三角関係の前に、ミコトvsレイス
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カルマが与えてくれた、品種改良したマチナラの木は、マッチャの木(仮)として、庭と実験場に植えられた。
今回は弱光で育てなければならないため、気長が行くことに。
藁で編んだ目の粗い網で木を覆う。
そのまましばらく育てることに集中することにした。
「マッチャの木って匂いもいいし、虫除けにもなるし、ミョウヤクにもなるし、いいことづくしだよねぇ」
ナギがマッチャの木の香りをかぎながら言った。
「前から思っていたけど……イゼアってとことん謎よね!」
ナギのつぶやきを掻き消す勢いで、ミコトとナギに同意を求めるレイス。
それを聞いた二人は顔を見合わせ、同時に首を傾げて、逆に聞き返す。
「なんで?」
「どこが?」
「どうして?」
「どんなふうに?」
矢継ぎ早に問い続ける二人にぎょっとしながらも、レイスは律儀に言い返す。
「だって、誰も知らないようなものを好物にしているし!おかしいじゃない。まるで…以前食べたことがあるみたいに!」
「…お…お、兄ちゃんは、マッチャの香みたいで好きだっていっただけで、マチナラの木からできる妙薬がマッチャとは限らないよ?」
ミコトの一言に、レイスはそうなの?と目を丸くして納得したようだが、どこか一部納得したくないように、違和感をぬぐえないように、むむむと唸る。
「レイスは、イゼア兄ちゃんが謎なのは嫌なの?」
ナギの純粋無垢な瞳がレイスに問いかけると、レイスもある意味純粋な、本能で感じるままに答える。
「いやよ!」
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そのストレートさがうらやましくもあり、憎たらしくもあり、むかついて仕方がない。
レイスはとことん自分の神経を逆なですることを、ミコトは再度確認した。
兄が謎めいているような部分なんて、ミコトはとうの昔に自覚している。
レイスに問いかけたのは、レイスがまるでイゼアを理解しているような言動をするからである。勿論気にくわない。
兄を、イゼアに近づけば、知りたいと思えば、きっと誰もがぶち当たり、疑問や違和感を気づくのだろう。
それが大なり小なり様々だろうが、そこにいつまでも突っかかっていたら、きっと、兄との関係が終わってしまうのだろう。
屋敷のみんなはそれを自覚している。そう、本能的に。
お父さんも、お母さんも。僕も、ドニも、エイダも、ジャンも、叔母も、ナギさえも。
ミコトは静かにナギに視線を向ける。
ナギがまっすぐで純粋で、無垢で。スレてなくて、ねじれていないのは理解している。
彼が兄に違和感を自覚するのは、まだまだあとだろうか。
それとも、兄の姿を見続ければ、違和感を感じないものだろうか。「すごい」の一言で終わるものだろうか。
微かな不安に瞳を影らす。
しかし、レイスの失礼な一言を具現したように睨みつけ、眼光だけで破壊できそうな迫力で、蘇芳の瞳を吊り上げた。
蘇芳の瞳が苛烈にきらめいた。
*
「レイス、そんなに嫌なら、関わらないで」
自分がしてきたことを棚に上げるわけではないが、関わることで兄が傷つくことはいやでたまらない。
そうなる前に、ほかの大人たちのように区切りをつけられないのなら。
蘇芳はまるで鮮血のように紅く染まる。
ミコトの鋭い一撃は、レイスが察知できるほど太くはなかった。
つまり、ミコトの思惑を理解できるほど、深く考えているわけではなく、本能的に零した一言につりあうだけの知能を彼女は持ち合わせていなかった。
「それこそいやよ!」
「はぁ?!」
今度こそ、ミコトの理性がぷっつんと切れた。
案外短め