朝の訪問者
「美味い」
水瓶にたっぷり貯めた水と草の汁を泡立てたもので水浴びを済ませ、ブンザバンザはカランと朝食を摂っていた。
昨日も食べた堅焼きのパンに、蜜色のどろどろした食品がたっぷり乗っかって出てきた。見た目は正直なんとも言えなかったが、いざ食べてみると驚くほど甘い。昨晩飲んだ酒に似た風味に、同じ食材が使われていると想像できた。
「美味い、美味い。これもあの赤い実か?」
「そうだよ。煮詰めるとさらに甘くなるんだ。パンに合うだろう」
「合う合う。こんなの初めて食った。こりゃあこの里にいる間は食事だけで相当幸せな思いができそうだ」
「ふふ、面白いなあ、あなたは」
「そうか?」
そうしてのんびりとした時間を過ごしていると、しばらくして自分達とは違う匂いが空気に混じりすんすんと鼻を鳴らす。カランに来訪者だろうか。
種族として嗅覚に優れないカランは急にどうしたのかとこちらを見て首を傾げている。
「なんだ?」
「多分、お客だな」
「お客?」
「失礼しまあす!カランさあん!」
ブンザバンザの想像通り、カランにお客のようである。彼女は少し目を丸くしてから笑って、はいはいと返事をしながら家の扉に向かう。
「やあミミン、おはよう」
「おはようございますカランさん!朝からすみません」
訪問者は精霊人の女性だった。背はカランより低く、精霊人らしく整った顔立ちはカランと比べてやや子供っぽい雰囲気を感じさせる。いかにも溌剌とした空気を纏うその女性は、どうやらカランとは知り合いのようだ。ブンザバンザもどこかで顔を見たような気がする。
「どうしたんだ、何か用事か?」
「里長から伝言で、今日のいつでも良いから外に出ていた間の詳しい話を聞かせてほしいと。それ以外は一日休むようにと言っていました」
「そうか、報告は了解した。しかし休みかあ・・・体の方はもう大丈夫なんだがな」
「駄目ですよ!カランさん普段から頑張ってるんですから、たまにはしっかり休憩しないと!」
「ふむ・・・まあ、そういうことならお言葉に甘えようかな。今朝食の途中なんだ、まだジャムが残ってるけど、ミミンも食べていくかい?」
「いいんですか?是非いただきます!カランさんが作ったジャムが一番おいし・・・・わあっ!?」
玄関の様子を覗き込んでいたブンザバンザに気付いたらしい。口と目を大きく開いて驚愕を伝えてくる。
「えっ!?誰!?」
「どうも」
「ブンザバンザ殿だ。ミミンは昨日会っただろう」
「ブンザバンザ・・・って、ああ!よく見たら昨日の先祖返りの人!」
「ブン、この子はミミンだ。昨日森で会った捜索隊の中にいた」
「ああ、どうりで見覚えがある」
言われてみれば昨日自分を取り囲んだ面々の中に、弓を構えて真剣な顔をした彼女がいたのを思い出す。
紹介を受けたミミンは、途端に気まずそうに身体を縮こまらせる。
「えっと・・・ミミン、です。戦士団に所属してます・・・あの、知らぬ事とは言え昨日は失礼しました」
「いいよいいよ、別にあんたには攻撃もされてないしな」
「あ、えとそれじゃ・・・トロゥさんが失礼しました。止められなくって・・・」
「それこそあんたが謝ることじゃないだろ」
「すみません・・・カランさんを助けていただいたのに」
先程の快活さはどこへやら、すっかり小さくなってしまったミミンにブンザバンザの方が罪悪感を感じてしまう。親に怒られるのを怖がるようなその様子は、まさしく子供のものだ。
「まったく、トロゥにも困ったものだ。下の者にこんな謝罪をさせるとは」
「いえ、そんな・・・えっと、ブンザバンザ、さんはどうしてこちらに?」
「おお、カランが部屋を貸してくれてな。昨日から厄介になってるんだ」
「え!?と、泊まったんですか!?」
「お?おう、そうだけど」
「・・・・・むぅ」
ミミンはブンザバンザの返答を聞き、面白くなさそうに唇を尖らせた。カランを慕っている風だったので、憧れの存在が他人に良くしていて拗ねている感じなのかな、とブンザバンザはぼんやり考える。カランより年下だという予想は当たっていそうだ。
「そうだ、ブン。里長への報告、あなたも一緒に来ないか」
「俺も?」
「報告の中身にはあなたもそれなりに関わっているからな。それにせっかく休みを貰ったんだ、報告が済んだらそのまま里の中を案内してあげよう」
「おお!そりゃ良い、ぜひ頼む!」
「よしよし、それじゃ食べ終わったら早めに出よう。ミミンはどうする?私達と来るか?」
「私はこの後門警備の担当なので、すぐに失礼させてもらいます」
「そうか。では朝食は早めに済ませよう、ブンもミミンもおいで」
「・・・あのう、カランさん、そのブンっていうのは?」
「ブンザバンザ殿のことだよ。彼とは友達になったからな、愛称呼びを許してもらってるんだ」
「・・・・・むうぅぅ」
何故か得意げなカランに対し、ミミンはさらに面白くなさそうだ。ブンザバンザに向ける視線はじとっと恨めし気で、まさしく拗ねた子供そのものである。
ブンザバンザとしてはただの下宿人なので、ミミンの憧れらしいカランを独り占めしようなどという考えは間違っても無い。むしろ個人的な要望に付き合ってもらっているのにも少々心苦しいところがあるくらいだ。
とは言っても、今それを目の前で機嫌悪くこちらを見てくる少女に当人が言っても効果は薄いかもしれない。カランから何か言ってほしいが、彼女は早々に食卓に戻ってしまった。
「ええと、じゃあとりあえず食いに行こうか」
「・・・・・・・・・・はい」
せっかくの旅、出会いは楽しいものにしていきたいが、この精霊人の少女とはうまくやっていけるだろうか。少し不安なブンザバンザであった。




