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異訪豚  作者: 丸樹
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報告

初めてご感想をいただきました。

本当にありがとうございます。

「あの山脈を越えてきたんですか!?」

「おう」

「あっはっはっは、やっぱりそういう反応になるよなあ。私もそうだったよ」


朝食を済ませ、ブンザバンザとカランは里長ダルケイン宅に再び向かう為に歩いていた。ミミンは途中まで同行するとのことで二人に付いてきている。ちなみにタロはカラン宅で留守番だ。


「あの山脈って個人が通ってこれる場所だったんですね・・・」

「ああミミン、これはブンがタロに乗っていたからできたことだ。私達が行っても同じようにはならないよ」

「鼻が良いんでしたっけ。それでさらに霊馬(れいま)に乗って、ですか。確かに真似したくても出来ないかもですねえ」

「俺としては此処までそうしんどい目にも遭ってないからなあ、なんと言ったもんか。確かに故郷の連中も好き好んで近づく山じゃなかったが」


故郷の人々が山脈に近づかなかったのは、近づく必要性を感じなかったからだ。

衣食住がそれなりに足り生活圏を広げる気もないのどかな故郷では、魔獣に出くわす危険を冒してまで山に登ろうという発想自体が起きなかった。それこそブンザバンザのように山脈の向こう側に用事があったりしない限り、登る意味がないのだ。


「昔、私達の祖先もあの山々にほど近い場所に住んでいたことがあったそうだ。しかしあまりに魔獣の被害が深刻で人死にも多かったせいで、山の恵みを諦めて乾いた平地を渡りこの森にたどり着いた、と伝えられている」

「まあでかい魔獣は多かったな。『首長の骨帽子(ホウホウカシャク)』とか『陽追い丘(テンゴイ)』とか、それこそカランの戦ってた『怒れる木の鬼(トラキキ)』とか」

「やっぱりあっちにもいるんですね、『怒れる木の鬼(トラキキ)』。他の二つは名前は知ってますが私は見たことないです」


魔獣の名前が通じることにブンザバンザは少し安心した。カランには『怒れる木の鬼(トラキキ)』という名前か確認していなかったが、知っている名称が故郷以外で全く通用しなかったら大変だろうと思っていたのだ。反面、文化的な交流が一切なかった未知の地で自分達の使う名称が通じることに驚きもする。


「こっちじゃまったく別の呼び方かも、なんて考えてたが、そういう感じでもないのか」

「呼び名が決まったのは大昔の事でしょうし、もしかしたらブンザバンザさんのご先祖様と私達のご先祖様がもともと同じ文化圏にいた、とかそういうお話かもしれませんね」

「ふうむ」

「では私は警備の仕事に向かいますので、ここで失礼します」

「ああ、ありがとうミミン。仕事頑張るんだよ」

「はい!」


ミミンはカランに元気よく返事をし、門があった方向へ小走りで去っていく。カランは少しの間その姿を笑顔で見守り、やがてまた歩き始めた。


「あんた、好かれてるんだな」

「元気で良い子だろう?私のかわいい後輩だ。戦士としてはまだまだだが」


機嫌よく話すカランは豚人(オーク)視点で見てもいい姉貴分をしているように見える。きっと戦士団団長としても信頼が厚いのだろうと、見えてきた里長宅に歩を進めながらブンザバンザは考えていた。











「おお、ブンザバンザ殿もご一緒か。さあどうぞ掛けてくれ」


昨日と同じ部屋に通され、カランに続いてブンザバンザもすすめられた椅子に隣同士で腰掛ける。椅子は品が良さそうだが小さく、ブンザバンザの巨体を支えられるか不安になるがそう文句も言えない。せめて軋ませないようにしようとブンザバンザが意識していると、ダルケインが低いテーブルを挟んだ向かい側に座った。


「さて、昨日帰ったばかりだと言うのに呼びつけて悪いな、カラン」

「とんでもありません、長。詳細な報告は出来るだけ早くと思っておりました。ブンザバンザは報告内容に関わりがあったので、せっかくなのでと同行を願った次第です」


昨日この場に来た時もそうだったが、カランは仕事とそれ以外とで口調にしっかり差をつけているようだ。故郷では合わせる顔皆親戚のような気分だったブンザバンザには難しいことかも知れない。


「うむ。お前が部隊と別れるまでのことは各戦士団員から聞き取りをしたので承知している。・・・トロゥの行動が混乱の原因だそうだな」

「はい・・・団長として、団員の指導不足に恥じ入るばかりです」

「ううむ・・・」


そう言ってカランは目を伏せ、ダルケインは疲れたように息を吐く。

そうしたところで、ダルケインの妻であるエバが部屋に入って来る。テーブルに謎の焼き菓子がたっぷりのった皿と紅茶と思しき温かい飲み物が入った茶碗を四つ置き、自分はダルケインの隣に座った。


「おお、こりゃどうも。・・・・・トロゥって、あの髭ののっぽかい?カランの・・・あー、あれだって言う」

「そうだ。身内の恥だが、『怒れる木の鬼(トラキキ)』撃退の折、あいつが突出したために包囲の輪が崩れたんだ。慌てて補助に動いた団員、レレとカイヌスというんだが、その二人が怪我をした」

「魔獣の狙いが動けなくなった二人に向きかけたので、撤退の時間を稼ぐために止むを得ずカランが注意を引いて一人離れた・・・そう聞いている」

「はい、間違いありません」

「お前の実力は里の全員が認めるところだが、綱渡りだったな。しかしその働きのおかげで魔獣は里から離れ、死人も出なかった。本当によくやってくれたぞ」

「里の戦士ですから」


にこりと微笑むカラン。それにダルケインとエバが微笑み返す様には、深い信頼が感じられた。


「それでだな・・・お前を追った『怒れる木の鬼(トラキキ)』についてだが。団員達にも聞き取りはしているが、念のためにお前からも特徴を聞いておきたいというのが、今日の本題なんだ。どう見えた?」

「特徴、ですか。・・・・とても大きく見えました。今まで見てきた『怒れる木の鬼(トラキキ)』の中でも特に大きいと思います」

「うむ、他には?」

「漂う『魔』が他の個体よりもかなり濃かったように見えました。気にはなりましたが戦いながら、逃げながらだったのであまり詳しくは・・・っと、そうだ、ブン」

「んむ?」


まさかここで自分に話が振られるとは思っていなかったブンザバンザは、慌てて頬張っていた甘い焼き菓子を紅茶で飲み下す。


「なんだ?」

「あなたは狩人なんだろう?獣を見る目が育っている。それに魔獣を見た経験も多そうだ。私を追っていた『怒れる木の鬼(トラキキ)』、あれについて分かることはないか」

「分かること・・・」

「君は狩人なのか。私はカランを追っていた個体に心当たりがあるんだが、確信が欲しくてな。どうだ、小さなことでも良い」

「・・・・・確かにでかかった。俺の良く知ってる『怒れる木の鬼(トラキキ)』の倍くらいはある。あれは雌だな、体格は普通の雄よりかなり良いが顔に赤みが少なかった。手先足先の禿げや毛の長さと痛み方、肌のひび割れからして、相当長く生きてる。ちゃんとした群れがあるなら子供も沢山産んでる筈だ」

「・・・・そうか」


ブンザバンザの話を聞いて、何やら納得がいったらしいダルケインはふうと息吐き、背もたれに寄り掛かった。


「長、心当たりとは?」

「カランも話は聞いたことがあるだろう。『木の母』だ」

「!あれが・・・」

「間違いないだろう」


ブンザバンザの知らない単語が出てきた。

一人重苦しい空気を出し始めたダルケインを見て、隣に座るエバが指で小突く。


「あなた、ブンザバンザさんに説明」

「む、そうだな。この森には多くの『怒れる木の鬼(トラキキ)』がいるが、その中に一匹、大昔からずっと棲みついている雌の個体がいる。その個体こそ、私達が『木の母』と呼ぶ存在だ」

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