魔王ちゃん、リーダーを務める
「やる気出してきたけれどさぁ、これはいきなり過ぎるでしょ」
僕とミーシャ、カナデとセルネくんの4人でパーティーを組み、馬の使われていない馬車を使ってダンジョンにやってきた僕たちだけれど、入り口らしき扉を見つけ、脳筋幼馴染が迂闊にも全く警戒せずに扉を開いた途端に床がピカッとなり、現在マネキンみたいな作り物の顔をした人型の敵性生物に襲われていますなう。
「ミーシャのバカっ、なんで警戒しないのさ」
「やっと敵が出てきたわね。とりあえず一発いっとくわ」
「ミーシャズルいですわ、わたくしもわたくしも」
「と、とりあえず冷静に、落ち着いて対処を、いやここは俺も戦うべきか?」
ミーシャとカナデが呆気ないほど簡単に臨戦態勢に移行し、セルネくんは落ち着くように言っているけれど、明らかに目がグルグルしており一番冷静にならなければならないのがわかる。
僕は辺りを見渡し、とりあえずこの状況の打開策を考える。
数は――数えるのも面倒なほど敵が多く、敵意を向けられたすぐに魔王オーラを一体に放ったけれど、そこそこの硬度は持っているけれど、僕でも対応できる程度の硬さで、セルネくんと2人で突破できる敵であると判断する。
「ミーシャとカナデは少し下がって――」
「2回で十分ね、ぶっ飛びなさい」
「蒼炎を持って眼前の敵を薙ぎ払え。ですわっ!」
けれど僕の言うことも聞くはずもない2人がスキルを発動させたことで、頭を抱える。
ミーシャの信仰を2回チャージしたパンチは目の前の敵を消滅させ、さらにその拳圧は扇状に広がって他の敵も巻き込まれるように消し飛んだ。
カナデのスキルも同じく、発動後青い炎が周囲の敵を包み、炭へと変えていった。
「これで平和に」
「なってないからね! というかお願いだから2人は大人しくしてろー。セルネくんはいつまで動揺してんのさ」
飛び出た2人とは対照的に、聖剣すら発動できずにあたふたとしているセルネくんの襟を引っ張り、そのまま引きずるようにしてミーシャたちが作った道を駆ける。
先ほどチラリと見た限り、奥に進む道はちょうどミーシャたちが攻撃を放った方角にあり、彼女たちが意識してやったかは別として今は落ち着く場所を見つけるために先に進むしかない。
「リョカ、まだ敵がいるわ」
「あんなの全部相手してられないから! というか……」
僕はふと、魔王オーラを展開させ辺りの敵性反応を調べる。
すると、倒したはずの敵の数があまり減っていない。それどころかわらわらと湧いて出てきているのがわかる。
「げっ、無限湧きかここ。ミーシャはスキル禁止。カナデは、とりあえずこの子と仮契約して!」
僕は喝才でファーストオーダーを使用、そして周囲にいる低級精霊をいくつか見繕い、カナデに協力するように頼む。
「え、リョカなんですのその使い方! わたくしもわたくしも!」
「あとでね! ミーシャとセルネくんはちょっと待って」
「あんたにスキルの使用を許可される覚えはないわ!」
「うっさいやい! 君はあと9回ほどの信仰を大事に使いなさいって!」
僕は走りながら大きく呼吸をする。まだ形に出来るかはわからないし、正直練習も足りない。けれど使わなければただの持ち腐れ。
しかも状況はまさにうってつけ。攻撃に使用制限のあるミーシャと聖剣は著しく体力を消費することから連続使用は出来ないセルネくん。
この2人を戦力にするにはそこそこの武器がいる。
そして僕はそれを実現できるスキルをこの間習得した。
「万物は闇からい出でるもの。我が力の根源よ今こそ闇より顕現せよ――『現闇』」
僕はスキル・現闇の使用によりマントを生成、それを羽織り、そのマントに魔王オーラを込める。それによってマントを様々な形に変えることの出来る攻撃スキル。
それの応用で、現闇をミーシャとセルネくんに使用、2人の手元に闇が集まっていき、僕はその闇に魔王オーラをぶつける。
「スキルは使わずにそれで戦って! そこらで買うよりは強力な武器だと思うから、荒っぽく使っても大丈夫だよ!」
ミーシャの拳に纏った闇は姿を変えて真っ黒な手甲になり、セルネくんの手には黒の剣が現れた。
「あんた本当に便利ね」
「君たちがそんなんだから便利になるしかないの!」
マントを硬化させ、周囲の敵を薙ぎ払いながら声を上げていると、セルネくんが息を吸ったのが見える。
「すみませんリョカ、落ち着いてきたから周りは俺が払う」
セルネくんがやっと冷静になり、僕が与えた剣を疑いなく振るっていく。それに続くようにミーシャもスキル使用を止め、拳で次々と敵を殴っていた。
僕は安堵すると同時に、カナデにも闇を纏わせ、僕と同じようなマントを彼女に出した。
「カナデはそれで自分を守って」
「おお! これすごいですわ! 突貫ですわっ!」
「前線に出るための防具じゃない! カナデは後ろでさっき渡した精霊たちと協力して! ほらみんな、ここを抜けるよ、僕が先導するからちゃんとついて来てね!」
みんなの返事を聞き、僕は出口らしき場所まで駆けていく。
未だに頭が痛い状況だけれど、これでなんとか何事もなく進めれば良い。
僕は今日何度目かになるかわからない祈りを、ルナちゃんから貰ったペンダントに込めるのだった。




