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星火燎原  作者: 更紗 悟
第六章【頂に望む星】
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始まりの予兆

 

     2


 ダウスの制圧も落ち着き、ようやく一息つけるかと思われた頃。シンキュウまで駆け込んできた伝令によって、レクトは敵襲来を知らされた。

 旗印から、どうやら現れた敵は真穿だと思われると聞き、レクトは緊張した。

 まだ三日しか経っていない。仮にサイトが反乱を知ってすぐにとんぼ返りしようとしても、行動を起こすには問題がある。攻略途中であろうツークス勢を放置すれば、背中を狙われるからだ。遺恨の深い両国の間で、そうすぐに和睦はなるまい。追撃を警戒しつつの行軍ではそう速く動けない。まだ、サイト達が降りてこられるはずがない。

 ならばこの部隊はどういう事か? 率いている者が女と聞き、その正体にレクトは思い当たった。

「――――ダウスに残っていた部隊か。確か、ジル・月とかいう女の十獅がいたな」

 副官代理として残っていたスクルはすでに亡き者となったと聞いている。率いているのが十獅の一人で女であるならば間違いないだろう。

「それはよい。問題は、いつ合流するか、だ」

 サイト達もいつかは戻ってくる。その時機により、叩いておくべき時機が変わる。

 レクトは冷静に、敵本隊の帰還までの時間と、こちらの最大戦力が整うまでに必要な時間を、秤にかけていた。戦力を最大近くまで回復させるが、向こうの戦力が出揃う前。その時機を見計らって一気に打ち破る。そのまま勢いに乗って、敵本隊を叩く。

「いいのか、そんな悠長な事を言っていて」 と、エヌイは不満そうだった。即座に叩き潰せば良いと言う。

「潰すのは容易だが、こちらも多少は損耗する。そもそも、ダウス陥落の後、十分に体勢を整えられていない。最大限休ませておき、動く時は機を見極め、一気に潰す」

 レクトの言葉に、エヌイは首肯しなかったが、反論もしてこない。

「放置しておくのは不安か?」

「いや、あんな少勢はどうでも良い。それよりも気になることがある……」

「何だ、お前がいうと不穏だな。なんの話だ?」

 反乱には関係ないのだがと、エヌイは言いよどんだ。「最近、()()の動きが頓に活発になっている」

「あれ、か……。そういえば、今日も少し揺れていたか」

 レクトは、朝方地面が微かに揺れていた事を思い出す。あれの目覚めかと騒ぎ立てるほどではないが、感じることができるほどの揺れが最近少し増えている。

「まあ、その時が来たのなら仕方がない。いつかは迎えるというのなら、それが好きに生きている時に起きるのなら、まだ気が晴れるというものだ」

 エヌイはレクトの顔を見つめ、ふと、何かに思いついたような表情をとった。

「……レクト、お前?」

「何だ?」 とレクトは軽く応じる。

「まさか、それで……。いや、何でもない……」

 歯切れが悪い。この女は隠し事がある時は完全に隠蔽できる。あえてそうせず、匂わせる事で、こちらに何か気付かせようとしているようだ。

 何を伝えたいのかと考えた所、もしや、と思いつく事があった。だが認められなかった。まさか、本当は自分がそんな事を望んでいるなんて――――。

「そんな思いでいると、本当に足元を掬われるぞ」

「ふん、できるものなら、やってみろ、だな」

 レクトが言った、その時。

「分かった。叶えてあげるわ、その願い」 と、別の声が割って入ってきた。

 驚愕の表情で、レクトは振り返る。そこには、一人の女が立っていた。

 反射的に剣の柄に手をやり、構えながら、その声の主が誰であるかに気が付いていた。

 脱出した真穿の部隊を率いていたのは女であると言う。隊長格である十獅に女は一人。だが、真穿と行動を共にしたことがある女は、他にもいる。

 そして今、さも自分がシンであるかのように、悠然と立っている女がいる。

 状況を諒解したらしいエヌイは、淡々と言った。

「ソンヴ・識。全ては貴女が描いた通りか……」

 旧友に出会った時のように、ソンヴ・識はにこやかに手を振った。



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