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ミコトとナギとレイスで


 兄が騒ぎを聞いたらしい。

 ナギとミコトの謝罪が終わった後、すぐに顔を見せてきた。

 今回の原因などは特に追究してこなかった。それに違和感を覚え、もしや両親がすべてばらしてしまったのかと危惧したが、そうでもないようで。

 別のことに意識が向いているらしい。

 騒ぎを起こしたことについても、怒られはしなかった。釘は刺されたが。

 しかし、釘を刺しているのだろうが、顔が笑っていたので、こわくなかったねぇとナギがのんきに呟いた。

 僕が読書ばかりでなく、そういう行動をすることを喜んでいるから、強く言えないのかもしれない。



 兄は考えることがあるからと、仲良くやれよと二人の頭をなでると、早々と部屋から出ていった。


 兄が出ていって、マッチャについて、もっと詳しい情報を探すために図書室に行ったが、めぼしいものはない。

 ナギと顔を見合わせ、ため息をついた。

 そこにノックが一つ。


「はーい!」

「…?」

 図書室をノックする人なんて、滅多にいない。一応公共の場に当たるから。

 ほぼ、ミコトの私室になっているともいえるかもしれないが。


 顔をのぞかせたのは、お父さんとドニだった。ついでにドニの娘のレイスと一緒に。

「お父さんに、ドニ?…とレイス」

「レイス?」

 首を傾げるナギを流して、三人が図書室に入ってきた。

 お父さんは、先ほどの冷たい顔ではなく、にやりと自信ありげに笑っている。ドニはお父さんから何も聞いていないのか、とりあえず僕たちに「娘はやらんからな!」と歯を輝かせて、言い笑顔で言いてくるが、威圧感を感じる。

 僕はレイスに視線を走らせた。

 レイスはドニさんと同じ猫目で図書室をきょろきょろとみている。紺鉄色の猫っ気のある髪が、彼女の頭に従って、ゆらゆらと揺れている。

 全体的にドニ似だなぁと久しぶりにみた彼女は、不意に僕を素通りして、ナギをちらりと見た。

 その視線が気にくわなかった。

 むっと眉間にしわが寄ってしまったが、レイスは気にせず、ナギのほうへずんずんと近寄る。

 ナギは驚いたように一歩退く。その一歩がなければ、二人の唇がくっつくぐらい、レイスは自分の顔を、ナギの顔に近づける。


「えっ!?」

 急に近寄ってきた初対面の女の子に、ナギは顔を赤らめて、たじろいだ。


「……ふーん?難攻不落のミコトを落としたのが、どんな子かと思えば普通の子ね!」

 自己紹介なしに、言い放った言葉に、ナギが「へっ?」と声を上げる。


「ミコトは相変わらず引きこもりなの?そのうち髪と肌の見分けがつかなくなっちゃうわよ!」

 もやしっ子になること間違いなしね!となかなか失礼なことを、堂々と言う姿はいっそ潔さを感じるが、イラっとすることは否めない。


 ミコトが言い返そうとするが、その前にドニの声が上がった。

「ルイス!男にそんなに近寄っちゃダメだぜ!何かあったらどうするんだ!」

「ガキが何をするってんだ……」

 お父さんがため息をつきながら、ドニに突っ込む。

「ファーストキスを奪われる!」

「…それはお前が生まれてすぐに奪ったんじゃないか?」

「当たり前っすよ、ボス!」

 ドヤ顔で言い放つドニに、お父さんは蹴りを一発入れていた。

 うん。



「……ナギ、彼女はドニの娘のレイス」

 お父さんとドニの会話を横に、僕はあんまり彼女が好きじゃないよ、という言葉を飲みこんでナギに紹介する。

「そ、そっかぁ」

 いまだに顔を赤らめながら、ナギはよろしくと手を差し出す。

 それがレイスとミコトとの出会いを思い出させる。

 イラっとした。


 …レイスとの出会いは、ちょうど貴族の会話を聞いてしまった直後だった。

 顔を合わせたとき、彼女は今と同じように自己紹介もなく、一言、言い放った。

『白いわね!』


 彼女のズバズバものをはっきり言う姿勢は、影口よりはいいが、相手の傷口に容赦なく塩をすり込むので、好きじゃない。というか嫌い……苦手だ。

 大体、僕の紙は白いんじゃなくて、銀色だ。兄が、お兄ちゃんが、好きだといってくれる銀色、ナギがきれいだといってくれる銀色。

 白と一緒にされるのは不愉快である。



 レイスは差し出された手を握ると、上下に激しく振る。

 …ドニは、娘はやらんと公言してるが、こんなガサツな女の子を欲しがる人はいないと思う。


 ミコトは、もともとの苦手意識と、ナギの照れた態度がミコトの苛立ちの炎を更に燃やし、敵意にも近い感情をレイスに対して持ち始めていた。



「それで、何かようですか?」

 あっけらかんとして問うナギに、空気が抜かれたような気分になりながら、ナギと同じようにお父さんを見ると、お父さんはマッチャについて、兄からストレートに聞きだしたことを教えてくれてた。


「…マッチャはどろどろじゃなくて、粉なんだね!」

 初めから違ったかぁっと笑うナギ。

 ミコトは兄に何の追及もなく、そこまで情報を引き出すお父さんがすごいと思った。


「粉末ってことは、やっぱりマッチャは薬なのかな?」

 風邪を引いたことを思い出しながら、推測する。

 推測しても、これを検証する手立てがないことを思い出し、兄の顔がちらつく。

 …検証できないことは、どうすればいい?



「そこでだ、ミコトとナギだけだと何をやらかすかわからんから、イゼアの代わりにレイスに頼む」

「え゛」

「え?」

 ミコトとナギが同時に言うが、感情のベクトルは全く違う。


 そしてまた同時に「なんの?」と聞き返すと、お父さんはニヤッと笑っていった。


「ヒアラーク、つまり薬を作っている工房の見学に」

「「へ?」」


 今度は同じ気持ちだったに違いない。



 


ドニの娘、レイスは前に名前だけちょこっと出てきています。

失礼系のドストレート少女で行くつもりです。

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