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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
7章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、世界の敵と対峙する。

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月の女神ちゃんと宵闇の妹女神ちゃん

「ミーシャとリョカは今頃ゼプテンに着いた頃か」



「はい、今しがた到着したようです。たくさんの人に出迎えられていますよ」



「聖女ならともかく、魔王まで大歓迎されるとはどうにも違和感しかねえな。もっとも、世界に害を成すほどの力を持ってんのは聖女の方だが、見た目じゃわかんねぇからね」



「あら、ミーシャさんは世界と敵対なんてしないと思いますよ」



「魔王が隣にいりゃあな」



 意味深なことを言って格好つけているアヤメを横目に、わたくしはすでに主を失くした血冠魔王こと、ロイ=ウェンチェスターが拠点としていた城を歩き回る。



「痕跡はないです、か」



「おめぇは一体何を探しているのよ。俺まで連れてきたんだから、それなりに面白い用事なんだろうな?」



「面白い。かはわかりませんが、どうにも引っかかっておりまして」



 あの日、最速の魔王こと、銀髪の歌姫は古い魔王の1人である血冠魔王を打ち倒した。けれど、あの時、わたくしでも把握していなかった奇跡が起きた。

 あの時、あの状況では奇跡であるのは疑いようもないことでしたが、あの手の力を発揮できる人などおよそ存在していない。

 ならばあれは何か、神々ですら把握できない本当(・・)の奇跡だとでもいうのか。否、それはあり得ない。



「ていうか、あの魔王本気でヤバいな。ミーシャのヤバさに隠れられる(・・・・・)程度ではあるが、正直それも計算ずくな気もしなくもない」



「リョカさんはミーシャさんを隠れ蓑になんてしませんよ。むしろわたくし的にはミーシャさんを心配するあまり、自身を敵の目に晒すような行動をしないか心配です」



「あいつら、本当に互いを大事にしあっているせいか、行動の制限が次々に外れやがるからな。守るために次の強さを。を互いにやりゃあそりゃあ強くもなる」



「とても素敵ですよね」



「魔王と聖女じゃなけりゃあな。というかルナ、ミーシャはもらうぞ」



「駄目だと言っているでしょ」



「どう考えても俺の信者にする方があいつは強くなるわよ。お前はリョカがいんだからいいだろうが」



「そういうことでは……というかこうもあっさりとベースとなる女神が変わってしまっては、色々不都合も出てきてしまいますし、何より女神ごとの権能(・・)についての説明もしなければなりませんし、あとであなたも2人の下についてきてくださいね」



「そういうのはお前がやってよ。俺がその手のこと苦手なの知ってんだろ?」



「わたくしだけに押し付けるのなら、ミーシャさんは任せられません」



「くそ~」



 人の世に合わせた構造としては、権能などという力を持っているのは教会の司祭以上で、王族の一部、貴族にも数人、聖都の聖女数人、今期の大聖女と呼ばれている彼女(・・)、社会的地位としてはリョカさんもミーシャさんも申し分はないのですが、魔王がそれを持っているとなると色々と問題になりそうです。



「魔王に権能が与えられるのは初か?」



「当然です。けれどリョカさんはすでに何となく理解しているのではないでしょうか? 彼女の絶慈、少しですが神の気を感じられました」



「すでに織り込み済みか。あいつの頭の回転は異常だな。()の人間っつうのはみんなそうなの?」



「いえ、リョカさん……彼が彼の世界でも優秀であったからだと思われます。引き出しの多さ、発想の質の良さ、思考を行動へと移す速さ。何をとっても優れた人間であったことが窺えます」



「でも死因が金を使い過ぎて食うものなくなった故の餓死だろ? 頭の良い奴はそんなことにならないんじゃない?」



「……それを知らなかった(・・・・・・・・・)から、彼は突き進むことしか出来なかったのだと思います。だって、死の間際まで彼の声は可愛くなることだけでしたから」



「そこまでいくと一種の狂人ね」



「ええ、あのままだったのなら、きっとリョカさんは魔王になんてなっていないと思います。でも、この世界で、彼は――彼女は手に入れてしまったから、福音を鳴らすことを止めなかったから、魔王でいられるのでしょう」



「お前の祝福が魔王を生んだってか? しかも過去最高にやり手の魔王を。こりゃあ責任問題に発展するわよ。具体的に言うなら、無償でミーシャを俺に寄越す」



「お断りです。それにあなただと他の子たちに対して無防備になってしまうでしょ」



「お前の信者を横からかっさらっていくもの好きなんて俺くらいなものなんだからいいじゃないの」



「……あなた1人ならわたくしも安心できたのですけれどね」



 こうしてアヤメと会話をしながら歩き回っていたのですが、ふとある扉の前で足を止めてしまう。



「というか探し物はまだかよ~」



「ありました」



「お、この部屋か? 何だか陰気な気配がするわね」



 アヤメの言う通り、綺麗な気配はしない。それどころか、なにかヘドロのような纏わりつくような気配に、わたくしもアヤメも扉を開けるのに躊躇してしまう。



「開けるぞ」



 しかししびれを切らしたアヤメが多少の警戒心をもって扉に手をかけた。



 開かれたその部屋に、わたくしは手で口を覆う。



 凄惨な光景があるわけでも、嫌悪感を抱くような生物がいるわけでもなく、その部屋は綺麗な部屋で、部屋の中心には花や装飾で飾り付けられた椅子が1つ置いてあった。



 けれどこの部屋の過去が、この部屋でのあまりにも無価値なおままごと(・・・・・・・・・)がわたくしを絶句させた。



「……ああ、うん、ここから始まったわけか」



「エレノーラさんをここに置いて、ここで60年近くままごとを続けていたのですね」



「ああ、途方もなねぇほど無駄な部屋だな。というか他の臭いもするな、ああなるほど、お前が動いたわけがよくわかった」



「……奇跡、ですか」



「人からみりゃあ奇跡だろ。俺たちからしたら吐き気まで覚える最低最悪な禁忌だけれどね」



 リョカさんたちとこの城に来た日、あり得ない出来事が起きた。エレノーラ=ウィンチェスターに魂が宿った。

 人々はこれを奇跡と呼ぶでしょう。

 でも違う。奇跡であればどれだけ良かったか。これを行なった者(・・・・・)は奇跡とは対極に位置するような、この世界に存在してはいけないもの。



「そういやぁ俺だけじゃなかったな、お前に逆らうような奴っつうのはよ。俺に可愛げがあってよかったな」



「ええ、リョカさんと再会したら一緒に女児服を着ましょうね」



「絶対に嫌よ! ったく、それにしても相変わらずやることがみみっちくていけないな。見た目だけじゃなく、性根まで腐ってんじゃねぇか?」



「見た目は腐っていませんよ。ただ、性根については同意ですね」



 わたくしとアヤメは部屋の一角、闇に飲まれて視界すら通らない箇所に目を向ける。



「アリシア」



「おう陰気しか友だちにならねぇ系女神、久しぶりだな」



 闇に向かって声を掛けるわたくしたち、するとその闇から小さな女の子と、生気を全く感じられない女性が現れた。



「アヤメちゃん酷いなぁ~、ウチにだって立派なお友だちはいるよ~」



 アリシア。わたくしたちと同じ女神の一柱、そしてわたくしの――。



「その横に引っ付いてる死んだ魂(・・・・)か? そりゃあダチとは言わねぇだろ。そもそもお前のですらねぇ」



「ううん、これはウチのだよ。ね、ルナ姉さま(・・・・・・)



「……その魂はその子の物であって、あなたのものではありません」



 わたくしは、わたくしの妹であるアリシアを睨みつける。



「きゃあ怖い。ウチを守って~、フェルミナ(・・・・・)ぁ」



 わたくしが彼女の力になればと渡した杖を構えた囚われた魂(・・・・・)、わたくしは歯を食いしばり、叫びたい衝動に駆られながらもアリシアを睨むことを止めない。



「そうやって睨んでばかりだと、小動物みたいだよルナ姉さま。ウチのことも、フェルミナのことも殺しちゃえばいいのに」



「……」



「ああ、優しいルナ姉さまにはそんなこと出来ないかぁ――」



「だから俺がいんだろ。てめえの首も、フェルミナの首も今持って行ってやろうか?」



「……アヤメちゃんがウチをどうにも出来ないでしょう? だってあなた口ばかりの雑魚だもん」



「やってみっか? 爪も牙も、常に磨いてはいるのよ」



「たくさん磨いて鏡のようにウチを映せるようになったら相手してあげるよ。最近ウチも可愛くなりたいなって思えたから、手鏡くらいには使ってあげるよ~」



 アヤメとアリシアが一触即発な空気になったのですが、わたくしには聞き逃せない言葉が聞こえた。



「可愛く?」



「うん、だって今の姉さまのお気に入り、可愛くなりたいってずっと言ってるんでしょ? それならウチも可愛くなくちゃじゃん」



「――」



 わたくしの中で何かが決壊する音が聞こえた。

 夜を揺らし、月を泣かせる。



「ありゃ、失言だったかなぁ」



「……アリシア、1つ言っておきます。もしリョカさんとミーシャさんに手を出したら、わたくしは今度こそ、あなたを消します。どのような手段を使ってでも、あなたを捻り潰します」



「――ッ。や、やってみたら? そう言って今まで一度だってしてないんだから」



 女神らしからぬ言葉と表情をしているはずですが、これだけは譲れない。譲ってはいけない。もうあの時のようなことを繰り返してはいけない。



「もういい加減フェルミナには飽きたし、新しいお友だちが欲しくなったの。あの2人、随分楽しそうだよねぇ」



「アリシア!」



「近いうちに会いに行くよ。ルナ姉さまは、ウチから全部取られちゃえ」



 キャハハと耳をつくような笑い声を残し、アリシアは死んだ魂――フェルミナ=イグリーズを連れて姿を消した。



「……魂を引き出す者。エレノーラさんはアリシアが寄越したのですね」



「だろうな。ミーシャとリョカへの顔見せってところだろ。どうすんだ?」



「わかりません。わかりませんが、もう奪わせません」



 握り拳を作り、わたくしは決意する。

 するとため息を吐いたアヤメが頭に手を置いてきた。



「しゃあねぇ。付き合ってやるわよ。報酬はリョカの飯だ、一緒に頼んでくれよ」



「……ええ、ありがとうございます」



「そんじゃあこんなところさっさと出て行くぜ。俺はミーシャに言いたいことが山ほどあんだよ。ついでにテッカとカナデ、ちび……今はプリマだったか。あれらに話もあるしな」



「ですね。それでは行きましょうか。わたくしの仕事、誰か代わってくれる方をすぐに探さなくてはです」



「お前の仕事やりたがる奴なんていねぇだろ。まっ、緊急事態っちゃ緊急事態だし、テルネ辺りなら協力してくれるかもしれないわね」



「あ~……見返りが怖いですが、それしかなさそうですね」



 明るく笑うアヤメの顔が今はありがたい。

 わたくしは冷静に努めながら、魔王城を後にするのでした。

ガイル=グレッグ


 金色炎の勇者。聖剣・ファイナリティヴォルカントを使用する高火力が売りの戦闘狂系勇者。聖剣に爆炎を纏わせ、近接戦闘が主な戦闘スタイルとなるが、炎を丸めて砲弾とすることでそれを殴ったり蹴ったりで飛ばす中距離戦闘も可能。

 リョカたちと出会う前は殴るだけの戦闘で何とかなると考えていたが、リョカのコロコロと変わる戦闘スタイルを見て、自分も様々な攻撃方法を持とうと思った。

 最近起きた気分が下がった出来事は、強者だと思って殴りかかったが思った以上に弱く、頭に浮かんだ2人の少女を基準にし始めたために、野良での戦いを一度でもつまらないと感じてしまったこと。



テッカ=キサラギ


 金色炎の剣、ガイルと共に行く勇者の仲間。ギフトは風と影に潜む者。風斬りのテッカと呼ばれており、そのスピードはミーシャの大教会付きの神獣拳(仮)と並ぶほどで、自身もそのスピードを誇っている。

 戦闘スタイルはスキルによる気配を他のものに付与して撹乱し、スピードで圧倒する戦い方であるが、最終スキルの火力が凄まじく、スピードだけで終わらない強者である。

 最近起きた気分が下がった出来事は、どこぞの聖女に速さで並ばれたことと、どこぞの魔王は速さすら超越している事実を知った時。



アルマリア=ノインツ


 ゼプテン冒険者ギルドのギルマスで、勇者であるガイルたちと共に依頼を受ける脳筋系幼女。空間越えの鈍器幼女と呼ばれている。ギフトは空を超える者。亜空間に武器を仕込んだり、座標ジャンプをしたりするスキルを使い、亜空間に仕舞われている自身の身長の数倍はある大槌を使用して戦う。

 最近起きた気分の下がった出来事は、若い冒険者であり、次を担う強力な2人に何もかもを担わせてしまったこと。



ロイ=ウェンチェスター


 60年ほど魔王として世界に在った古い魔王の1人。ギフトは魔王と神官、ブラッドヴァンの3つ。、血冠魔王と呼ばれ、血液を使った戦い方をする。なお、表舞台に出ていたほとんどはブラッドヴァンのスキル、血思体の分体だったために、本人はあまり表舞台で戦ったことはなかった。もっとも、血思体では魔王のスキルしか模倣できなかったために、前線に出て神官の最終スキルであるアークブリューナクを使用しての本体の戦闘力はガイルと並ぶほどで、表に出ていなかったから弱いというわけではない。魔王の最終スキルである絶慈はブラッドペイン。他の血液に帰巣本能を付与し、どこからでも、どのような状態からでも攻撃を仕掛けてくる。なお、この絶慈は圧倒的な火力に弱く、勇者の神気一魂や大教会のような超火力には蒸発してしまうが、血思体の使えるロイは手数で彼らを押し切った。

 最近起きた気分が下がった出来事は、町を散策中、亡き娘と同い年ほどの幼い少女に、おじさん怖いと言われたこと。その町は破壊した。

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