魔王ちゃんとわかりやすい偽幼女
「お待たせしましたぁ。少し準備に手間取ってしまって申し訳ないですぅ~」
「いいえ、僕たちも準備をしていて今来たばかりですので」
懐っこい笑顔でマリアが近寄ってきた。
声には出さないけれど、準備に時間をかけていた割に荷物が増えていないのは、きっと彼女のギフトのおかげだろう。別れてからずっと彼女の気配を魔王オーラで追っていたから、どのようなスキルを使っているのかは予想できる。
とはいえ、今彼女について問いただしても無意味だし、何より時間を無駄にしたくはない。
僕は我慢できるけれど……。
そっとミーシャに目をやると、あからさまに怪しんでおり、僕は彼女の手を握る。
「えっと?」
「ああごめんなさい、この子人見知りなんです。すぐに慣れると思うから気にしないでください」
「そうなんですねぇ~、でもミーシャさんってとっても強いですよね? さっきのにはびっくりしました」
「実はこれでも聖女なんですよ。ちょっと変わった戦い方をしますけれど、あまり驚かないでくださいね」
「わぁ、世界にはまだまだ私の知らないことがたくさんですねぇ~」
気が抜けないな。と、僕はミーシャに目配せすると、彼女はため息を吐き渋々と言うように先行する。
「マリアさん、戦闘は僕たちでやっちゃえばいいんですよね?」
「はい、お願いしても良いですかぁ? 私、見ての通りにか弱いのでぇ、あまり戦いは得意じゃなくてぇ」
「……ちなみに、この辺りって魔物が多いのかしら? それとも野盗でも出る?」
「え~っとぅ、魔物はDランクからで~、Bランクの魔物が最大ですよぅ。ただBランクの魔物、グリットマンは厄介なので~、逃げることをおススメしますぅ。野盗はぁ……出るかもしれません、ちょっと今、この辺りは厄介なことになっていますので~」
「厄介?」
「はい~、原因不明の失踪事件、というより集団失踪が確認されていまして~、この地に住む人々は張りつめていますぅ~」
「原因不明の集団失踪ね」
「はい~。ああそうでした、目的地はちょっと遠いので途中で村に寄りますよ~。そこでちょっと休憩しましょ~」
「……うん、そうしてくれると助かるよ」
僕は彼女に渡すはずの依頼書に目を通した。
「ねえマリアさん、僕たちを案内するのってギルドから頼まれたんですか?」
「へ? いいえ~、困っていそうだったので、声を掛けましたぁ~」
「そうですか、ありがとうございます」
これ以上は藪蛇だろう。僕は会話を中断し、前を歩くミーシャに合図を飛ばす。豆鉄砲ほどの大きさと丸さを保った魔王オーラをミーシャにぶつけ、振り返った彼女に前方の方に顎を指す。
魔物が数匹接近しているのだけれど、この数だったら僕が倒すのが早いのだけれど、幼馴染へ多少のストレス解消のために、倒すかどうかを提案したのだけれど、ミーシャは首を横に振り、歩幅を狭め、僕の後ろを歩き出した。
冷静になってくれたようで何より。と、僕はマリアさんに気取られないように指を鳴らし、近づいている魔物をすべて蹴散らした。
「お2人はゼプテンからいらしたんですよね~? 私、他の場所で依頼を受けたことがないので~、ゼプテンに比べてこの辺りはどうですかぁ? 魔物、はまだ出てきていないので~、比べようがないかもですけれど~」
「ん、そうですね。僕たちもまだそれほど多くの魔物と対峙したわけではないので、どうとも言えませんね」
「ですよねぇ~。でもリョカさんってすっごく真面目ですよねぇ~。こんな子どもみたいな私にも丁寧に接してくれて嬉しいですぅ」
「いえいえ、僕たちが依頼した側なので、マリアさんを無碍にするようなことはしないですよ」
「ゼプテンの冒険者ギルドって教育が行き届いているんですねぇ。ギルドマスターが良いんでしょうかぁ?」
とても、とても嬉しそうに言うマリアさんに、僕は営業やその他、この世界に来てから面倒な貴族相手に培った完璧な営業スマイルを顔に張り付ける。
「はい、その通りですよ」
「やっぱりぃ~」
鼻歌交じりにスキップしながら歩みを進めていくマリアの背中に、僕は生暖かい視線をやるのだけれど、ミーシャは苦虫を潰したような引き攣った顔をしており、鞄から焼き菓子を取り出して彼女に投げる。
何事かを言いたそうなミーシャに向かって首を横に振り、今は我慢してと目で伝える。
なるほどどうして。これはデスクワークに向かないわけだと納得する。
ここまであからさまだと罠を警戒するのだけれど、そういうことができそうにない人ではある。ならば一体何故なのかと言う疑問も湧くけれど、おおよその予想はついている。
きっと面倒事に引き込みたいのだろうし、そのついでにこのような茶番も用意したのだということも理解出来る。
けれどこれは人選がよろしくないのではないだろうか。
こんな謀を計画した人は、ミーシャのパンチを喰らってもらうとして、今はとにかく彼女の案内に従い、さっさとこの茶番を終わらせよう。
というか疲れる。
僕は薬巻を取り出し、火を点すと深く煙を吸い込み、それを吐き出して宙で遊ばせる。
「重大なんだろうけれど、遠回りし過ぎでしょう」
「う~んぅ? リョカさん何か言いましたぁ?」
「いいえ、慎重にいきましょうって言っただけですよ」
僕の答えに、胸を張った彼女――マリアさん改め、およそであり予想でもあるが、確信がある。きっと彼女は、アルマリア=ノインツその人だろう。
一体ギルドマスターが正体を隠してまで何を企んでいるのか、僕たちにまだそれは図れないけれど、ミーシャ曰くガイルとテッカの匂いが彼女からしたらしく、この案内の先に彼らがいるのは確実。
けれどそこで何をさせるのかはわからず、とにかく彼女に従うしかない現状、とりあえず幾つかの嫌がらせは設置済み、あとで泣きを見てくれるだろうか。と、僕はほくそ笑む。
「目的地が楽しみです」
「う~ん? そうなんですかぁ?」
キョトンとするアルマリアさんに僕は微笑みを返し、先行する彼女と並んでこの道を歩いて行くのだった。




