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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
7章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、世界の敵と対峙する。

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魔王ちゃんと帰る場所

「うぷ、死ぬ。海割って歩いた方が早い気がしてきたわ」



「意外な弱点だな。それとお前なら本当にやりかねないから大人しくしていろ」



 血冠魔王との戦いを終え、僕たちはホームであるゼプテンへと戻る船に乗っていた。

 なんだか、とても長い時間をラットフィルム領で過ごした気がする。それほどあの場所では濃い時間を過ごしていたのだろう。



「お、そろそろ見えてくるな」



「やっと帰宅できる。あ~お風呂入りたい」



「おりゃあ酒が飲みてぇよ。あっちの酒は肌に合わん」



 昔の世界にいた時も、こちらの世界でも酒なんてまったく飲んでいなかったが、祝いの席でなら多少入れても良いかなと思想がぶれかかるけれど、やはり肝臓が可愛くなくなるのは避けたいから、やはり飲まないでいよう。



「えっと、これが座標でぇ……あ~っ! 数字いっぱいで頭が痛くなるですよぅ!」



「まあ慣れですよ。それかまあ、僕はアルマリアさんの他のギフトを知らないのでわかりませんが、ビーコン……現闇みたいにその場所の目印になるようなものを置くことが出来れば簡単ですよ」



「もっと無理ですぅ」



「僕は聖剣と盾でやっちゃいますけれどね」



「お前の聖剣の使い方おかしいだろ。というか聖剣は1人一個だろ」



「うんなバカな話があるか。なんで聖剣を作る施設はあるのに、同じものしか作れないのさ? 周りから集めた信仰を可視化するのが聖剣顕現であって、聖剣を作ること自体は何でも出来るよ」



「……本当、お前の頭ン中どうなってんだよ」



 呆れるガイルを見ていると、テッカがこちらに歩んできた。



「あ、ミーシャの面倒見てくれてありがとうね」



「目を離すと何をしでかすかわからんからな。勝手ながら近くに控えさせてもらった」



「いやいや助かるよ。僕もアルマリアさんが離してくれないから動けなかったし」



 ミーシャを部屋まで運んでくれたテッカに礼を言い、僕は未だにうんうん唸っているアルマリアさんに視線を向けた。



「だってぇ、リョカさんの方が空を超える者を上手く使えるんですもん。今の内にコツを聞いておかないとですよぅ」



「グリッドジャンプ使い勝手いいですからね。これからも多用させてもらいます」



「多用ってお前、常にアルマリアを傍に置いておく気か? それはちと困るな」



「……」



 僕は海を眺め、清々しい顔でガイルの言葉を右から左へと流した。



「おい待てなんだその面」



「また戦術が増えたのか? やはり俺も一度お前と戦うべきだな。ミーシャはガイルに任せる。顔面を殴られろ」



「ふざけんな。ミーシャとやるのは構わねぇが、俺だってまだ決着ついてねぇんだ、お前が先に顔面殴られろ」



「ちょいとお2人さん、人の幼馴染を妖怪顔面殴りみたいに言うのは勘弁してくれません――っと、アルマリアさん?」



「リョカさ~ん、この数字何ですかぁ?」



「あ~はいはい、ちょっと待っててくださいねぇ」



 腰に取り付けられた2体の内の1体のクマからスキルを引き出し、アルマリアさんと視界を同じにする。

 ガイルとテッカはまだ気が付いていないようだけれど、次戦う時に度肝を抜かしてやろうと思う。



「えっと、その数字はスキルの威力を現す……なんだこの数字異様に高いな」



「リョカ、もう駄目だわ。海を割るわ」



「おいゴリラぁ! 大人しくベッドで寝てろぉ!」



「リョカさんリョカさん、こっち、こっちの数字は」



「おいリョカ! 埒が明かねぇからちょっと水上でテッカとやり合ってくるわ!」



「望むところだ脳筋勇者、勝った方がリョカとの戦闘権を得るということで良いな?」



 両手に信仰を込める聖女と、僕の袖を何度も引っ張るジャンプ幼女、聖剣を出す金色炎の勇者と短剣を構える風斬り。

 僕は頭を抱え、魔王討伐よりも精神的に疲労するこの状況に肩を落とした。



「幼稚園かここは」



 僕は大きなクマを一体顕現させ、ミーシャの口に火を点けた薬巻を突っ込み、彼女をクマに抱えさせてベッドに戻し、紙とペンでアルマリアさんの視界から得た情報を書き殴って彼女に手渡す。

 そして本当に戦闘を始めたガイルとテッカにはミーシャぐまを差し向け、取りあえず顔面を殴らせ、2人が海に落っこちるのを横目で眺める。



 やっと静かになった現状にため息を吐き、僕は改めてラットフィルム領があった場所に目を向けた。



 勇者一行に仕込まれていたとはいえ、僕目線では初めての魔王との邂逅に、少しだけアンニュイになる。

 ロイ=ウェンチェスターは魔王とは名ばかりの父親だった。けれど彼の名だけは魔王として世界に刻まれており、きっとまだ見たこともない魔王も悪行を重ねている者も多いのではないだろうか。



 そんな彼らに、僕はどう映るのだろうか。



 今回のことはきっとすぐに世界中で噂されるだろう。

 これから先も、僕は可愛い僕のままでいられるのだろうか。



 そんな不安が頭を過ぎった。



 すると、船の縁を2本の腕が掴み、そこからずぶ濡れのガイルとテッカが揚がってきた。



「マズそうなお魚が揚がったなぁ」



「おいてめぇ言いたいことはそんだけか」



「……出し入れ自在なのかあのクマ」



 ガイルクマの聖剣のような何かから火を出し、それで2人を乾かしていると、先ほど湧いてきた不安に、僕は潮風になびく髪を片手で押さえて遠くに目をやる。



「俺の聖剣らしきもので乾かされるとは――っと、リョカ?」



「う~ん?」



「何か考えごとか?」



「……うんにゃ、魔王って、あんな感じなのばかりなのかなぁって」



 ガイルとテッカが顔を見合わせたのが見えた。



「なんだ、ビビっちまったのか?」



「あのねぇ、何度も言ってるけれど、僕はまだ15歳のか弱い乙女なんだよ? これから先を不安にだって思うさ」



「歳の話をされると弱っちまうな。確かに、お前さんたちの年じゃあまだまだのんびりとしてたいわな」



「そうだな。冒険に出るより、学園で青春を謳歌したい年頃だろうしな」



 僕はむっと顔を浮かべる。

 こんな時だけ幼子扱いされるのも、それはそれで癪である。今回のこともそうだけれど、僕たちはそれなりに頑張っていたのではないだろうか。



「少しは引き留めてよぅ」



「俺たちが止めようが止めなかろうが、お前さんたちは勝手に首を突っ込んでくだろ。女神の寵愛を受けて、まともな人生歩めるわけねぇだろ」



「だな。不安もわかるが、お前たちはすでに、それら(・・・)を放っておけない。勇者のお墨付きだ、胸を張ると良い」



「2人に僕の素敵ボディーを見せつけたところで全く反応しないからヤだよ」



 ベッと舌を出して僕は2人に言い放つ。

 慰められているみたいだけれど、まだまだリョカちゃんの不安を払うには足りないと2人に目を向けてみる。



「ったく、しゃあねぇ魔王様だな」



「勇者とその剣におねだりする魔王なぞ聞いたことないぞ」



「わ――」



 2人に頭を撫でられ、少しだけ頬が緩んだ。



「なあリョカ、お前さんは血冠魔王……ロイ=ウェンチェスターをいい奴だと思うか?」



「まさか。思惑と思想はどうあれ、あれは超えてはいけない一線を越えていた。だから僕はその行ないを許すつもりはないよ。ロイさんが何もしていなかったのならお友だちにはなりたかったけれどね」



「それで良い。これから先、お前さんの感情を揺るがす()はわんさか出てくる。でもな、そのてめぇの中にある真っ直ぐ立った一本杭さえありゃあ、明日も違えることなんてありゃあしねぇよ」



「明日の不安なんてものも、俺たちの中にあるたった1つの信条さえ貫き通せれば、なんとも気にならないものだ。俺たちはそうやって今まで生きてこられたぞ」



 僕はつい、口元を手で覆いながら笑い声を漏らしてしまう。

 2人が訝しげな表情を浮かべてきたけれど、首を横に振る。

 本当に2人は勇者とその剣なのだと再認識した。ガイルとテッカの生き方を真似することは難しそうだけれど、近づけることで少しだけ不安からは離れられるような気がした。



「そこはさぁ、か弱い僕を守ってやるくらい言ってくれなきゃ」



「俺一回負けてんだけど」



「お前たち2人が大人しく守らせてくれるのなら、そういうことをしてやらんでもないが、勝手に前線に出て倒してくだろうが」



「それじゃあもっと強いところを見せてよね、金色炎の勇者様と風斬り様」



「生意気だなぁ」



「まったくだ。ああそれとリョカ、もう1つ不安を解消する方法があるぞ」



「う~んぅ?」



 テッカが僕の背後を顎で指した。



 彼の視線の先を追って振り返ってみるともうゼプテンの港が見える場所で、その港に集まる人々に僕はクツクツと本当に嬉しくなって笑ってしまう。



「リョカちゃ~ん! ミーシャちゃ~ん! おかえりなさ~い!」



「俺たちにはねぇのかよ」



「マナの奴、今日はリョカたちを離さない気満々だな」



 マナさんやゼプテン冒険者ギルドの冒険者たち、街の人々が港で大きく手を振っていた。

 クマに連れられたミーシャとアルマリアさんも甲板に出てきて、そんな人々の顔に、僕と同じように頬を緩ませている。



「帰る場所がありゃあ、不安なんてどうでもよくなるもんさね」



「……うん、そうだね。待ってくれている人がいるって、すっごくいいね」



「だろ」



 僕は……私はふと、現代時代を思い出した。

 こんな風に帰りを待ってくれている人がいるなんて、向こうではなかったな。



 僕は一度肩を竦ませた後、すぐに笑みを浮かべ、彼ら彼女らに手を振り返す。



「ただいまぁ!」



 精一杯の愛嬌と、不安なんてかき消すほどの可愛さで、僕は僕を愛してくれる人々に大きく手を振るのだった。

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