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一三話 旅の仲間



 ただ、ブリギットの目はあくまで理知的だった。


「ものは考え(よう)よ、ハンマ。ハイゼンドールに着いた後のことは見通しが立たないって話だったわよね。門前払いの可能性だって有り得ると」

「ああ……それがどうした?」

「テオドロは盗賊よ。いざとなれば忍び込ませて、調査を頼むことだって出来るかもしれない。私たちにはない技能を彼は持っている。なら、手札のひとつとして側に置いておくメリットは充分にあると思うけれど」


 忍び込ませる? 大聖堂に?


 もちろん、そんなことができるなら、向こうの出方によっては奥の手になり得るが……。


 でも、ハイゼンドールはハイズ地方最大の都市だし、大聖堂は王城にも等しい規模とセキュリティー能力を有している。

 ただの盗賊がそんな場所に入り込めるものなのだろうか。


「なぁテオドロ、たとえばの話だけど、ハイゼンドールの大聖堂に忍び込め……って言われたら、忍び込めるもんなのか?」


 参考までに問いかけてみると、テオドロは少し考えたあとに「フ……」と苦笑した。


 なんだコイツ。ムカつく反応だな。


「いや、すまねェ。なんつーか、二人はつくづく()()なんだな……って思っちまってよ」

「……含みのある言い方だな。ハッキリ言えよ」


 テオドロは乱れていた髪をクイっと撫でつけ、綺麗なオールバックに整えた。

 癖になっているのか、一房だけ前髪が垂れる。


「忍び込めるかどうかと言われりゃ、そりゃ忍び込めるぜ? 何かを盗み出して来いってだけの話なら、それが一番手っ取り早いだろうよ。だが、話を聞く限り、目的は盗みじゃなく調査なんだろ? なら賢い手段とは言えねェな。忍び込むんじゃなく、使用人として潜り込んだほうがいい」

「おお……?」


 思ったよりずっと本格的な回答に、ちょっと気圧される。

 なんだかプロフェッショナルな感じだ。


 テオドロは手振りを交えて饒舌に語り始めた。


「たとえば庭師だ。大聖堂ほどの規模となりゃ山ほど庭木を植えてる。いくら職人がいたって足りねェし、いつだって人手を求めてるもんだ。それと、敷地内に闘技場跡があるのは知ってるか? ありゃ古代の建造物でね、年じゅうツタが生えてくるからそれを剥がせる奴が必要なんだ。オレのように高所作業が得意なヤツはすぐに重宝されるだろうな」


 確かに、大聖堂には闘技場らしき円形の建物が併設されている。

 この世界に来てから最初の一年間はハイズ地方にいたから、何度も目にする機会はあった。

 使われているところは見たことがないが、どうやら世界遺産的な価値があるようだ。


「あるいは馬丁(ばてい)、料理人、左官工、煙突掃除……なんでもいい。とにかく普通に就職して、敷地内を歩ける立場になっちまえば全くリスクはねェ。そんで一度入り込んじまえばやりたい放題よ。何しろオレにかかれば錠前なんざ無いも同然だからな。大聖堂のどこにでもお邪魔できるぜ」

「おお……」


 コイツ、ひょっとして盗賊としてはかなり優秀なのか?


 よく見れば無駄に引き締まった体つきをしているし、肩の筋肉が異様に発達している。軽量級ボクサーやロッククライマーを彷彿とさせる体型だ。


 それに、妙に指の関節が太いような気がする。

 どうしてそうなったのかは分からないが、見れば見るほど、何らかの専門的な反復作業によって作られた肉体だと分かる。


「お前、本当に足を洗ったんだろうな……?」

「ほ、本当だって! マジでもう盗みはやってねェ、博愛神に誓ってもいいッ!」


 そこを疑われるのは心外なのか、かなりのパワーワードを持ち出してきた。

『博愛神に誓う』という文言は、この世界の住人にとって軽々しく口にできるものではない。よほどの異端思想の持ち主でもない限りは。


 ともあれ、俺たちにはない技能をテオドロが持っているのは間違いないらしい。


 俺もブリギットも戦うのは得意なほうだが、潜入や鍵開けといった分野はからっきしだ。暴力ではどうにもならない課題には弱い。


 盗賊とは言っても現役ではないようだし、むしろ、このまま冒険者の道を進ませたほうが再犯予防になるとも考えられる。


 なら、()()を兼ねて手元に置いておくのも一つの選択肢か。


……結局、言いくるめられたのは俺も同じだな。


「……分かったよ。ひとまずハイゼンドールまでついて来ることは許可する。ただし、一度でも盗みを働いたら迷わず置いて行く。というか、衛兵に突き出す。それでいいな?」


 念を押すと、テオドロは目を輝かせた。


「も、もちろんだ……! やった、やったぜ姐さん!」

「せいぜい足を引っ張らないことね」


 澄まし顔で肩をすくめるブリギット。

 あくまで他人事のような表情だが、どこか清々として見えるのは気のせいだろうか。



 誰からともなく、フィノックへ向けて歩き始める。


 長らく続いた二人旅に終止符が打たれ、三人ぶんの足跡が俺たちの後ろに刻まれていった。





――クラスメイトから次なる手紙が届いたのは、フィノックでのことだった。



一章『旅の仲間』完


二章『勇者の尻ぬぐい』へ


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