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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
4章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、初めてのダンジョン。

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聖女ちゃん、強敵を待つ

「ねえあんた、何をビクビクしているのよ。まだ何も出てきていないわ」



「あ、いや……今が一番命の危機を覚えているよ」



 一体この勇者は何を言っているのかと、あたしは首を傾げるのだけれど、きっと考えるだけ無駄と判断し、会話を止めて眼前の睨みつける。



「ね、ねえ、さっきからあなたは一体何を睨みつけているんだ?」



「敵よ」



「い、いるのか!」



 慌てて辺りを見渡す勇者を目で制し、首を横に振る。

 今の状況は、リョカが話していた通り、交代で見張りをしているところなのだけれど、最初にあたしと勇者が休み、リョカたちが寝る時間になったからあたしたちが代わったところである。



「えっと、やはり見張りと言うのはそれだけ緊張感がなければいけないのかな?」



「うんなわけない。そもそも見張りなんて言っているけれど、例え寝ていてもあたしとリョカなら何かあればすぐに起きられるわ。こういうことしてるのは多分あんたたちのためよ」



「……」



 黙られても困るけれど、これで少しは集中できる。

 リョカはなにもいないと言った。けれどあたしはそう思えなかった。あの子のような探索する術を持っているわけではないけれど、あたしの拳が、あたしの信仰がうずいている。



 ここであたしはもう少しだけ強くならなければならない。

 回数制限がある連打の利かない一撃必殺など、長期の戦闘では枷にしかならない。現に先ほど背中に感じた強敵をすぐにリョカが倒してしまった。あたしやカナデ、勇者では荷が重いと判断したのだろう。

 それにあの数体以外にも現れたら面倒な状況になるからこそ、リョカはあたしを戦闘から外している。



 自分の欠点であるからそれはわかるけれど、あまりにも過保護に抱えられているのも面白くもないし、そもそもリョカはすぐに道筋を描くからそれ以外を本当に嫌う。

 だからこそ最善を何も相談せずに決めてしまう。



 あたし自身、それなりに力を付けたつもりだ。けれどあの幼馴染にとってあたしは最終兵器でしかない。

 一撃が大きいから強敵やリョカがどうにも出来ない相手が出てきた時のために温存しているのはわかる。

 けれどあたしが気に入らない。



 こればかりはあたしの性格で、今リョカがいないからプクと頬を膨らませる。



 すると、顔を伏せていた勇者が力なく笑った。



 あたしはそれに少し苛立ち、意味もなく勇者の胸倉を掴んで凄んでみる。



「すみませんでした」



「許すわ。リョカにも仲良くやるように言われているしね」



「……やはり、彼女には敵わないな」



「あんたあたしにだって敵わないでしょ。というか聖剣以外何もないの?」



「ありません」



 涙声で言う勇者だけれど、一体何をめそめそしているのやら。

 勇者の力は他人からの印象とそれの量と質で力が決まるとリョカが言っていたけれど、この勇者何も出来ないということはきっと人望がないのだろう。



「俺も、スキルを習得出来たらリョカの役に立てるのだろうか」



「リョカなら手を貸さなくても大抵解決するわよ。そもそもあたしだってスキル1つだけれど、それなりに役に立っているわ」



「どうしてあなたは言葉ですらぶん殴ってくるのですか」



「性分よ。あんたもあたしたちみたいに変なスキルの使い方をしてみたら?」



「あんなのを思いつくのは2人だけだと思うんだ。そもそも一体どうすればあんなことに――」



 どうにも覇気がない勇者だったけれど、あたしは彼の頭を掴んで話を中断させ、あたしたちがここに最初に転移させられた方角に目をやる。



「来たわね。おい勇者、あんたが隙を作りなさい。リョカの役に立つのも結構だけれど、ここを乗り切らないと普通に死ぬわよ」



「え?」



 勇者が振り返り、背後から歩いてきたその異形に目を見開いている。



 骨格になっているのはこの遺跡にずっと現れていた人形だろう。

 けれどこいつは明らかに生物の肉を被っていた。

 何かの魔物と魔物を繋ぎ合わせたのだろうか。その化け物の体のあちこちからギチギチと不快な音が鳴っており、体の所々の肉は剥げて中身の人形の一部が顔を覗かせている。



 どういう原理かはわからないけれど、その肉のおかげか。ここの遺跡で初めて危機感を覚えている。



「み、ミーシャ、こいつを倒すのか?」



「ええ、気張りなさい。ここで踏ん張れば自分の殻くらいは割れるようになるんじゃない?」



 あたしの3倍ほどの身長とあたしの身長ほどの肩幅をしている怪物。デカさが戦闘の全てを決めるわけではないと思うけれど、やはりデカいとパワーがある。

 しかもあの怪物の手には血まみれの鉈が握られており、一発でも貰ったらマズい気もする。



「――ッ! 聖剣顕現!」



 勇者が聖剣を出して突っ込んでいった。あたしは拳を構えるのだけれど、その拳に闇がまとわりついた。



「……余計なことを」



 リョカの現闇があたしの拳を覆って武器になったことで、勇者と同じように鉈を防ぐことができ、そのまま化け物に近接戦闘を挑む。



「起きているのなら手伝ってほしいところだけれど」



「冗談。こんな敵に次会えるかわからないのだから、あたしたちで良いとこ取りよ」



「バーサーカにでもなればよかったんじゃないか!」



 軽口を叩きながらも、勇者が金色の聖剣を振るって化け物の攻撃をいなしていく。

 あたしも負けじと怪物に拳を放って行くけれど、中の人形と体を覆っている何かの体毛が異様に硬く、ただパンチするだけでは決定打どころか、ダメージを与えられているかも謎だ。



「おい勇者、あんた必殺技とないわけ? あたしが力を込めるには少し時間がかかるんだけれど、あんたが倒せるのなら今日の所は良いにするわ」



「無茶を言わないでくれ! 俺が使えるのは聖剣だけだ。しかもまだ名すらないし、決定打なんてあるわけないだろう!」



「じゃああんた1人でそいつを足止めするしかないわね。やれ」



「無茶振りにもほどがある。が、やるよ、やってやるよ!」



 ガーだかグーだかと咆哮を上げる化け物から数歩退き、あたしは拳に信仰を集める。



「1、2、3――」



 残りの信仰は8回、ここで拳に全部込めて全力でぶっ壊す。



「み、ミーシャまだか? こいつ強い」



「まだ全然よ。根性見せなさい」



 4、5。

 回数を重ねようとしたけれど、あたしの拳を脅威ととらえたのか、怪物の目玉がギョロりとこちらに向いた。



「しまった――」



 勇者が焦ったのか、無理な体勢で追撃をするけれど、それをものともせずに怪物が勇者の手から聖剣を弾き飛ばした。



 そして聖剣が光と消え、化け物があたし目掛けて突っ込んでくる。



 聖剣の連続使用は難しいとリョカが話していた。体力を物凄く消費するからそもそも聖剣を手放してしまえば戦闘を続行できるかも怪しい。



 5回で足りるだろうか。もしこれで怪物が倒れなければ詰み。そうなればきっとリョカが出てきて何かしらで解決するのだろうけれど、ここまで来てそうなってしまうのはあまりにも癪だ。



 けれど、勇者が膝をつき、肩で息をしながら荒い呼吸を繰り返している現状、残されている手段は少ない。


 もう少し溜めたかったけれど、ここはこれにかけるしか――しかしあたしの勘がそれを咎める。それでは倒すことができないと警鐘を鳴らした。



 あたしは舌打ちをする。



 だがあたしの目には、顔を上げてまだ闘志を宿した勇者、セルネ=ルーデルの姿が目に入った。



「ぁああっ! 『一声喝魂(いっせいかっこん)』まだ終わってない! 聖剣顕現!」



 動けないはずの勇者が雄たけびを上げると同時に、駆け出した。

 新たなスキルだろうか。彼は先ほどよりも強い闘気を放ちながらあたしの前に躍り出て化け物の鉈を弾いた。



「ミーシャ!」



「……ええ、良い壁役よセルネ。あとであたしも褒めてあげるわ」



 セルネが作った隙にあたしは最大を叩きこむ。

 けれど最大数を拳に込めることは出来ない。それならば――あたしは以前リョカが話していたことを思い出す。

 単純に火力を上げるのなら勢いも大事、走りながら勢いを付けて殴ったらどう? 最初聞いた時何を言っているのかと思ったけれど、今なら出来る気がする。



 あたしは信仰を片脚に込め、床を思い切り蹴り上げると同時に超加速し、拳を振り上げるともう片方の脚にも信仰を込めて地を踏み抜く。



 勢いを殺すことなく、2段階加速による突進パンチ。



「し、ねぇぇっ!」



 体全体を使ったあたしの拳は怪物の体をぶち抜き、それと同時にリョカに渡された手甲ごと、化け物を塵へと変えた。



「……勝った、のか?」



「見た、通りよ。ああクソ、しんどい」



 その場で背中から倒れ込むセルネの脳天を真上に、あたしも体を横にする。



「本当、あなたのパンチはどんな威力をしているんだ」



「もう打ち止めよ。あんたも中々やるじゃない、今度からあたしの壁になりなさい」



「正直これだけ苦労するなら二度と勘弁だよ」



「聖女のお言葉よ、素直に喜びなさいよ」



「あ、ああ、そうさせ、て、もらう、よ」



 セルネの意識が途切れた。きっとあのスキルの影響だろう。



「というか、あたしもヤバいわ……」



 途切れそうになる意識を何とか紡いでいるあたしだけれど、ふいに誰かに体を抱えられる感触に包まれると、つい安心してしまい、眠るように意識を手放した。

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