第62話 それは最も確率が高いルートへの?
「それでは最初のお願いなのですが……あなたのギルドにいれてはもらえないでしょうか?」
泣き終わった彼女はこちらに近づいてきて、頭を下げた後、そう言った。なぜか、大人びたもの……失礼な言い方をすれば憑き物染みたものが、その表情からは無くなっていた。それは強さこそ消えたが、少女がもつ可愛らしい大切な何かがそこには宿っているように思えた。
しかし――ギルドか。なんてタイムリーな話題を振ってくるんだろうね。
実はさっき、夜が明ける前に戻ったマイ・ルームの机で、ギルド申請をしてもうすでに通ってしまった。そう、今の俺はプレイヤー一人と精霊AI一人のギルドのギルド・マスターなのである。
その名を『千花繚乱』と言う。あの二時間で決めた名にしては、まあまあ、の出来だと思う。百花繚乱のパクリとか言わない。オマージュ、もしくはリスペクトと言ってくれたまへ……って、俺は誰に言い訳してるんだ?
この名前には千一の『千』とアイリスの『花』がその名前に込められている。さすがにギルド・マークは考えていないが、アイリスの花に千の字あたりを描きたいなとは思っているけど。
――問題なのは……このギルドが、カスタマイズした機体の名に自分の名を刻みたくないからという理由の、何の理念も目的もないものだと言うことだけ。
「えーと、俺がギルマスのギルドはさっき創ったばかりとはいえ、あるにはあるんだけどさ……実はハイ・ゴーレムのカスタマイズの欄に自分の名前を使われたくないって理由だけで創ったものだから……その、目的とかないし、ギルド・メンバーも俺とアイリスくらいなもんだし……正直、入ってもいい事ないよ?」
もう一人、入りそうな奴はいるにはいるんだが……歌姫と言う立場上、そいつが入るとなると、実は歌姫と言う立場がばれても良いくらいの良識と口の堅さがメンバーには必要だろう……まあ、そこら辺は目の前の少女は合格だけど。
「いいえ。私はあなたからいろんなことを学びたいのです。書物やネットの情報ではわからない、人間の強さや温かさ、そんな大切な何かを教えてもらえそうな気がするのです……」
そ、そんなものがこの俺に教えられるとでも? そんなのは伝説の三年B組のあの方に頼んでいただきたい! もしくは伝説のアニキかその弟のドリルにか。
俺が茫然としていると、彼女は人差し指を立てて頬笑みながら、
「それに、ただの知り合いになら『頼み』辛いことでも、同じギルド・メンバー……さらにギルド・マスターになら頼みやすいですし」
……ダメだ。こちらが断れないことを想定して会話を組み立ててやがる……! 最後にカッコつけて言った男が一度は言ってみたい『俺を頼れよ』発言がこんなに素早く我が身に襲いかかってくるとは!?
本当に、中二か……? 中二と言えば炎に抱かれて死にたいほどの黒歴史の数々を生んだり、相手は死ぬすさまじい魔法を生み出す時期のはずなのに……
俺は抱いているアイリスに視線を向けると、
「さすがはマスターです。こんなにも早くメンバーが増えるなんて!」
アイリスタス……お前もか。そんな花の様な笑顔でそんなことを言うのですか。
逃げ道を防がれた俺は、ボイスコマンドでメニューを呼び出し、指先で操作。目の前の彼女にギルドメンバー申請のウインドウを送った。
彼女は微笑みながら承認し……我がギルド『千花繚乱』のメンバーが二人増えたのであった……
あれ? 美少女が入ったのに、何で泣きそうなんだろう? 口先で勝てない相手に多大な期待を抱かれているからでしょうね……逃げ道はどこだ!?
「そう言えば『桜子』。何で地のフィールドで戦ってたんだ? しかも素手で」
俺は本人から『下の名前を呼び捨てでお願いします。口調も奴隷を扱うように』と言う後半の方の意見はチョップとともに却下して、前半の意見はしぶしぶながら受け入れて名前を呼ぶことにした。違和感はまだぬぐえない。
「チュートリアルエリアで武器は貰ったはずだろ?」
俺のようにチュートリアルエリア担当がコラムダさんじゃ無ければ初心者の武器が貰えたはずである。しかも初心者の武器は攻撃力こそほとんどないものの、ジャージと同じで耐久値がないから、壊れると言うこともない。
「それは……AIの方から渡されたものでも、人から与えられたものですから……」
「ああ、なるほど」
誰の力も借りずに生きて行きたい……シロコのおかげでその考えは無くなったものの、それはついさっきの話だからな。彼女が渡された武器を置いてきた理由はそれか。
「ここにいたのは、森だったからですわ。森なら食べ物も豊富でしょうし、現実の世界でも活かせそうでしたから」
そう言いながら、シロコが取ってきたリンゴ……のカードを受け取って解体し、三つ出たリンゴの二つをこちらに、
「どうぞ、お受け取りください。セイチさん。アイリスちゃん」
そう言って差し出してきた。
――この呼び方にもひと悶着があったのだ。何でも人生の師である俺を「お兄様」と呼びたかったらしいのだが、さすがに却下させていただいた。そしたらギルド・『マスター』だからご主人様と呼ぶとか、様付けとか……ようやくさん付けで落ち着いてくれた。
俺はそれを受け取ると頭の上のアイリスに一つ渡した。アイリスはそれを受け取ると、スパンと剣で両断して、二つに分かれたリンゴを桜子の肩のシロコに投げ渡した。うん、良い光景だけど、頭の上で剣を振るわれるとドキッとするよね!? ビビりと思われたくないから注意しないけど!
「あらあら、良かったわね、シロコちゃん」
「みゃーお」
シロコのことをさん付けで呼ばなくなったことに気づく俺は、細かい性格なんだろうな。でも、そんな小さな喜ばしい変化に気づけることは今は感謝しても良いだろう。
みんなでリンゴをかじりながら、ワープポイントへ向かう。
とりあえず、伐採で得た『地の木材。ランクD。地属性』を全部倉庫に突っ込んで、彼女の装備を整えないと。木工のスキルlv上げはそれからだ。
仲間が増えることによって、俺の目的は遠回りになった……だが、それを悪いと思うほどひねくれちゃいない。
俺達は始まりの遺跡へ戻った。仲間と言うどんなレアカードやレアアイテムより大切なものを手に入れて。
それがどうしてこうなった?
彼女の防御スキルlvが十を超えていたこと――パイロットは普通にチュートリアルエリアと一回くらいの戦闘で簡単に上がるらしい――から、鉄の装備系を造ることにした。生産者より戦闘系スキルが上がりやすいパイロットなら直ぐに鎧の鉄蜘蛛シリーズを装備できるだろうから、それまでのつなぎには十分だろう。
ああ、他にもまだ魔法がシロコの初期属性の風以外は覚えていないと言うことなので、余っているコアを上げて……
俺のマイルームで、俺とアイリスは鉄装備を造り。桜子とシロコは俺たちの邪魔にならないように部屋の隅で残り三属性全ての魔法を覚え……
ひと段落した時である。香坂が久しぶりに訪ねてきたので、ギルドを造ったこととそのメンバーに桜子が入ったことを言ったら……
「あらあら。お久しぶりです。『赤坂 香音』さん。私、セイチさんが創ったギルド『千花繚乱』の第一メンバーですのでよろしくお願いいたしますわ」
俺が渡した軽鎧と、野良クモの糸で創ったシャツとスカートを装備した桜子は、そのスカートをつまんで持ち上げて優雅にお辞儀した……と言うのに、何このプレッシャー? 強化人間じゃなくても感じるレベルだぞ!?
いや待て待て、それより、赤坂 香音……それは香坂の芸名だ。そして、歌姫と活動する時以外は、香坂が許可した相手以外には、金髪巨乳エルフに見えて、名前は香坂 朱音の名で記されるはず……だと言うのに、なぜ?
「あーら? さすがにロボオンの会社と提携している会社のご令嬢ともなると、上級IDでログインなさっているんですね? それと私とセイチは『初めてのフレンド登録』した仲ですので、一応お伝えしておこうかなー……と!」
なぜに香坂さんまで同種のプレッシャーを放てるのですか!?
「うんふふふふ」「あらあらあらあら」と言う笑いが、壮絶なプレッシャーとともに部屋を支配していく。
俺は部屋の隅で、アイリスと涙目のシロコを抱きかかえて嵐が過ぎるのを待つしか無かった……
ザ・女の戦い。なぜハーレムタグをつけないのか? それはみなさん、わずか一パーセント未満だろうとルート確定させたくないからです。結局どのルート行こうとも最後は……どうなんでしょうね?
香坂さんは自分自身でもよくわかってませんし、読者の皆さまも分かりづらいと思いますけど、普通、心を許した相手以外に抱きついたり、一人暮らしの家に行って朝食をとったり、並んでテレビを見ないと思われます。俗に言う吊り橋効果(大役を任され(ドキドキ)、失敗して正体がばれ(さらなるドキドキ)、それを華麗に? 救ってくれた)と言うやつですね。
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それでは次回で。




