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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
3章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、学園でエキサイトする。

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魔王ちゃん、勇者くんと一対一で会話する

「とりあえず今やるべきことは、ミーシャへのご機嫌取りかな」



 食材を扱う店で幾つかの材料を買った僕は、今日の晩御飯をどうするか悩みながら店を出た。

 しかしこれだけで機嫌をよくしてくれるだろうか? きっとミーシャはあれこれと小うるさいお小言を聞きたくもない僕にこれでもかと聞かせてくるだろう。

 食後のデザートも付けるべきだろう。



「まあ少し吹っ切れたし、明日からは普段通りの可愛いリョカちゃんでいるために――おや?」



 僕が明日への決意を新たにしようとしていると、通りを猛スピードで駆けている2人が見えた。



「クソ、運がねえぜまったく」



「待てひったくりっ! その荷物をお婆さんに返せ!」



 人様の迷惑も考えずに走る2人組に僕はげんなりするけれど、片方が見知った顔で肩を竦める。



「止まらないと言うのなら見せてやる、くらえ俺の聖剣――」



「こんな街中でぶっ放すんじゃないのこのおバカ」



 爆走2人組の1人を通過させ、もう1人後方にいた勇者・セルネ=ルーデルとすれ違う瞬間、僕は振り返って指を鳴らしてひったくりの足を傷つけ、転ばせた。



 顔面から道にダイブしたひったくりに近づいて、彼がそのまま気を失ったのを確認して僕は勇者に向き直る。



「お前は――」



 構えていた剣をこちらに向けようとするセルネに僕はずかずかと近づいて行き、その額に指を弾いた。



「もう一度言うけれど、このおバカ」



「なっ、魔王にバカ呼ばわりされる謂れは」



「あります。こんなところで聖剣なんてぶっ放したら周りの店にも被害が出るし、帰宅途中の人たちにだって被害が出る。君、そんなことも考えられないの?」



「うぐ……」



「とにかく君はこれだけ騒ぎを大きくしたんだから周りに謝っておきなさい。僕はこいつを衛兵にでも引き渡しておくから」



「なっ、逃げるのか!」



「逃げないからさっさと言われた通りにしなさい。これが終わってからちゃんとデートしてあげるから、飲み物でも買って待っててよ勇者様」



「でっ!?」



 顔を真っ赤にする意外にも初心な勇者に満足しながら、僕は所謂交番のような役割の詰所の衛兵にひったくりを引き渡す。

 そうして戻ってくると、カップを2つもった勇者が店頭のベンチで不貞腐れるように、頬をリスのように膨らませて座って待っていた。



 以外に素直な勇者に僕は噴き出してしまい、彼に近づいた。



「待たせてごめんなさいね。ちゃんと周りの人に説明した?」



「……凄く怒られた」



「でしょうね、少しやり方が強引なのよ。こういうのは考えてやるものなんだから」



「俺は、みんなを助けようと」



「善意だけじゃ人は動かないの。どうせ君のことだから人が困っていたから条件反射に動いちゃったんでしょうけれど、そんなもの他人にはわからないものだからね。良いことしたから他人の細事を気にしなくなったらきっと良くない。わかるでしょう?」



 僕は立ち上がると、先ほどからセルネに不審な目を向けている住民たちに見えるように手を広げた。

 そして注目を集めると、セルネを空いた手で胸元に引き寄せて大きく口を開く。



「みんなごめんねぇ。この子、まだまだ新米の勇者なの。だからちゃんとした勇者になるまでは僕ともども迷惑かけるかもしれないけれど、ちょっとだけ目をつぶってね。その代わり困ったことがあったら僕もこの子――セルネも協力を惜しむことはしないからさ」



 すると、周囲の人々がそれならしょうがない。と、口々に先ほどの騒ぎを許してくれて、セルネの肩を叩いては頑張れよ。と、応援してくれた。



 と、温かな空気に包まれる中、住人の1人が苦笑いで僕の胸元を指差し「リョカちゃんは可愛いんだから、同級生の男の子には刺激が強いんじゃない?」と、言っており、僕は目を胸元に落とす。



「――」



「あら」



 そこではセルネが顔を真っ赤にして僕の胸に埋もれており、すぐに彼を離した。



「ごめんごめん、それと飲み物ありがとうね」



 僕はセルネからスイパの実のジュース、レモンのような柑橘系の果物の果汁を砂糖水で割ったレモネードのような飲み物で、微妙にぬるくてまあまあ美味しいかなと言う飲み物を受け取る。



「君、あんまり街に出てこないでしょう?」



「……それの何か問題か?」



「問題大あり。ここにいる人のほとんどが君を知らないんだから、君がどれだけ高尚な想いで何かを成そうとも、騒がしくしたら迷惑でしょうが」



「け、けれどこれは――」



「勇者だからって何でも許されるわけないでしょう。勇者だろうが、誰かに何か不快だと思われることなんてあるに決まっている。だからこそ、君はまず君の気持ちを誰かに知ってもらう必要があるし、誰が何に困っているかを知る必要があるの。それはわかるよね?」



「う、うん」



「うん、いい子いい子。確かに勇者は無条件で愛される存在かもしれないけれど、何もしていない勇者を、みんなを蔑ろにする勇者を認めてはくれないと思うの。僕が出会った喧嘩好きの勇者は、少なくとも冒険者たちや街の人に好かれていたよ」



「……ガイル=グレックさん」



「そう、ガイル。たくさん話したけれど、すっごく気持ちの良い性格や在り方をしていたし、君とは比べ物にならないくらい強かった」



 プクと膨れる勇者・セルネ=ルーデル、さてはこの子小動物系かと甘やかしたくなる気持ちをぐっとこらえ、通りを歩む人々に目をやる。



「ねえセルネくん、君は勇者として何を成したいの?」



「俺は――魔王を倒す。今世界中で魔王に怯える人々が多くいる。魔王は人々から幸せを奪うんだ、だから俺は」



「そう、つまり君は幸せを奪う輩を許せないから、勇者になって魔王を倒すってことだね?」



「ああその通りだ、だから魔王であるあんた、リョカ=ジブリッドも俺の敵だ――」



 僕はセルネくんの言葉を人差し指を彼の唇に沿えて遮る。



「それなら付き合ってあげよう。僕ね、もううだうだ考えるの面倒臭くなっちゃったの。だから好きなようにやるし、振りかかる火の粉くらいは自分で払うよ。だからさセルネくん、それに乗っかってあげる」



「……どういう意味?」



「セルネくん、明日戦おうか。君は今僕を倒すために人を集めているんでしょう? それ全部使って僕に挑みにおいで」



「リョカ=ジブリッド、あなたはどうするんだ?」



「リョカで良いよ。僕? 僕は1人だよ。だってこれは魔王と勇者の戦いなんでしょう? 家来でもない子たちは巻き込めません」



「……」



「君に賛同していない子たちは、当日僕のクラスに集めておいて。みんな閉じ込めちゃうから」



 考えるくらいなら、僕の知らない場所で何か起ころうとしているのなら。全部ひっくるめて僕が起こしてあげよう。

 その方が手っ取り早い。そもそも何をシリアスになっているのかという。僕は魔王で、僕を狙っているのは勇者。別に難しく考えないで、僕の土俵に立ってもらえばいいだけ。



「面白おかしくしてやるから覚悟しな」



「俺は真剣にやる」



「うん、真剣に楽しみな。こうやって互いに腹の中を覗き合っているからドロドロになるんだ。それならいっそ、お互いに腹を割ってぶちまけちゃおうよ。今日のことで、少しは僕に興味持ってくれたでしょ?」



「……それに関しては何も言わない」



「顔赤くしちゃって可愛いんだから。それじゃあ明日、待ってるよ」



「ねえ」



 立ち上がって帰ろうとする僕に、セルネくんが声を掛けてきた。



「あなたは……いや、もし俺が勝ったら?」



「う~ん、じゃあ僕が君の物になるよ。エッチなこともし放題だぞ」



「んがっ」



「それで僕が勝ったら――勝った時に言ってあげる。それじゃあまた明日ね、セルネくん」



 顔を真っ赤にして何か言いたげにしているセルネくんを放っておき、僕は寮までの道をスキップして帰るのだった。

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