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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
52章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、離れてもいつも通り。

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神獣ちゃんと女神長女組

「うぅ、そんなに怒らなくてもいいではないですか」



「怒らいでか。知識に貪欲なのはいいけれどね、リョカちゃんの持っている知識は特にデリケートなんだから、それを知識を司る女神がいたずらに欲しちゃだめでしょ」



「はい……」



 リョカに出してもらった完全防音空間――あいつはまた簡単に世界を作り出す(・・・・・・・)。そんなに簡単ではないはずだけれど、あの魔王はこともなさげにこんなことをやってのける。

 真なる魔王――所謂悪逆の限りを尽くす魔王でなくて心底安心する。



 とはいえ――。



「綱渡りであることは否定できないわよねぇ」



「ちょっとアヤメ聞いてる?」



「ん~……?」



 俺とラムダ、それとクオンはリョカが用意していてくれたテーブルで俺が淹れたお茶と置いてあった菓子を囲んでいるのだが、テルネはその豊穣と竜に睨まれる形で2人の間に位置する箇所で正座しており、先ほどまでラムダの怒鳴り声がするほど激しく攻め立てられていた。



「ラムダありがとねぇ。それにしても最近は事なかれ主義を卒業したんだね」



「……それをし続けるとどうなるのか、嫌でも理解しちゃったからね。もうルナたちも甘やかさない。2人がしっかりしていてくれればこんなことする必要もないんだけれど?」



「僕はそれなりにやってるでしょ。問題はそっちの獣でしょ」



「俺に任せる方が悪い」



 ラムダの流し目をテキトーに流し、俺はテーブルの菓子を口に運ぶ。

 どこにいてもあいつの菓子は美味い。



「……あたしさ、グエングリッターでリョカちゃんと初めて会った後、こっちに呼ばれてからルナに彼女の経緯を聞いて、どんな人だったのかを知れたんだけれど、ルナほどとは言わないけれど、随分と可哀そうな(・・・・・)人生を歩んでいる子だった」



「そうだね、僕もそれを知った時、今ああやって人のために在ろうとしている姿に涙が出そうになるもん」



「同情なんてすんなよ、あいつはそれを望んでいないわ」



「わかっているけれどね……あの子はやっぱり歪だよ。世界を恨むことも、トラウマレベルの過去も、それを全部一感情で押さえつけている。深刻そうに見えないから誰も口には出さないけれど、本来人はそれを吐き出すべきだ」



 ラムダの言い分もよくわかる。

 深い闇を持った人間というのはそれを表に出しがちだ。隠しているようでも注意深く観察すればそれが露呈している。

 けれどリョカは違う。例えるのなら死体で大地を作り、その上の国で笑いあっている。

 それがリョカ=ジブリッド、月と星に手を伸ばし、天を仰ぎ続ける魔王だ。



 俺は茶を口に運び一息つくと、ラムダに目をやる。



「お前は随分とリョカを目にかけているのね」



「アヤメに言われたくないんだけれど? まあそうかもだけれどそりゃあそうでしょ。何度も言っているようにあの子はロイくんたちを救ってくれた。あたしは本当に嬉しかったんだよ。だから必ず恩は返す」



「ラムダも律儀ね。でもあいつはロイたちにも言っているように、そんなもん返してもらおうなんて思っていないぜ? そんなもん受け取ったら可愛げがないと思ってるからな」



「……そういう意味でも厄介な子だよ」



 俺は喉を鳴らして笑い、ラムダが飲み干したカップにさらに茶を淹れてやる。



「でも本当にリョカちゃんが色々やってくれるから、僕たち女神も、世界としての業務も安定してきているんだよね。僕的にはあの子を女神に仕立て上げたいくらい」



「人でいいって言ってんだから人のままでいさせてやれ」



 少し空気が柔らかになり、ふっとテルネが気を抜いていた。

 けれど俺の鼻にはその匂いが香ってきており、肩を竦ませる。



「あ、えっと、もういいですよね? 私も少しお腹が空いて――」



(――良いわけないでしょう。よくも、よくも私の(・・)リョカにあんな顔をさせましたね)



「――メルフォースっ!」



 テルネの足元が凍り付き、真っ青な顔を叡智神が浮かべた。



(テルネ、最近は随分とたるんでいるようですね。叡智の女神が知識もないアホ面晒して、挙句の果てにその知識を活用することなく感情のまま欲望をさらけ出して……恥を知りなさい)



「あわ、あわわ――」



「おうメル、随分とご無沙汰だな。リョカを大事にするのもわかるけれどな、妹泣かせてたらそのリョカが怒るわよ」



(……アヤメ、あなたにも言いたいことはありますが――まあいいでしょう。ここはリョカの顔を立ててこれくらいで勘弁します)



 やっぱり出てきたわね。

 終末神メルフォース、リョカがあんなことになったから顔を出すかもと思っていたけれど、まさか神核のまま顔を出してくるとはな。



「体は?」



(諸事情で動けません。でも奪われたとか操られたとかではないので安心してください)



「それならよかった。カナデのこと、ありがとうな」



(あの子は素敵な子です。加護をあげたいくらいです)



「魔王の力が安定してきたらな。今はまだそっとしておいてやりなさい」



 テルネの足元から氷が消え、本来叡智神が座るだろう箇所にふわふわとした丸い光源が陣取った。テルネ正座続行。



「長女組が集まるのは久々ね。ルナが見たら目の色変えてすっ飛んでくるわよ」



(ルナは今ミーシャと一緒でしたか。あの子はしっかりしているとはいえ、アンディルースのひざ元ですか。アンは卑屈ですからね、妙な勘繰りをいれなければいいのですが)



「……俺の聖女に随分気安いじゃん?」



産まれた時(・・・・・)からずっと見ているもの、リョカと同じ)



 柔らかく微笑んだような気配がした。

 終末神――世界を終わらせる唯一無二、全ての女神の終わり。原初にして終着。

 女神でも気軽にその名を呼ぶことを許されない絶対権力。

 そんな終末神が今まで誰にも見せたことのないような優し気な空気を放っている。



「……子がいるのは知っていたけれどさぁ、丸くなりすぎでしょ」



(あらクオン、確かに性格は丸くなったかもだけれど、意思と責務を丸めた記憶はない。竜のすべてに氷河期でも体験させてあげましょうか?)



 クオンが苦虫を噛んだような顔でメルに意識をやったが、すぐに視線を外してカップを傾けて口に運んだ。



「あ~……メル、もしかしてあたしに言いたいこともある?」



(ありますが、あなたが並大抵の葛藤で引きこもっていないことは知っています。それに別にラムダは言わなくても理解しているでしょう)



「そうだといいんだけれどね」



(本当、女神とは思えないほど真面目な子ですね。ただまあ、ルナとアリシアを放っておいたことについては喉から出たがっていますけれどね。いや、放っておいたというよりは踏み込めなかった。が正しいですか)



「……」



(受け入れるだけが優しさではありません。尤もそれは全女神に言えることですけれどね)



 リョカが作った菓子に頻りに触れようとするメルだったが、神核であるためか触れられず、どこか頬を膨らませたような気配がした。

 しかし終末神はすぐに咳ばらいをし、俺とクオンに意識を向けた。



(まあそこのアホ2人には期待していなかったとはいえ、あなたにすべて押し付けていたのは確かですし、気に病むことはありませんよ)



「誰がアホだ」



「アヤメよりはまともだよ!」



 ため息をついたメルがふと遠くに意識をやっていた。



(……しかし、リョカにあんな顔をさせるなんて――やはりアンデルセンは一度締めておくべきだったかな。いや、元々はあの子(・・・)が提案したことだったかしら。畑から生える戦力を作れ。我が娘ながらとんでもないことを言い出したものだと思ったけれど、これがこんなことに繋がるなんて)



「お前今なんつった?」



(気にしないでください。それよりもラムダ、話はリョカのことだけじゃないでしょ? ミルドのことはいいの?)



「……君は何でも知ってるね。ああうん、で、アヤメ、昨日はどんな話をしていたのさ? ミルドがバカやったことは聞いた。でもそれだけじゃないんでしょ?」



「カナデだなぁ――フィムには伝わってないか?」



「ギリギリで遮った」



 アリシア辺りは聞いていそうだな。

 俺はため息を漏らすとミルドの目的について話しだす。



「二度目のエクリプスエイドは極星システムを起こそうとしてたらしい」



「……馬鹿でしょ。え? もしかしてミルド、フィムのこと大好き?」



「だろうなぁ」



「星をオとす(・・・)ってそういう意味だったんだ」



(あの男に関して経過を観察ですね。どこからか悪意で、どこまでが善意か図り切れていません。魔王になった理由も……いえ、これは女神といえども漏らせませんか)



 メルは魔王の選定をしている女神だ。そしてその状況と過程は女神であっても漏らすことがない。人は人で、女神は女神だと徹底している。



 俺とラムダ、クオンで茶を飲んで一息つくと、ミルドのことに関しては初耳だったのか、テルネが困惑顔を浮かべて首を傾げていた。



(テルネ、わかっていると思いますが、この場所での会話はくれぐれも他に漏らさないように。それと私がここにいたこと、リョカとミーシャ、ルナにも言わないように)



「……はい」



「そういえばその諸事情、俺たちの助けはいるのかよ?」



(いえ、大丈夫です。私が動かなければいいだけなので)



 それはそれなりに緊急事態なのだが、こいつ言っても聞かないからな。

 意志が固いというか、誰かさんみたいに最善を導き出すと梃子でも動かない。



(ああそうだラムダ、それとヴィヴィラに関しては私が責任を持ちます。好きに動きなさい)



「うんありがとう。でももう国に戻れる気しないんだよなぁ。誰か代わってくれないかな」



(問題を解決してから決めなさい。別に女神が国を持てなんて規約はない、ルナが勝手に言い出したことだし、人の手で回るのなら任せてもいいんじゃない)



「だねぇ。どこかでリョカちゃんに相談してみるかな」



(そうしなさい、あの子は頼りになるわ)



 勝気に胸を張っていそうなメルに、俺たちも顔をほころばせた。

 しかしそんな終末神の気配がどこか暗いものとなった。



(ああっ、私もリョカに会いたい。抱きしめて頭撫でてたくさん甘やかしてあげたい)



「ヒナとヴィヴィラ、ランド辺りがひっくり返りそうなセリフね」



(あなたはいつも一緒にいるからいいでしょうけれど、私は気軽に会いに行けないの。それよりさっきのは何ですか? 私を脇に大好きなんて、私だって言ったことないのに! それにルナもいつもいつもあの子にくっ付いて――お姉ちゃんお姉ちゃんって言いますけれど、私はあなたたちの――)



「はいはいわかったわかった。控えることはしないけれど、頭の隅にはおいておいてやるから」



 額に青筋を浮かべただろうメルが俺に詰め寄ってきたのは言うまでもない。

 しかし懐かしい年上の集まりに、なんとなく愉快な気分になり、俺はリョカとミーシャ関係をメルにこすりつけていくのだった。

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