紫
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救出された三人の子供は、普段はイゼアはよく通う救護室に連れていかれた。
ミコトは龍巫切れに近い状態だが、身体に色濃くその名残を残しているため、命に別状はなかった。
レイスは極度の龍巫枯渇状態にあり、ドニが真っ青になった。他人の龍巫は反発があるものの、赤の他人よりマシだといって、ドニ自身が龍巫を送ろうとしたところに、イゼアが止めに入った。
イゼアは龍巫をそのまま同質化してしまうため、後で反動が来るかもしれないが、いまは龍巫の量を増やすことを優先し、龍巫を流すことにした。
といっても、いまだに龍巫をつかめないイゼアは、ただレイスの手を握っているだけである。普段からあふれ出す龍巫がレイスに流れていっているようだが、さっぱりわからない。
いかにも余裕です、龍巫を流すなんて、という顔をしているが、本当にさっぱりわからない。俺、感性いいはずなんだけど、と内心ぼやきながら、余裕面をしているが、やっぱりさっぱり全く本当にわからない。
余裕ぶっこいていても、傍からみたら龍巫の流れはレイスを中心的に流れていないので、扱えていないこと丸わかりである。
「若、これから龍巫の訓練をもっとしようぜ」とドニに真面目な顔で迫られた時は、余裕面が崩れそうになった。
ホントに親バカだな、ドニさん。
ナギは早々に失神したため、龍巫を放出することもなく、ミコトの龍巫酔いのような状態であるため、三人の中でいちばんに回復されることが予想された。
「…それで、ミコトはいったいどうしたんですかっ?父上」
詳細を教えられることもなく、ドニの乱心を抑えさせられたイゼアは不満げに、そして不安げに問いただした。
が、カルマは自分が先ほど目にした情景が信じられず、思いふけっているため、イゼアの苛立ちは増していく。
三人の龍巫の触診をしていたユキハが口を挟む。
「イゼア、これは龍巫の暴走状態よ」
「龍巫の暴走状態……」
言葉通りの現象だろうが、それがなぜミコトに起きたのか理解できない。
目で問いかけるイゼアに、ユキハは簡単に説明した。
「龍巫の暴走状態は、自分の理性で龍巫を操れないときに起きるの。これは龍巫の多くない人でも、なるわ。でも、」
そこで一旦言葉を切り、ミコトの柔らかな銀髪に指を絡ませ、頬をなでる。
「子供特有の龍巫の暴走は、龍巫が多い子供しか起きないの」
だから、心配しなくていいわよ。
そう言い終わったユキハに疑問が増える。
それを見取ったのか、エイダが昔を思い出すように目を細めて語る。
「龍巫が多いということは、国力につながります。そして子供のうちに暴発させることは、龍巫が多いということの証明です。バーデ家では龍巫の暴走は、子供がいるときはある意味日常茶飯事でした」
ちらりとカルマのほうへ視線を流して苦笑する。
きっとカルマも同じように暴走させ……いや、もっと甚大な被害、屋敷半壊ぐらいは持ち込んだのだろうと、カルマの幼少期に思いをは焦る。
「なるほど……ん?」
「イゼアが何に引っかかっているかはわかるわ。私もあったし、ジャンも小規模だけど同じようなことあったもの」
ねぇ?と同意を旦那に求めるマリア。
静かにうなずくジャン。
「なんで……」
前から思っていたが、自分は龍巫がかかわると、意外性というか、予想外というか、規格外の方向に走るのはなんでだろう。
が、そこでショックを受けている自分をストップさせる。よくよく考えたら、俺って精神年齢は生まれたときから十八歳以上。
つまるところ、子供のように理性を捨てて、本能であれこれするにはいささか無理がある。そうだ、仕方がないのだ…!
一応立ち直ったイゼアは、そういえば先ほどからぼんやりしているカルマに、再び視線を戻す。
カルマの様子はやっぱりおかしい。
「父上、どうしたんですか。なにかきになることでも?」
「……」
右から左へとそのまま通り抜けていくような状態に、イゼアに青筋が浮かぶ。
あれか、ミコト馬鹿なこの人はっ……!
別の苛立ちと共に、カルマの腕をバシバシと叩く。昔なら恐怖で足がすくんでいただろうに、自分の成長に感服するぜ。
「父上、父上ってばっ……父さん!」
父上呼びがばからしく、いやいや面倒くさくなり、ばっさりと前世同様の呼び方をすると、カルマの様子が変わった。
ピクリと反応を示し、ゆっくりとイゼアのほうを見ると、三秒沈黙して、首を傾げて「聞き間違いか?」とぼそりと呟いたので、イゼアはもはや叫ぶように言う。
「何が聞き間違いですか、父さん!反応してください!」
「……ん!?」
ぎょっとしたようにこちらを向いた。その様子に戸惑うイゼアをスルーして、カルマはユキハに目を向けると、ユキハはにっこりと笑って一度首肯した。
その様子に、イゼア以外は微笑ましそうにちょっとずれた親子を見守る。
実は今まで父上呼びを気にしていたカルマにとって、まさしく青天の霹靂だった。イゼアの呼び方を、ミコトが昔そのまま真似した呼んだことがあったが、カルマはそれを全力で訂正させた。
イゼアの頭をわしわしと撫でながら、カルマはいつもの様子に戻った。
それを察知したイゼアは、すかさず先ほどの質問を繰り返すと、カルマははた、と思い返し、そこにいる全員に視線を向ける。
「さっき、ミコトの瞳が、紺碧だった」
「「「!」」」」
静かに衝撃が走る中、ジャンが冷静に問いただす。
「見間違いの可能性は?」
「ないな」
瞬時に言い切ったカルマの発言は、今までカルマの右腕をし続けてきたジャンには納得できる一言だった。
「暴走で身体に害があるなんて……今まで聞いたことがありませんね」
「害と決まったわけじゃあないわ。龍巫の暴走をきっかけに瞳の色が変わったのは確かだろうけど」
各々意見を言い合う中、イゼアはするりとカルマのそばから離れると、ユキハの隣に立ち、ミコトの顔を見降ろした。
そして、ユキハがキョトンと首を傾げているのを視界の隅に収めながら、ミコトの瞼に指を軽く起き、ぱっと目蓋を持ち上げた。
ぎょっとイゼアの動向に気づいたみんながそちらを注視する中、ユキハの驚いた声が上がった。
「紫……!?」
そこにはミコトの見慣れた蘇芳ではなく、アメジストのような色をしていた。
しかし、それはだんだん紫が濃くなっていく。
その様子をイゼアは内心「本当にこの世界はファンタジーにもほどがある。Xは何、ファンタジー世界に行きたかったの?」と思っていた。
紫は赤みが強くなっていく。
まるで、青い水溶液に、赤色を足していくように変化し続ける。
そこでイゼアの中で一つの過程が浮かび上がったが、龍巫についていまだ詳しくわかっていない今、これを話したところで正解に近づくわけではないので、口をつぐむことにした。
そこで指を離し、ミコトの目蓋を閉じる。「あっ」と声が上がったが、これ以上するとミコトの目がドライアイになってしまう。
ミコトの寝顔はかわいいなぁと、ミコトの寝顔を見ながら、疲労が浮かび上がってきたミコトの顔を、優しくなでた。
早く三章に行きたいなぁ。
でも一話かくのにも体力いるんだよなぁ。
70話までには第三章いっていやる!




