何者だ? 刑事ではないな」


「俺か? 俺はある方に雇われた呪術者さ。君達と同じな」


「雇われただって……誰にだよ!」


 指宿は野上を睨みつけた。

 

「それは言えないねぇ。だが、正体を見破ったお礼に、コレは教えてやろう。ある方からの御命令でね、土地開発事業部の道師を病院送りにして来いと言われてるんだよ。君達はそこの道師なんだろ?」


「へぇ、そんな依頼を受けていたのか。確かに、俺達はそこの道師だが……なんか気に入らないな」


 なるほど……こりゃ確かに、なかなかのお家騒動のようじゃ。

 貴堂沙耶香も大変じゃのう。


「ま、そういうわけなんでね……ここからは依頼主の為に、仕事をさせてもらうとするよ」


 野上はそこで大きく両手を広げた。

 するとその直後、猿達が動き出し、幸太郎達へ徐々に近付いてきたのじゃ。

 それは獲物を追い詰めるかのような、ジリジリとした動きであった。


「俺の正体を見破ったのは褒めてあげるよ。だが、形勢はこちらに分があるね。上手く君達をここへ誘い出せてよかったよ。このまま依頼をこなすとしよう」


 指宿は生唾をゴクリと飲み込み、口を開いた。 


「み、三上君……この猿達、死んでる筈なのに動いてるぞ! って事は、これは反魂の術か!?」


 そう思いたくなるのもわからんではないが、違うんじゃな。

 これはまた別の術じゃよ。

 幸太郎はもうわかっていよう。


「いえ、違いますよ、指宿さん。これはそういう術じゃないです」


 それを聞き、野上の眉が少し動いた。


「へぇ……よくわかったね。なかなかの見識をお持ちのようだ。大概は反魂の術と勘違いするんだがな……」


 幸太郎はそこで不敵に微笑んだ。


「アンタ……変わった術を使えるんだな。死骸を動かしてるのに、霊的な力をほとんど感じない。だが1つだけ、霊的な気配をほとんど感じさせずに死骸を動かせる術があるのを俺は知ってるんだよ。アンタ、死骸を操る為に三尸(さんし)モドキを仕込んだな。さては……巫蠱師(ふこし)の類か?」


 野上の目は大きくなった。

 どうやら当たりじゃな。

 三尸の巫蠱術は気配を消すらしいからの。

 そういえば以前、幸太郎は厄落としの場で、どこかの巫蠱師と相まみえた事があったな。

 決着はつかなんだが、あれもタチの悪い呪術者じゃったわ。


「巫蠱師だって……まさかとは思うが、呪術業界で有名な裏の仕事専門の呪殺業者じゃないだろうな」


 指宿はちょっと引き気味に、野上を見ていた。

 ふむ、この感じじゃと、今の世にも悪名が高い巫蠱師がいるようじゃ。

 案外、コイツもその1人かものう。


「巫蠱師の中には、三尸モドキを用いて、死骸を自在に操る秘術もあるそうだね。その昔、その術を使って傀儡師(かいらいし)として生きていた者もいるようだし。まぁ野上さんが、どういう系譜の術者かは知らんがね」


 野上は目を細めた。


「へぇ……君、我が一門の三尸蟲(さんしちゅう)の秘術を知っていようとはね。何者だ、一体……」


「俺か? 俺はただの不幸な男さ」


 しかし……巫蠱師か。いたのう、その昔も。

 巫蠱の術は、業の深い呪術が多いからな。

 古代の大陸では巫蠱の呪術が流行り、大変な時期があったと、以前誰かから聞いた事があるくらいじゃ。誰かは忘れたがな。

 そ奴は確か、巫蠱の乱などと云っておったのう。

 なんでも、武帝の時代に巫蠱の術によって、長安の都を大混乱に陥らせた事件があったそうじゃ。

 巫蠱の呪術は相手を呪い殺すモノが多いからのう。

 蟲を共食いさせる蠱毒のような蠱術の他に、神仙を目指し、三尸蟲(さんしちゅう)を操る者もいたと聞く。

 ちなみに三尸とは、人の体内にいるとされている三つの蟲じゃが、こと呪術に関してはそうではない。

 ここで言う三尸とは、ある種の秘術によって作り上げられた蟲でもあるのじゃ。

 つまり、人が創り出した蟲なのである。

 本当に人という奴は、目的の為には手段を選ばぬというかなんというか……欲が深いのう。

 おまけに、それを死人に仕込み、死体を移動させる送尸術として扱う術者もおったそうじゃ。

 しかも、失敗して凶暴化した死体もおったようじゃしの。始末に負えんわい。

 そういえば以前、この話を幸太郎にしたら、「それ、キョンシーやんけ。香港の古い映画で、そんなの見たぞ」とか言うておったな。

 ま、我には何のことかサッパリじゃがな。

 さて、それはともかく、今は幸太郎達じゃ。

 敵は巫蠱師1人と眷属が3匹といったところか。

 面白うなってきたわ。ほほほほ。

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