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狐の万事屋  作者: zeillight(零狐)
19/34

依頼17件目「感情」

「まずはこれだ!スペル!」

紅い零狐が指に挟んだスペルカードを発動する。


ーーー「演舞『狐火の舞』」ーーー

※オリキャラ設定集第2弾参照


紅い零狐の周りを怪しく揺らめく炎が取り囲む。

やがてそれは数を増して行き、零狐を捉える。

(数が多すぎて回避中に通常弾を撃つ暇がない。)

大量の狐火が零狐を追う。

所々に陽炎が映るのをみると高温なのがわかる。

(自分のスペルだから分かるが、スペルカード効果が切れるまで…あと2分くらいか。少しきついな…。)

零狐はあちこちを飛び回り華麗に避けていく。

段々と狙いは正確になり、避ける零狐を狐火が確実に捉えにかかる。

狐火の一つの群は頭上から迫ってきていた。

しかし、零狐が指を鳴らすと木々の枝が零狐の上に覆い被さり狐火を防ぐ。

「能力を使ったか…!まだだ!」

紅い零狐は舌打ちして狐火を更に撃つ。

「ぐっ…!」

零狐の右肩に狐火が命中する。

飛行中の体は傾き地面に落ちていく。

何とか旋回し立て直すがまだ狐火は追ってくる。

(あれが最後の狐火か。)

零狐は紅い零狐がそれ以上撃ってこない様子を見てそう考えた。

地面に着地してしゃがみ、手を地面に着ける。

そうすると地面が垂直に隆起して零狐を狐火から守る。

紅い零狐から見ると丁度、隆起した地面に阻まれ零狐が見えない状態だった。

「なぁ…少し聞いてくれ。」

零狐の声が地面に反響して紅い零狐にも良く聞こえる。紅い零狐は不審にも思ったがあまり気にはせず、耳を傾ける。

「なんだ?」

「俺が今まで…お前に悲しみとか押し付けてたのは何故だか分かるか?」

紅い零狐は明らかに動揺を見せる。

零狐はその瞬間小さく呟く。

「スペル…」

そこからは5分間位、零狐の話が始まる。


歌仙はその様子に目を見張り呟く。

「狐っていうのはつくづく嫌な物だ。」

霊夢はそれを聞き逃さなかった。

しかしその意味も分かっていた。

「騙すのが生業だからね。でも…多分弾幕ごっこ中ならこんなの気づけない。」

魔理沙は疑問の表情を浮かべる。

「どういう事だぜ?」

歌仙は溜息をつき魔理沙に説明し始める。

「今、紅い零狐は零狐の策にはまっている。見ろ…零狐を。」

魔理沙は言われた通り零狐に視線を移す。

そこには隆起した岩の後ろで何かをしている零狐の姿があった。

目を凝らしてみると、零狐の右手には三枚の光り輝くスペルカードが持たれていた。

「まさか…!?」

「その『まさか』よ。紅い零狐の気を引ける話をして引き込み、時間を稼いでいる。」

霊夢が歌仙の言葉を繋げるかのように、つけ足す。

「時間を稼がないといけないスペルカード…順序が決まっているスペルカードなら、そろそろ動くはず…。」


その言葉を合図にするかのように零狐が話を途切れさせて大きく笑い出す。

「お前は前も今も。自分の事が分かってるつもりで話してたな。だがそれは大間違いだ。」

紅い零狐は何か『気づかなければならない事』があるのに分からなかった。

その気づかなければならない事…その手掛かり話の途中に微かに聞こえる音響弾の様な音。

スペルカードの発動音と酷似している音。

「誰も完全に自分の事なんか分かりゃしない。俺もそうだ。…だけどな。誰にでも一つ分かる事があるんだよ。」


隆起した岩が崩れ零狐の姿が露わになる。

その姿は光り輝くスペルカードによって眩い光に包まれている。

「それは『自分の生き方』だ。」

紅い零狐は警戒状態に入る為に後退しようとする。しかし既に一枚目のスペルカードの発動準備が終わっていた。

そのスペルカードは。


ーーー「覚符『零ー創造ー』」ーーー


ーーー「醒符『壱』」ーーー


ーーー「醒符『ニ』」ーーー

※オリキャラ設定集第2弾参照


「まさか自強化スペル三枚同時発動するなんて…後で絶対、体中痛くなるわ。」

歌仙は呆れた様にその様子を見て言った。


零狐の身体能力は紅い零狐と比べ物にならない程に向上していた。

「俺の生き方は…大切な物を護る為なら騙す事だってやってやる。騙して欺き通してやる。そういう生き方だ…!」

零狐は後退しようとした紅い零狐の頭上から抜刀術を使って切りかかる。

咄嗟に刀を抜き、受け止めるが不意をついた状態からの抜刀術に適う筈もない。

紅い零狐の体は刀ごと押し切られ地面にめり込む。紅い零狐は地面から体をゆっくりと起こす。

「ゲホッ…くそっ…!」

周りは粉塵が巻き起こり視界が悪くなっていた。

「これで終わりだ。覚悟しな。スペル!」


ーーー「斬撃符『網羅』」ーーー


(このスペルは…!一撃目を躱せばいいだけ…でも視界が悪いなんて抜刀術を使うには絶好の状況。)

歯を食いしばり聴覚に意識を集中させる。

耳に風や葉の音が伝わる。

醒符を使っているのと使っていないのは大きな違いで醒符を使うとかなりの集中力が期待できる。

しかし醒符を使うのには敵に狙われない時間、つまり発動するコスト。

『集中する時間』である2分が必要だ。

そんな時間が今の紅い零狐には無い。

だから元々の集中力を使うしかなかった。

(駄目だ…。聞き分けられない。あいつの足音さえ聞こえない。)

そんな時、紅い零狐は本能か何かは分からないが刀を下段に構えていた。

刀にの構え方は主に上段、中段、下段とあるが一般的に有名なのは中段だ。

攻守共にバランスが取れているが若干守りが弱い場合がある。

そして紅い零狐が今、やっているのは下段。

下段は昔は良く拠点防衛には適している構え方として伝えられている構え方だ。

下段はただ下に位置した構え方では無く、守が固い。つまり、守りの形。

相手が達人であってもこの形をして直感的に防ごうと思えば未熟者でも防げる形であり、強い相手と戦う時にも使われた。

攻撃には向いていないがこの下段を扱うのが熟練者であるならば、かなりの速さの抜刀術でさえ防げるだろう。

その時、スペルカードを発動せずに零狐が抜刀術を使って紅い零狐に切りかかる。

恐らく何か防ぐ手があるのかと探っているのだろう。それだけの余裕が零狐にはあった。

逆にそんな余裕は紅い零狐には無かった。

戦闘中において余裕があるというのは良いことでも悪い事でもある。

余裕があれば精神的なダメージを喰らいにくい。

それに精神は正常、又は冷静な為、追い込まれても次の手や勝つ手段を考え出す事が容易になる。

しかし余裕とは裏を返せば「油断」にもなる。

油断になってしまったら、それはほとんどの場合敗北に繋がる。

相手の罠や策に気がつけない場合だってある。

しかし当の零狐は余裕をもってはいたが油断になる事は今まででも、そして今も無かった。

だから策があるのかどうか、最初に抜刀術を使って確かめたのだ。

紅い零狐はその抜刀術を咄嗟に刀で受け流す。

この咄嗟の行動で零狐は迂闊に抜刀術系スペルカードを発動する事が困難になった。

零狐は粉塵の中、考えた。

(…見切られていたのか?受け流したという事はこちらの場所がバレている可能性もある。何にせよ、斬撃符「網羅」は最初の一撃を当てなければ意味がない。咄嗟に反応した可能性もあるが…。)

零狐は場所を移し、丁度紅い零狐の真正面に当たる位置にいた。

(自強化系スペルを使っている今なら受け流されずにいけるか…?でもさっきは受け流されたんだよな。粉塵が晴れるのも時間の問題だ…。仕方ない。もう1回探りを入れてみよう。)

紅い零狐は粉塵の中で次に抜刀術がくる場所を探っていた。

何処から来るか分からない恐怖が紅い零狐を襲うが、大して意味が無かった。


どんな動物でも『慣れ』がある。

役に立つ時もあるが、それは時に自身に牙を向く事さえある。

何度も死に際や死体、戦いをしている者は決まって恐怖に襲われてもそれを支配する術を持っている。慣れすぎた者にいたっては恐怖を無意識に支配するとも言われている。


紅い零狐は零狐に狙われている恐怖を覚えた。

その恐怖に駆られてしまった。

頭が恐怖で埋め尽くされたその瞬間、紅い零狐の顔には笑顔が出ていた。

「くっ…ははっ…あははははは!!」

突然に笑い出した紅い零狐に零狐の刀が迫る。

しかし、刀は簡単に受け止められた。

紅い零狐の足が零狐の腹部を捉える。

腹部の内蔵が紅い零狐の蹴りによってかきまわされる。猛烈な吐き気が零狐を襲う。

「がっ…!?はぁっ…はぁっ…。」

刀を構えながら紅い零狐の方に向く。

目の前には刀が迫ってきていた。

刀を顔の前に持ってきて上手く防ぐも、刀の鍔迫り合いが始まる。

刀が擦れ火花が散る。

金属が擦れあって耳につくような音が鳴り響く。

零狐は何とか押し返し体制を立て直す。

紅い零狐は押し返された後、片手で素振りをしてまた笑い出す。

「お前…どうしたんだ。一体何が…。」

「怖い…怖いんだよ。」

笑いながら体を震わせる。

「怖いのに…体はお前に勝とうと動くんだ。」

(こいつ…恐怖を支配してるのか?)

何にせよ零狐はここで紅い零狐を止めなければならない。

この弾幕ごっこに勝たなければ幻想郷が危うい。

(斬撃符「網羅」を当てればほぼ確実に勝てる。必ず当てなければいけない。受け止められたり、受け流されたら大きな隙が出来て即刻殺られる。)

零狐は頭の中である策を立てた。

その策は急拵えの物だが、成功率の高い具体的な策とも言えるだろう。


「さて、どちらが先に動くか。もうそろそろ二人共魔力切れ…いや妖力切れだからな。」

霊夢は魔理沙の言葉を聞きつつも右手にある物に力を込めた。

そこには霊夢のスペルカードがあった。

(万が一零狐が止められ無かったら私がスペルカードで紅い零狐を倒すしかない。その後は零狐の体に強制的に封印して…終わらせる。この異変を。)

その様子を見ていた歌仙は霊夢の右腕をつかみ小さく囁く。その顔は微笑んでいた。

「貴方がやる必要はない様だから『それ』は収めておきなさい。」

歌仙は明らかに霊夢のスペルカードを見抜いていた。霊夢は歌仙の言っている意味を理解するには少しの時間を要した。

その時ふと、零狐の顔を見た。

(笑って…ない?零狐が笑ってない時って…)

「危険な時程…そして普通に楽しい時、そんな時に笑う零狐が今、笑ってない。つまり?」

歌仙が霊夢に答えを促す。

霊夢は何かに気づき、もう一度零狐を見る。

何かの仮説、いやかなり正しい答えではなかろうか。全ては合ってはいなかったが。

「零狐は…『この状況で策を考え出した』って事?その策は成功率が高いから危険じゃない。だから笑っていない。そういう事なの?」

歌仙は霊夢の答えに対して何も返さなかった。

(大体は合っている。だが成功率が高ければ直ぐに動いている筈だ。それなのにまだ動かないのは……一部『賭け』をしなければならない部分があるという事だろう。)

誰もがその様子を見張っていた。


「おい。」

零狐は紅い零狐に一言声をかける。

その声は重く低い声だった。

「…?」

疑問の顔を浮かべる紅い零狐に零狐は話を続ける。さっきまでのざわめきが嘘の様に止み、その場を静寂が包んでいた。

「もうそろそろこの戦いも終わりだ。だから…最後に一発当てた方を勝ちにしないか?」


紅い零狐は零狐を見て刀を抜く。

刀の切っ先を零狐に向け言葉を返す。

「全力で行く。」

零狐は姿勢を低くし、いつでも抜刀出来る様に構える。

今までの紅い零狐と戦った事も思い出した。

自然とその感情は顔にでていた。

その顔は危険によって笑っているのではない。

零狐が初めて覚えた感覚。


(あぁ…これか。小さい頃に親父がまだ戦ってた時に言ってた感覚。初めてだ。)


二人は一斉に走り出す。

双方の刀が振り抜かれ空中で衝突を起こす。

その後、金属のぶつかる音が二、三回空中で鳴り響くと同時に火花が飛び散る。

刀が弾かれた瞬間にどちらも後退する。

零狐は地面に手を着き屈んだ状態になる。


「初めてだよ。」

紅い零狐は零狐の声に気づき目を向ける。

「…何がだ?」

零狐は屈んだ状態から立ち上がり刀を構え直す。

「こんなに戦いを『楽しい』って思ったのがだ!行くぞ!」

先程とは段違いのスピードで地面を蹴る。

紅い零狐の右に移動して腕をめがけて刀を振る。

一瞬の出来事に反応が遅れるも、何とか刀の鞘で零狐の刀を受け止める。

(あっ…ぶねぇ!こいつ…今まで本気を!?)

「本気を出してなかった訳じゃねぇ。ただ…分かっただけだよ。『戦いを楽しむ』事をな。」

やはりその顔から笑みは消えていない。

霊夢達は、そろそろ近づいてきた終幕が微かに見えてきていた。


続く

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