プロローグ
俺達はリゼルヘイム国からの要請を受けて、関係が悪化しようとしていたザッカニア帝国との同盟締結を成し遂げた。海の向こうにある大国を味方につけたことで、リゼルヘイムはより平和で豊かな国へと発展していくだろう。
ただし、リゼルヘイムの統治者達は皆、そのことへの対応に追われている。
グランシェス家としてもやることが目白押しだ。同盟の取り決めに従って、貿易摩擦が起きないように調整、ザッカニアに対する技術の提供を迅速におこなう必要があるからだ。
とは言え、それについてはあまり心配していない。
ザッカニア帝国の子供を、新学期からミューレ学園に受け入れる。それに先駆け、一定数の卒業生をザッカニア帝国へと派遣する。
それらは決して簡単なことではないけど、ミューレ学園を設立して以来、各領地に対しておこなってきたことの繰り返しでもある。
グランシェス家を支えるみんななら、上手くやってくれるだろう。
それより問題なのは……ザッカニア帝国の姫様を賠償金代わりに押しつけられたこと。
俺より一つ年下で、ザッカニア帝国においては迫害の対象になっていたイヌミミ族にすら手をさしのべる、優しい性格の持ち主。
そんなオリヴィアがミューレの街に来ることは、なんの問題もない。なんの問題もないのだけど……俺の義妹として――となると話は別だ。
ただでさえリゼルヘイムのお姫様であるリズこと、リーゼロッテがいるのに、そこに加えて他国のお姫様までなんて――は、今更だ。その程度で動じたりはしない。
でも義妹、義妹なのだ。義妹というと、お兄様のためにがんばっているんですと無邪気に微笑み、さりげなくハーレム入りを迫ってくるあの義妹だ。
俺はハーレムなんて作るつもりがないのに、それでもかまいませんと健気なことを言う。いまですら罪悪感で死んでしまいそうなのに、また義妹が増えるとか勘弁して欲しい。
とは言え、オリヴィアが俺の義妹になることを受け入れたのは、俺が目当てではなく、ミューレの街自体に惹かれたからのように思える。
その辺、隣国出身の女の子だから義妹に対する感覚が少し変わっているのだろう。……いや、変わってるのは、隣国じゃなくて、この国の方かな?
最近、なにが正しくてなにが間違ってるのか分からなくなってきたからあれだけど、オリヴィアがどうこうという心配は必要ないと思う。……たぶん、きっと、そうだといいな。
まあ……奴隷として売られたイヌミミ族の解放などなど、オリヴィアはザッカニア帝国でやることがあるので、来るのは一ヶ月くらい先。少し考える時間がある。
優先的に考えなきゃいけないのは、移民として受け入れたイヌミミ族の扱いについてだ。
イヌミミ族がこの大陸から去って五百年。彼らを迫害していた者達はもういない。けど、イヌミミ族が力が強く野蛮な種族であるという噂は残っている。
このタイミングでなんらかの問題が起きれば、やはりイヌミミ族は野蛮だという流れになってしまうだろう。それだけはなんとしても阻止しなくてはいけない。
という訳で、ザッカニア帝国から戻ってきた俺達は、イヌミミ族の扱いについて話し合うために、お屋敷にある会議室へと集まっていた。
――部屋の中心に、ドーナツ形の大きな丸テーブルが設置されている。しかし椅子はなく、掘りごたつのような形になっていて、座るのは藁を編んだ座布団の上。
そして当然のように、足下には温泉が張られている。名付けて――足湯円卓会議室。俺が趣味全開で作らせた会議室である。
だけど……ドーナツ状のテーブルは俺の指示ではない。本来は普通の丸テーブルを予定していたのに、クレアねぇの策略により、いまの形へとすり替えられたのだ。
それにどんな意味があるかというと――
「それじゃ、イヌミミ族の移民に対する会議に移るわよ」
俺の向かいの席に座るクレアねぇが凛とした声で宣言。ゆったりとした動作で足を組み替える。それによってスカートの奥がちらりとのぞいた。
――そう。テーブルの形式上、みんなの生足が丸見えなのだ。
ここはリラックスしながら会議をするための部屋なんだぞ。みんなの生足がチラチラ見えてたら、会議に集中できないじゃないか。
しかも、だ。全部で十二人くらい座れるスペースがあるのに、俺の真向かいにクレアねぇで、その両隣にアリスとソフィア。そして俺の両隣にはリアナとティナが座っている。
なんでみんな、俺から太ももが見える位置に座っているのかと突っ込みたい。
いや、まぁね? 婚約者三人と、俺を慕ってくれている少女が二人。
全員が美少女でスタイルが良く、足湯でほてった生足が見えている状況でなにも感じないかといえば、まったくそんなことはない。ないんだけど……
「まずはイヌミミ族が住む土地についてね。ふふっ、お湯が気持ちいいわね」
えぇい、セリフのたびに足を組み替えるんじゃない、ホントに見えそうだぞ。
それにアリスはスカートが短いから普通に見えそうだし、ソフィアはゴスロリのロングスカートをまくり上げすぎてやっぱり見えそうだ。
両隣に座るティナとリアナの太ももは、あえて顔を向けなければ見えないんだけど……それはそれで気になってしょうがない。
「――ところで弟くん、話をちゃんと聞いてる?」
「聞ける訳ないだろ!?」
魂からの叫びである。この状況で話し合いに集中できる男がいたら見てみたい。
「ん~? 急に叫んでどうしたの?」
「……なんでもない」
クレアねぇの生足が気になってしょうがないなんて、バレたら絶対にからかわれる。そう思ってとっさにごまかした。だけど……
「えぇ~、良いから、お姉ちゃんに教えなさいよ」
気になるわねとばかりに声を上げ、言葉を切るたびに足を組み替えるクレアねぇ――って、いくらなんでも足を組み替えすぎだ。
「分かっててやってるだろ?」
「え、なんのことかしら?」
と言いつつ、再び足を組み替えるクレアねぇ。しかも今度はやたらとゆっくり、見せつけるように足を組み替えた。絶対にわざとである。
「足だよ、足。色々と見えそうで気になるからやめてくれ」
「あら、角度は計算してるから、下着は見えてないはずよ?」
「見えそうで見えないのが気になるんだよっ!」
そして、やっぱりわざとだった。
「そっか。じゃあ見せてあげるわね。ぴらっ」
「違うっ、そうじゃないっ」
あと、見せてあげるわねと言いつつ、スカートの奥が見えないぎりぎりまでしかまくり上げないクレアねぇが憎らしい。いや、見たかった訳ではなくっ。
「弟くんって、なんだかんだ言って食いつき良いわよね?」
「し、仕方ないだろ。俺だって年頃なんだから、気になるモノは気になるんだよっ!」
「そう思うのなら、遠慮なく見れば良いじゃない? むしろ、その手で捲っても良いのよ?」
「遠慮じゃなくてさ……いまはイヌミミ族迫害の歴史を繰り返さないためにはどうすれば良いか、大事な会議の最中なんだぞ?」
アリスもソフィアも呆れて――はないと言うか、同じようなことしてるけどさ。せめて時と場所を――いや、ぜひ時と場所を選んで欲しい。
なんて思っていたら、クレアねぇは「それもそうね」と指をパチンと鳴らす。
ほどなくミリィとミシェルが現れて、みんなにタオルケットを渡していく。そうして、みんなの生足はタオルによって隠されてしまった。
……なんでだろう、ちょっと悲し――いやいや、重要な会議なんだってば。
ついに、異世界姉妹もレビューを頂きました!






