第64話 「や、やめろー!?」byマイルームさん
三日後――つまりは前から言っていた歌姫たちが華麗にデビューするイベントの開始日である。
忘れていたわけじゃない……ただ、今日が何日かという感覚が、暇があれば二十四時間で三日が過ぎるロボオンにログインしているので、日数がどのくらい過ぎているのかの感覚が狂っていただけで。
あら、ちょうどいいことに、関係者どころかイベントの主役である歌姫様がいらっしゃるじゃありませんか。
「イベントの詳細な内容? もう公式で発表されていると思うけど……今回のは『イベント戦』、火の荒野にある町での防衛戦よ!」
なぜそこで見得を切ったし。後ラムダさん、奴の背後にババーンと言う文字とエフェクトを出すと言う甘やかしはやめてもらえませんかね? この世界、歌姫に甘すぎやしませんか?
「防衛戦開始は夜の九時から二時間ほど。朝の八時からその時間までは準備時間と言うことになってるよ」
「準備時間?」
「そ。時間の都合上、イベント戦に参加できそうにない人でも楽しめるようにって奴で、町の防壁の建築、食料の確保、ハイ・ゴーレムの修理や補給のアイテム製造とかいろいろだね」
ふむふむ。そっちはそっちで楽しそうだなー……
「まあ、準備にしろ戦闘にしろハイ・ゴーレムがあると活躍できるみたいだから、みんな頑張ってハイ・ゴーレムを手に入れよう! 個人、ギルド単位での様々なランキングが用意されているから頑張って! 的な煽りで占めくれられてたわ」
煽り言うな。
「そ、それと……華麗な歌姫の活躍もお楽しみに……って」
ああ、うん。当然と言えば当然の宣伝も本人にしてみれば地獄だな……そんな真っ赤になって俯くくらいなら、黙っておけばいいのに……
時間が余っている俺は、準備から参加したいから……本当の意味での準備期間は今日が終るあと五時間くらいと丸二日と言うことか。
その準備期間にやらなければいけないこと……か。
まずは鉄蜘蛛を倒して、ハイ・ゴーレムの武器を造らないとな。それから、桜子のハイ・ゴーレム造りか……うん、さすがに二人でランキング上位は難しいかもしれないけど、イベント戦に負けるわけにはいかない。戦力を整えないと。
そう……イベント戦に負けないと言う意味では、このワールド全体の戦力の底上げが重要になる……
ここは他のワールドに比べて人が少ない。一番最後のナンバリングのワールドだったと言うこともあって、他のVRMMOで腕を鳴らしたプレイヤーも少ない。龍角さん達のように来てくれる人もいるが……その数は少ないだろう。
ハイ・ゴーレムを配って歩くと言うのはやり過ぎだけど、金を払える人たちに売れないと言う事態は避けたいな。俺たち以外のギルドがどのくらいの資金を持っているのかは分からないけど。
「――と。結構話し込んじゃった。夕食食べたらまたレッスンに戻らないと。今も実は会社のシステムからログインしてるし」
「あらあら。お疲れ様です」
最近の香坂は、こんな感じである。まあ、イベントの主役と言っても過言ではない歌姫らしく、歌とダンス? のトレーニングで忙しいのだろう。
「それじゃあ、二人とも。イベント戦の前に会えたらまた会いましょう!」
「おーう。倒れない程度に頑張ってなー」
「朱音さんの歌、楽しみにお待ちしてますね」
「朱音さま。また」
「にゃーお」
シロコの背に乗ったアイリスとシロコの別れの言葉に満足そうに頷いて、香坂はログアウトした。
さて。
「じゃあ、俺たちもログアウトするか。桜子も夕飯の時間だろ?」
「……その、うちは……シェフに頼めば、いつでもフルコースが出てくるので……」
「お、おう……でも夕飯は今の時間くらいに食べた方が良いぞ」
ず~ん……と言う普通の暮らしに憧れる桜子は、一気に重い影を背負ったが、俺の意見に頷いて、いつもの調子に戻った。
「それでは、セイチ様。私も失礼いたします。シロコちゃん、アイリスちゃん。またね?」
「みゃーお!」
「はい」
桜子がログアウトするのを見送って、俺は精霊AI二人に向かって、
「じゃあ、俺もログアウトするな? アイリスはシロコと仲良く遊んでいてくれ」
「了解しました! マスター!」
「みゃー!」
ビシッと敬礼するアイリスと、何とか前足でまねしようとしてネコが顔を洗っているようにしか見えないシロコの姿に苦笑しつつ、俺もログアウトした。
食事、家事、風呂、仮眠一時間……よし。
夜の九時にログインした。
「あれ? シロコは?」
「桜子さまがログインされたので、マスターのお役にたてるように戦闘系スキルを上げてくると言ってました」
ログアウトしてからの他人のマイルームへは入れないのは俺が初日の香坂の部屋で確認した通り。だが、マイルームの持ち主の精霊AIがいれば、マスターが許可さえしていれば精霊AIの許可だけで入れるらしい……ほとんど考えずに、アイリスの判断にまかせちゃってるから知らなかったなー……
さて。後一時間で夜だ。ハイ・ゴーレムの武器のために、鎧の鉄蜘蛛を狩りにいかないといけない。
その前に……
俺が何で『地のコア』をゲットしに行ったのかを忘れてはいけない。
地、風、火、水の夜のスライムからゲットできるFランクのコアは大量にある。ハイ・ゴーレムの素材に使うにはランクが低すぎるものだが……
「さあ、マイルームの大改造だ!」
「イエス、マイ・マスター!」
そう。生産に+要素を与えてくれる設備を造るつもりだったのである。
イベントに向けてとはいえ、とりあえずコツコツやっていく方向に。
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それでは次回で。




