魔王ちゃん、わりとピンチに陥る
「おはよう。ミーシャとセルネくんもご飯食べるよね?」
「……ん、おはよう。軽いものが良いわ」
「おはようございます。ごめんリョカ、結局見張りをしてくれたんだろう?」
「気にしないで。僕は何も起きないと思っていたし、2人が頑張ってくれたからこうして朝を迎えられたよ。代わり映えのしない景色だけれどね」
翌日、昨夜の激闘をテントの中から眺めていたけれど、2人とも中々どうして立派だった。
別に僕の方が優れているとは思ってもいないけれど、それでもまったくそりの合わなさそうなミーシャとセルネくんが協力していたことが嬉しかった。
「あんな大きな音を立てていたのに、一切起きる気配も見せなかったカナデに自慢してあげると良いよ」
「面目ないですわ。朝起きたらプリマに滅茶苦茶齧られていましたわ」
「あれで起きないとかあんた本当に図太いわね。新スキルを試す機会でもあったのにもったいないことをしたわね」
「スキルと言えば、セルネくん昨日覚えたスキルは?」
「あ、ああ、多分だけれど体力の急回復とそれ以外にも凄くヤル気の出るというか、闘志が湧く部類の自己強化型だと思う。けれど反動がヤバい。使った後、正直立っていられなかったし、今の俺じゃあ短い間だけだ。もっと精進しないと」
「そうやって自分を顧みることができるのなら、昨夜の戦いは無駄じゃないんじゃない。スキルを覚えることよりずっと重要だよ」
嬉しそうにしながらも、テレを隠すためかセルネくんが顔を伏せ、幼子のようにモジモジとしており、僕は彼に朝食のパンとスープを手渡す。
やはりワンコ系、見えないはずの尻尾が全力で振られている幻想が見える。
「それなら今日はわたくしが活躍しますわ! プリマ、リョカに良いとこ見せるですわ!」
自信満々の1人と1匹だったけれど、カナデが雑に素手で千切った薬草を振りかけたパンを渡されたプリマが見てわかるほど落ち込んでいるように見えた。
僕は精霊使いを選択する。
『……死霊ですらこんなご飯食べないよぅ。なんでこんなに雑なのよぅカナデちゃんは』
「カナデ、ちゃんと昨日あげた道具を使って丁寧に作ろうね。精霊とはちゃんとした絆を紡がないといざという時に捨てられちゃうよ」
「え、そうなんですの? ってちゃんと作ったつもりですわ!」
「じゃあやりなおそうね」
ぶー垂れるカナデと隣でやり方と好みを伝えているプリマに和みながら、僕は祈りの準備をしているミーシャに近づく。
「僕も一緒にやっちゃおう。最近はルナちゃんからもらったペンダントのおかげで、お祈りも楽なったね」
「そうね。長ったらしい祝詞も唱えなくても良いし、わざわざ善行を伝えなくても良いし、何よりも一々感謝しなくても良いし良いこと尽くめよ」
「聖女が女神さまへの感謝を忘れちゃ駄目だと思うんだけれど」
「一々言わなくても見てるでしょ。それにそんなことを話すくらいなら、あたしは昨日並べた敵を毎日見せびらかしたいわ」
「邪教徒かな?」
僕たちは並んで姿勢よく座り、ネックレスを持った手を組んで祈りを始める。
するとどこかから得体のしれない力が流れ込んできたようで、さらにはネックレスを持った手がほんのりと温かくなっており、どうにも聖女としても力が強くなったような気さえする。
僕聖女じゃないけれど。
そうして2人でお祈りをしていると、カナデとセルネくんが呆けたような目を僕たちに向けていた。
「いや、そのなんて言うか、その……」
「見惚れてた?」
「あ、いや――」
顔を真っ赤にしているセルネくんが可愛らしく、甘やかしてあげようと思っていると、カナデが元気よく手を上げた。
「わかりますわセルネ! ミーシャって本当に聖女だったんだと思っているんですわよね!」
「え、いやちが――」
「あぁん?」
「い、いやぁっ! 止めてごめんなさい痛いことしないでください!」
ミーシャに胸倉を掴まれたセルネくんが涙目プラス涙声で叫んだけれど、セルネくんの雰囲気も大分柔らかくなったと思う。
出会った時はこんな風にふざけた空気で泣いたり、冗談を言ったりはしなかった。しかし彼はまるで家柄も何もなく、ただ個人として、勇者であるセルネ=ルーデルとして僕たちに接してくれている。
「あ、あのリョカ! 何か母親のような優しい瞳でこちらを見ているけれど、ミーシャは本当に怖いからね。俺これまでに顔面に2回ももらっているけれど、わりと悪夢で見る部類には心に植え付けられているからね!」
僕はセルネくんに微笑みを返すけれど、ふとミーシャがセルネくんから手を離し、自分の拳に目を落としていた。
「ん? ミーシャどうかした?」
「……今のお祈りでスキルを習得したみたいなんだけれど、何も起きないのよ」
「ちょっと待ってくれ。今俺で実験しようとしたのか?」
「あんた硬いんだし別にいいでしょ。怪我したらリョカが治してくれるわよ」
呆然とするセルネくんをよしよししながら、僕はミーシャの様子を覗う。
別段変わったところは見受けられず、本当にスキルを使ったのか疑わしい。
「使用に条件があるとかじゃない?」
「ただでさえ手数が少ないギフトなのに、条件まで困難とかいよいよクソギフトね」
「今度ルナちゃんに会ったら謝ろうね。それでどんなスキルなの?」
「よくわからないわ。セルネと同じような自己強化型っぽいんだけれど、何も変わらないのよ」
「いや、聖女を強化してどうするのさ。そこがまず間違っているんじゃないの?」
「いいえ、確かにそんな感じよ。なんかこう、湧き立つというか今すぐに誰かをぶん殴りに行きたくなるというか」
「バーサーカーのギフトでも追加された?」
そういうのではないと言うミーシャだけれど、言葉の全てが狂戦士であることは疑いようもないだろう。
「まあいいや、それは追々探っていこう。とりあえずご飯を食べたら出発しよう」
僕は奥で光る2つの紋章を指差し、ミーシャに朝食を食べるように促す。
何だかんだ実りの多いダンジョン探索になったと満足するのだけれど、僕は本来の依頼のことを思い出し、みんなが朝食をとっている間に思考する。
僕たちの依頼はこのダンジョンの探索だったけれど、このダンジョンには違和感がある。
明らかに遺跡と呼ばれるような内装をしていない。というより、最初に入った遺跡の外見と中身が一致していないことから、ここは別の場所だと推測出来る。
しかしあまりにも中身が綺麗すぎるし、凝った作りになっている。
それともう1つ、あのマネキンは一体何なのかである。あんな魔物見たこともないし、そもそもあれだけ統制のとれたような動きをしているのも気になる。
それとこのダンジョン、ここまで素材やらアイテムやらが一切ない。本当にマネキンが湧くだけのダンジョンといえるかも不明な施設だ。
あともう1つ上げるとするなら、昨夜のことだろう。僕は一切気配を読めなかった。あんな怪物が出てくるとは本当に思っていなかったし、ミーシャがいなかったら本気で驚いていただろう。
それこそまるで誰かが意図的に寄越したような不気味さがある。
何か見落としている秘密でもあるのだろうかと不安を覚えていると、全員が朝食と出発の準備を終え、僕を見ていた。
「どうかした?」
「……んぅん、ここの遺跡について考えていただけ。どうにも変な感じがする」
「変、とは?」
「っぽくないんだよ。自然に出来たものでもなければ、太古の文明が今さら出てきたわけでも、魔物たちが住み着いて文明を生成しているわけでもない。何もかもが作り物みたい」
「作り物なら壊してしまえばいいんですわ! 遺跡攻略も目の前ですわ!」
『カナデちゃんのおバカ! そんな単純な話じゃないよぅ。そもそもここってすっごい不気味。命を一切感じられないんだよぅ』
僕たちは話しながら紋章へと足を進めているけれど、プリマが興味深い話を始めた。
そうして紋章に足を付けたところで、カナデの頭の上で唸っていたプリマが可愛らしい口を開いた。
『その癖に何だか外側から見られているような、命がないのに一体どかから見ているのかわかんないんだよぅ』
「……なんだって?」
今プリマは何と言った? 誰かが見ていると確かにあの狐は話した。
そんなもの僕は感じられなかったし、魔王オーラにも引っかからなかった。プリマの言う通り、外側から見られているのだろう。
だからこそ僕の探知では拾えない。
いやそれどころか、今とんでもなくマズい状況ではないかと、僕は紋章から足をどけようとしたけれどすでに遅く、僕が乗っている紋章だけ明らかに別の紋章だった。
「マズい!」
「なによ?」
「ミーシャ分断される!」
僕はミーシャに背負っているリュックサックを投げつけ、3人に現闇を瞬時に展開し、ありったけの魔王オーラを闇に蓄えさせた。
もし仮に誰かが見ているというのであれば、そもそも移動用の紋章なんて罠でしかない。
ここまでなんの疑問も持っていなかったけれど、その視ている者がどんな目的か知らないけれど、僕だったら分断する対象は指揮系統、最もリーダーシップを発揮している者を選ぶ。
つまり僕だ。
「ミーシャ! 2人とプリマのこと任せたよ!」
最低限の言葉しか伝えられなかったけれど、ミーシャと、それにカナデとプリマ、セルネくんなら大丈夫だと信じることにして、僕は光に飲まれるのを抗えもしなかった。




