第三十一話「トランプの街」
トランプの街に1人で来たのは、初めてだった。もう人間界ではコートを着る時期なはずなのに、私は半袖に半パンだった。
私は360度見渡し、ピンクに英字模様のTシャツを着た実夏を探した。しかし、見えるのは黄色や青色で二階建ての、四角い店や家ばかりで、何もない壁は緑色に、金の繊細な絵が描かれていた。
私は、空を見上げた。いつもと変わらない、真っ白な空はどこまでも広がっていた。でも今は私の心を映し出しているのか、少し濁った色になっていた。
地上へ視線を戻した。そして、笑い声や話し声の聞こえる方向へ首を向けた。黄色い建物の外には、いくつかのテーブルと椅子が置いてあって、トランプ数枚がそこに座り話に花を咲かせていた。クローバー、ハート、ダイヤ。それぞれには違う数字が書かれていた。
私はその近くにある小道へ入った。田舎っぽい、少しきつい坂道で、ちょっと登っただけで息が乱れので、途中にある小さな店に入ってみた。
「こ、こんにちは……」
「あれまぁ、こんにちは。坂道を登ってきたんだねぇ? ゆっくりしていくといいよぅ」
ダイヤの9。風紀の入った駄菓子屋のような店の雰囲気と、そのトランプおばあさんの話し方はよく似ていた。もう結構長い間生きているようだった。
私が椅子に腰掛けると、トランプおばあさんはトランプ柄のお餅を出してくれた。甘いお餅を数口食べた後、ここにいる第一の理由を思い出し、トランプおばあさんに尋ねた。
「あの、ここら辺で、ピンクの服を着た人間の女の子、見ませんでしたか?」
「人間の女の子ねぇ。先程まで奥で色々してたもんだから、分からないけれどぉ、あたしゃ久しぶりに人間を見たよぅ」
「そうですか……ありがとうございます」
食べ終わり、店を出ると、私はもう少し登ることにした。しかし登り切るとその先はなく、選択肢は右に曲がるか戻るかだった。私は右に曲がることにした。
ふいに、背後から気配を感じた。振り返ると、そこにはいつか見たお喋りなトランプが、にっこりと大袈裟にも見える笑みを見せながら立っていた。




