獣姫ちゃんと彼女らの試練
「ん~――んっ、スキルもいい感じで手に入ったし、今日はこのくらいにしておこうか」
「だね」
「ところでクレインは拳と武器、どっちでいくつもりなの? 今日は武器しか使ってなかったよね?」
「う~ん、悩ましいところだけれど暫くは武器かな。ほら俺ってあっちでも拳じゃん? だからこっちでは向こうとは違った戦い方をしようかなって。セルネは完全に脚だよね」
「うん、楽しい」
鍛錬を終えて汗を拭いながらクレインとこれからの話をしている。
このゲーム、一応メインシナリオというものがあるらしいけれど、人によっては個別のシナリオがあるらしく、リョカ曰くメインよりもそちらを優先したほうが良いとのことだった。
そんなことを話していると、ジイがぞろぞろと騎士たちを連れてやってきて、俺たちは首を傾げる。
「ふむ」
「ん~?」
俺がジイたちの顔を見ていると、突然クエストが発生し、受けるか受けないかの選択を迫られた。
クレインも同じなのか、視線をステータス画面が出るだろう箇所に向けていた。
『ジイに認められろ』
クエストはそれだけで、報酬には『愛らしリボン』というあまり惹かれない部類のアイテムが報酬となっていた。
俺とクレインは顔を見合わせて頷くと、互いにクエストを受注し、戦闘圧を上げてジイたちに構える。
「姫様、お覚悟を――お前たち、行きなさいっ!」
飛び出してきた騎士たち――今回はこの間とは違い、剣を抜き、俺たちに戦意を以て剣を振るってきた。
「クレイン! 俺が受けるからその他はお願い!」
俺は息を吐くと頭の耳をピンと立て、したり顔で周囲に目をやり大きく口を開く。
「え~、おじさんたちこんなか弱い姫さま相手にそんな大人数で剣を抜いちゃうんだぁ。もしかして1人じゃ何もできないのぅ? なっさけな~い――」
スキル『鬼さんこちら』によって騎士たちが額に青筋を浮かべ、俺だけに敵意を向けてきた。
このスキルは一応パッシブなんだけれど、相手を子どもらしく? 煽るとその効果が発揮されるというもので、タゲをこちらに向けさせるというものだ。
具体的には挑発行為・40%~。だかなんとからしい。
こちらの言葉次第で成功率と拘束時間が変わるらしく、戦っている最中も言葉を発し続ければそれだけで効果も上下する。
「……セルネってさ、すごいよね。俺は尊敬するよ」
「ほんと~?」
「うん」
騎士たちの攻撃をくるりくるりと躱しながら、相手の脚をはらったり、振り下ろされた剣に脚を下ろして床に埋めたりと行動を阻害させながらも隙を作っていく。
それに合わせるようにクレインがあの大きな――『月輪九万』と呼ばれる武器を振るった。
「『然月』」
下段から思い切り月クマを腕を振るって切り上げ、騎士の1人を上空に打ち上げる。
その刃を振った勢いのまま、月クマを一回転させ、勢いをつけてその上空の騎士に刃を投げる。
「『月閃墜牙』」
城の天井に埋まった騎士に見向きもせずに戻ってきた月クマを手に戻したクレインがさらに俺の周りにいる騎士たちに刃を振るう。
クレインにタゲが向きそうになるから、俺は騎士たちに軽く拳をぶつける。
「きゃはははっ♪ おじさんたちこんなか弱い女の子たちに手も足も出ないんだぁ。このくらいのパンチで十分だよね~。えいえい、ほらほらこれでやられちゃうなっさけな~いザコザコのお・じ・さ・ん」
血管切れるんじゃないかってくらいの怒りを顔に浮かべた騎士たちが、先ほどよりも激しい攻撃を繰り出してくる。
深刻そうな顔をクレインが俺に向けてくる。何か不備があっただろうかと思案するけれど、特に気になる点は見つからず、俺は騎士たちの行動を制限していく。
クレインが次々と騎士たちを倒していくから、そろそろ俺が攻撃に移っても問題はなさそうだ。
俺は後退して騎士たちからそれなりに距離をとり、その場で何度も靴の金属板で床を鳴らし、舞うように、踊る様に――ひらりひらりと勢いをつけていく。
今日はスカートじゃないから気分が少し落ちるけれど、それでも今日まで培ってきた鍛錬は嘘を吐かない。
「――」
ひときわ大きく床を鳴らすと、その場で両足の踵同士をつけて真っすぐと立ち息を吸う。
俺は正面を向き、にひひと笑みをこぼしながら片腕を上げてその場にいるみんなに合図を送ると、腕を下げて軽く走る。
そして助走をつけた俺はそのまま床に手をついて回る転回を繰り出し、綺麗に着地すると同時にその勢いのまま側転――脚が天を向くと同時に手に思い切り力を入れて飛び上がり、乱戦になっている箇所に脚を突入させる。
「『天槍』」
複数人を巻き込んでの足技、数人が怯んだところで床に下りた俺はそのまま攻撃を続ける。
「『蓮玉』『芦蜂』『八空鳥』――」
SPが切れるギリギリまで攻撃を繰り返し、数人が朦朧したのを横目に、スタミナが回復するのを待ちながらその場でクルクルクルクルと回る。
一回転、二回転、三回転――回転をする毎に軸にしている脚に力がたまっていく。
ステータスでもどんどんと最高STRが高くなっていく。
騎士たちが意識をはっきりさせるそのタイミングで、俺は軸足ではない足で床を蹴り、騎士たちに距離を詰めて蹴りを放つ。
「『その狼は後退しない』」
俺の戦闘圧が真っ白な狼の姿になって騎士たちをまとめてぶっ飛ばした。
やはり狼、決め技には狼が絶対に必要だ。
倒れ伏せる騎士たちを前にして、俺とクレインはジイに勝ち誇った笑みを向けるのだった。




