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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
4章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、初めてのダンジョン。

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魔王ちゃん、今一度みんなについて考える

「ふう、やっと落ち着いた。みんな無事? 怪我してたらすぐに言ってね。とりあえず飲み物、だけれど水筒はもったいないから、この枝をすすって」



 あの高速道路下りと上り合わせたような広さの通路を突破した先にはまたしても部屋があり、そこに入ると同時にマネキンたちは霧のように消えてしまった。

 実験のために再度通路に足を踏み入れたところ、壁や天井、あらゆる場所に紋章が浮かび上がり、マネキンたちを生成しようとしたために、僕は急いで部屋に戻り、今は落ち着いてみんなと会話しているという状況になっている。



 そしてこの部屋なのだけれど、中央に魔法陣が2つあり、正面には壁に文字が書かれていた。



「ヤだ、お茶ほしいわ」



「あとでお菓子と一緒にね。このミールの枝って結構高級品なんだぞ」



 枝の中に大量の水分を貯蔵している木の枝で、お父様の店では枝を乾燥させ、その中にさらに水を貯えさせており、その水にもちょっとした工夫がされている。塩、というよりミネラルやクエン酸を混ぜて冒険者に売れるように僕が提案した新商品である。

 これさえ持っていれば長旅にも対応できる。



「ほら文句言わずにしゃぶって。人って水分を取らないと簡単に死んじゃうんだからね」



 渋々と枝をしゃぶるミーシャに続き、カナデとセルネくんも枝を口に咥えてくれた。



 その間に僕は壁の文字を見る。そこには、長ったらしく面倒臭い文章がつらつらと書かれているけれど、噛み砕けば単純に、この遺跡から出るのなら赤い紋章に、先に進むのなら青い紋章に。とのことだった。

 親切なダンジョンという印象を持ったけれど、最初の最初で敵の真ん中に移動させるのは鬼畜としか言いようがない。



「リョカ、すまなかった」



「う~ん?」



 枝からの水分で大分落ち着きを取り戻したセルネくんからの突然の謝罪に、僕は首を傾げる。



「せっかく連れてきてもらったのに、まったく役に立っていない。むしろ、俺たちが邪魔じゃないか?」



「ううん、そんなことないよ。さっきも言ったけれど、出来ないことを無理にすることはない。あの通路の後半ではセルネくんも頑張っていたじゃない。本当にやる気のない人なら僕も見捨てるけれど、頑張ってくれる人だったのなら僕は見捨てないよ。まあセルネくんはもうちょっと場慣れすべきだと思うけれどね」



「精進します」



「そうよ、リョカが出来るんだからリョカに頼るしかないのよ」



「……前から思っていたけれど、ミーシャはリョカに頼り過ぎではないかな?」



「あぁん?」



「あ、いやその、そんなに凄まれると怖い」



「あたしは別にリョカに頼っていないわよ。昔からこういう形なの。リョカが頭使ってあたしが叩く」



「そうだね、ミーシャは頭ゴリラだからそれしか望んでないかな。でも少しは言うこと聞いてね」



「いやよ、暴れ回るあたしの手綱くらいしっかり握っておきなさい」



「はいはい。それよりみんな休憩できたかな?」



「はいはいっ、ですわ!」



「どったのカナデ」



「さっきのやつ教えてくださいですわ」



「ああ、精霊の仮契約ね。精霊使いってなにも固有の精霊とずっと一緒に戦うわけではないでしょ? というかカナデのスキルの使い方が微妙にずれてる。その精霊だってどこから連れてきたのか知らないけれど、結構大物みたいだし、コスト……使用する労力が半端ないはずだよ」



「そうですわね、すぐ疲れますわ。あああと、この子は街を歩いていたら空から降ってきましたわ」



「そう、大事にしてあげて。というかちゃんと食事与えてる? なんか元気ないように見えるけれど」



 僕は持って来ていたリュックサックから幾つかの薬草を取り出し、それを刻んで焼き菓子に振りかけ、カナデの頭に乗っている狐のような精霊にあげる。



「やっぱお腹空いてるみたいじゃん。普段何を食べさせているの?」



「え、この子たち食事するんですの?」



 僕は無言でカナデの頭にいる精霊を抱き上げ、頭を撫でてやる。

 そもそも精霊と言うのは不可視の生物であるけれど、契約した精霊はその限りではない。喝才によって精霊使いを選択すると、その瞬間、世界に浮いている精霊を見ることができる目を得ることができ、それによって精霊にお願いしてからスキルを使う。

 けれどカナデの場合、目が良くないのか精霊にお願いするということが巧く出来ておらず、契約した狐さんからしか力を借りられていない。



 僕は狐さんを頭に乗せると、カナデに近づき、頬を両手で掴んで固定し、ジッと彼女の目を覗く。



「特定の精霊しか見えないのかな? とはいえカナデは精霊の扱いが下手過ぎ。この子たちだって生きているという概念があるんだから、ちゃんとお世話してあげないと」



「うっ、そうだったのですわね。だってこの子たちまったく喋らないんですわ」



「それは多分、カナデの腕が足りないから。第1スキルで精霊の姿が見えるようになるんだから、多分耳は第2スキルで得られるんじゃない?」



 僕は狐さんを下ろして喉を撫で、砕いた焼き菓子を与える。よっぽどお腹が空いていたのか、あっという間に菓子を食べ終え、ミールの枝をチュパチュパしゃぶっていた。



「スキルって言えば、あんた今スキル幾つ使えるようになったのよ」



「え、3つだよ。みんなもさっさと次のスキルを解放しようね」



 そう何気なく言ったけれど、全員が訝しげな顔をしており、何事かとみんなに視線を送る。



「いやリョカ、高等部は3期間学園に通うけれど、通っている間に第2スキルまで使える者は一握りなんだよ。しかも第3まで使えるとなると相当だと思う」



「そうなの? まあ確かにギフトのスキルって第1スキルが異様に使い勝手が良いんだよね。そういうのを見越しているからかな?」



 特に特別なことをしているつもりはない。そもそもスキル解放に必要な手順と言うのもよくわかっておらず、そういう不明瞭なところが第2スキルまで至れない人を増長させているのではないだろうか。



 もっともゲームや漫画ではスキル解放にはそれなりの経験値が必要で……。



「魔王オーラを常時展開させているからかな? 僕、よく考えたらスキルを使っていない時の方が少ないんだよ。使用回数が多いからすぐにスキルを解放できているのかも」



「使えばいいのね?」



 僕の話を聞いていたミーシャが突然両拳に信仰を集めようとしたために、慌てて止める。



「今じゃない。というかミーシャさ、君のスキルが一番意味がわからないんだよ。どうして癒しの力が身体強化になってるの?」



「うんなことあたしが知るわけない」



 ミーシャのスキルも謎である。

 そもそも聖女のリリードロップは信仰を癒しに変えて傷を癒す。僕が使ってもそれは覆っていない。けれどミーシャは違う。

 原理がどう考えてもわからない。



 とはいえ、わからないままにしておくのはどうにも恐怖がある。



 僕は少し頭を捻ることにした。



 そもそも癒しとは何か。どういう原理で傷が治っているのか。それがわかればもしかしたらミーシャの強さの秘訣がわかるかもしれない。



「ルナに聞いておけばよかったわね」



「あ~そういえばそうか。今度聞いてみようか」



 カナデとセルネくんが首を傾げているのを見て、僕は立ち上がる。



「さて、雑談はこのくらいにしておこうか。それでこの紋章、みんなはどっちに行きたいかな? 赤い紋章は外に出られるよ。青い紋章は先に進むよ。みんなはどっちに進みたい?」



 と、仰々しく尋ねてみたけれど、みんなは顔を見合わせ、揃って青を指差した。



 僕はみんなのその選択に満足しながら、青の紋章に足を踏み出すのだった。

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