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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
6章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、新たな場所で目にする。

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魔王ちゃんと渦巻く思惑

「やっと大地に足を付けられたわ。もう船なんて乗りたくないわ」



「慣れないと駄目だよ、せっかくの冒険者業なんだからあちこち行ってみたいでしょ?」



「もう少し楽な移動方法はないものかしら? 先生に頼めば乗り物も作ってもらえない?」



「流石に無理だからミーシャが頑張ろうね」



 膨れる彼女を宥め、僕たちはとりあえずこの港町にある冒険者ギルドへ足を進ませる。

 アルマリアさんから待ち合わせ場所の指示があったのだけれど、その場所までの道のりが複雑なために、話を通してあるからギルドで地図を貰うようにとマナさんから伝えられた。



 お父様が何度か行ったという話は聞いていたけれど、僕は一度も来たことがなく、初めての場所であるために出来れば地図が欲しい。というより、ガイドが欲しい。



 誰かをギルドで雇おうかな。と考えながら僕はギルドの扉を開くのだけれど、ふと誰かの視線を感じる。



「リョカ」



「……わかってるよ。というか、この町に入って思ったんだけれど、あんまり活気がないね」



「静かでいい町じゃない」



「どうせミーシャは退屈だって数分で飽きるでしょ。さっさと地図とガイドでも雇って指定された場所に行こう」



 僕たちがギルドに入ると、先ほどとは違う視線にさらされる。

 この感じは覚えがある。ゼプテンで初めて依頼を受けた時のような、値踏みするような視線。僕はこの程度耐えられるけれど、案の定ミーシャが額に青筋を浮かべていた。



 僕は彼女の手を引くと、すぐに受付をしているだろうお姉さんがいるテーブルに着く。



「すみません、僕たちゼプテンから――」



「おいおい、こんな時に観光かお嬢ちゃんたち。ここは子どもの――」



「ふんっ!」



 僕の言葉を遮った男の言葉を遮るように風切り音が響いたと思うと、男が吹き飛んでいった。



 行動が早すぎる。というかあまりリソースを消費してほしくないのだけれど。と、ミーシャを見るのだけれど、目が合った彼女が頷いた。何事かと状況を整理するのだけれど、彼女は信仰を使わずに、ただ殴っただけであの威力を発揮しており、大柄の男の顔が潰れていた。



「あんたに構っている暇はないの。そこの受付、あたしたちはゼプテンから来た冒険者よ。アルマリア=ノインツからの依頼で来たの。さっさと地図を寄越しなさい」



 ミーシャの高圧的な物言いに、受付のお姉さんが涙目になり、チラリと僕に目をやったのがわかる。



 すると、ここまでされたことに腹を立てたのか、他の冒険者たちが武器を手に立ち上がる。



 さすがにあからさまだったか。と、僕は渋々構えるのだけれど、隣のミーシャが生命力を全開に辺りを睨みつける。



「るっさいっ!」



 ミーシャは受付から地図を受け取ると同時に、指鉄砲から生命力の塊を射出した。



「ミーシャなんかご機嫌斜め?」



「最初の時を思い出して腹立ってきたのよ。というか、見てくれで判断されるのが癪だわ」



「さいですか~」



 止めるのも面倒だったけれど、これ以上暴れてしまうとゼプテンのギルドの評判が下がってしまう。僕は威嚇しているミーシャを宥め、受付のお姉さんに向き直る。



「すみません、うちの聖女様がご機嫌斜めみたいで」



「い、いえ――聖女? え、誰がですか?」



「この野生動物みたいなのがです。まあそれに関しては気にしないでください。それでなんですが、僕たちこの領に詳しくなくて、出来れば案内を雇いたいのですが、誰かいませんか?」



「へ! え、っとその」



 お姉さんが不審な動きをした。まるでそう言われるのが想定外だとでもいうような仕草で、こういう反応があるということは何かを想定する動きがあったということで、ミーシャの暴れるという揺さ振りと、僕の誰かを雇うという依頼で、受付のお姉さんが大分困惑している。



 これで、さっきからここの冒険者とは異なる視線を向けてきている人を炙りだせればいいと期待しているけれど、やはり尻尾は出さないか。と、威嚇しているミーシャの肩を数回叩き、この場所を後にしようとする。



「いえごめんなさい。やっぱり2人で行きます。そこの吹っ飛んでいった人の言う通り、観光がてらのんびり行くことにします」



「え、えっとその……あっ!」



 あまり駆け引きやらに慣れていない受付なのだろう。嬉しそうな顔で、僕たちの背後に目をやっていた。



「あのぅ? 案内をお探しですかぁ?」



「……ええ、探しています。ここには来たばかりで、正直右も左もわからないので、目的地近くまで案内があると助かると思っていました」



「わっ、それならぜひ私のことを雇ってくださいませんかぁ? 私ぃ、この辺りでは有名な運び屋なんですぅ。だから道案内はお任せですよ~」



 可愛らしい女の子。ソフィアほどの小柄な女の子で、両目が隠れるほどの伸びた前髪、髪色は炎よりは血のように深い赤で、髪型はショートボブ、服装は初心者冒険者が着るような装備で、それを見ていたら彼女がはにかみ、運び屋しかしていないから装備にこだわる必要がないと言った。



「……リョカ」



「うん、それじゃあお願いしようかな? 僕はリョカ、こっちはミーシャだよ。あなたは?」



「ありがとうございますぅ~。私は……マリアと言いますぅ~、よろしくお願いします~」



「ええ、よろしくマリア」



「……よろしく」



 僕は受付のお姉さんにマリアを雇う旨を告げ、書類に依頼の目的、依頼料、目的地、記入してそれをマリアに見せるのだけれど、とりあえず依頼料を強調するために、そこを指差す。



「依頼料はここに書いてある通りで大丈夫かな?」



「え、あ~うん、これで大丈夫ですよぅ~。目的地も書いてありましたし、お2人は結構丁寧な方なんですね~。では案内しますので、ちょっと町の出入り口で待っていてください~。私は少し準備があるので、そこで待ち合わせをしましょう」



「うんわかった」



 そう言って可愛らしく手を振ったマリアに僕も手を振り返していったん別れる。そして冒険者ギルドの面々に一度だけ謝罪をした後、僕たちもギルドを出る。



「ねえリョカ」



「まあ、とりあえず思惑には乗ってあげよう? どんな意図かはわからないけれど、きっと必要なことなんだと思う」



「あんたが良いならあたしは何も言わないわ。けれど、3回チャージするはずだったんだけれどね」



「それはまたの機会ね」



 不敵な笑みを浮かべるミーシャを僕は止めることをせず、マリアが待つという場所へと足を進ませるのだった。

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