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第22話:講義記録
「……以上が、5年前に実施された『多重構造下における精神耐性実験』の全容だ」
講堂に、教授の乾いた声が響く。スクリーンの明かりが、教壇に立つ教授と、その傍らに控える髪の長い小柄な助教授のシルエットを浮かび上がらせていた。
「この実験の目的は、生まれながらにVR環境で育った人間が、現実をどこまで認識できるかの測定。被検体にはVRの中でさらにVRを体験させ、そこへARによる視覚的ノイズを混入させることで脳の限界値を測った。現実という概念を持たない個体が、さらなる仮想に触れた際にどう崩壊するか、あるいは順応するか」
教授は淡々と、かつ無機質に言葉を継ぐ。
「結局、被検体は仮想と現実の区別を完全に喪失した。観察終了後、彼は現実へ戻ることを拒絶し、今も深い夢の階層に囚われ続けている……と推測されている」
講義終了のチャイムが鳴り、学生たちはレポートを片手に次々と外へ出ていく。誰も、その「悲劇」が自分たちのすぐ側にまで浸食しているとは気づかずに。
静まり返った講堂。
教壇に残った助教授の細い指先には、あの使い古されたノートが握られていた。




