一話 手紙
石橋、久しぶりだな。
僕を覚えてるか? クラス委員長の安藤延吉だ。
まずは君に謝りたいことがある。
六年前のあの日、《天賦》を授かれなかった君を追放したのは少しやり過ぎだったと思っている。
君が天使長セラフィーナ様に口答えしたのが原因とはいえ、生身の少年を追い出すなんて少々配慮に欠けていた。
でもまぁ、なんとか生きていたようで何よりだ。
『遺跡荒らしのハンマ』というのは君のことだろう?
噂を聞いたときはピンとこなかったが、そういえば君のフルネームは石橋汎磨だったな。涼屋さんがクラス全員の名前を暗記してなかったら、あやうく見落とすところだったよ。
それにしても遺跡荒らしとは何のことだ? まさか盗掘でもしてるんじゃないだろうな?
どんな惨めな暮らしをしているのか知らないが、よりにもよって犯罪に手を染めているとは……。
まぁいい。今回は大目に見よう。
そんなことより、僕たちは今、少々困った状況に置かれている。
なぜか《天賦》の力が消えてしまったのだ。
下級天使に問い詰めたのだが、
【本日をもっ……ート能………ービス終…です】
とかなんとか、ノイズ混じりの要領を得ない回答しかしなくなった。よく分からんが、早くなんとかしてほしいものだ。
問題はもうひとつある。
《天賦》とともに《言語理解》の能力も失われてしまった。
今の僕たちは現地人とコミュニケーションが取れず、聖都ハイゼンドールの神官たちにこの現状を伝えることすらできない。唯一言葉が通じる上級天使様たちも、なぜか最近は姿をお見せになってはくれない。
一時的にとはいえ戦闘能力を失い、言葉も通じない僕たちは、腹立たしいことに腫れもの扱いだ。
まったく、救世の勇者に対して無礼な奴らだよ。
まぁ、神宮寺の野郎がうな垂れている姿はいい気味だけどな。最強の勇者だとかなんだとか、女子からも現地人からもチヤホヤされて調子に乗ってるからこういう目に遭う。愛川さんもあんな顔だけの野郎じゃなく、頭脳明晰なこの僕を頼ればいいものを。ああ、ムカつく。結局顔なのかよ。いっそのこと《天賦》がない今のうちに神宮寺の■■(『寝首』の二文字を塗りつぶした跡)
話が逸れたな。
何はともあれ、これでは使命を果たせる日も、元の世界に帰れる日も遅れてしまう。
さて、そこで君に提案がある。
通訳として僕たち勇者に仕えたまえ。
曲がりなりにも《天賦》なしで生き延びたということは、この世界の言葉を話すくらいのことは出来るようになったのだと思う。
そのささやかなスキルを活かして、クラスの代表者である僕の言葉を神官たちに伝えてほしいのだ。
そうしてくれたら、セラフィーナ様に逆らった件は不問としよう。
もし望むなら、この大聖堂の一室に住まわせてやってもいい。最近なぜか外出をさせて貰えないが、それ以外は快適だぞ。
お互い過去のことは水に流して、より良い未来に向けて協力し合えたほうがいいはずだ。そう思うだろう?
ああ、もちろん、この世界の言葉を話せるならの話だ。
もし未だにそれすらできないなら……悪いが用はない。
戦うこともできない、言葉も話せないような無能に使い道はないからな。
それでは、色よい返事を待っている。
――安藤延吉




