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膝枕で完敗する護衛と妖王、そして最強の爺

 夜が明けた頃。


酔いどれ添い寝騒動でヘトヘトになったシャガルとテュエルは、

レイラが起きた瞬間、張り詰めていた力が抜け、どっと疲れが押し寄せた。


 シャガルは庭の特等席の大岩へふらつきながら向かい、

そのまま腰を下ろした瞬間、意識を手放す。二度寝だ。


 テュエルはレイラの側につきながらも、

気を抜いた拍子に、時折こくん、と舟をこぐ。

それでも視線だけはレイラから外さなかった。


 しかし——

その“ほんの一瞬の気の緩み”で。



 気づいたときには、

レイラが、目の前から消えていた。


テュエル

「っ……!? レイラ様……どこへ……!」


 背筋が冷える。

慌てて周囲を見渡した、そのとき。


 偶然通りかかったシャガルと鉢合わせた。


シャガル

「……貴様、なぜそんな顔をしている。

 レイラはどうした?」


テュエル

「い、いなくなって……!」


シャガル

「はぁ!?

 一緒にいたのではないのか!!?」


 思わず声を荒げるが、

不思議と胸騒ぎはなかった。


 レイラなら、きっと宮内のどこかにいる——

互いにそう判断し、二人は並んで探し始める。


 そのとき。


 ふと視界に、

柔らかな陽の光が差し込む縁側が映った。


 そして——

二人の足が、ほぼ同時に止まる。


 縁側の上で、

レイラが爺の膝枕で眠っている。


 爺はレイラの髪を、ゆっくりと

「よしよし」と撫でていて、

レイラはその手に頬を預けるように、安らかな寝息を立てていた。


シャガル&テュエル

((……な、なんて……羨ましい……ッ……!!!))


 だが同時に、

“割って入れない”

“入ってはいけない”


 そんな、言葉にできない静けさが、そこにはあった。


――まるで、本物の親子。


レイラ

「爺……今日の夕餉は何かなぁ……」


「はっはw もうお腹が空きましたかw」


レイラ

「なんとなく……」


「姫さまの好きな魚を——」


レイラ

「ううん。今日は餅巾着がいい。」


「……おや?

 あれは熱いからと、姫さまは苦手だった気がしますが」


レイラ

「ん……今日のは……爺にあげたい。」


 その声は、どこか柔らかかった。


 爺の手が、一瞬止まった。


 脳裏をよぎるのは、

氷のような瞳で、誰の手も求めなかった幼い姫の姿。


 それが、今は——


「…………」


 そっと眼鏡をずらし、指で目元を押さえる。


レイラ

「爺?……泣いてるのか?」


「いえいえ……歳のせいで、涙腺がゆるくてな……」


 そう言って笑ってみせるが、


レイラ

「……昔からずっとその姿だろう。

 爺はまだまだ、私に隠し事をするのだな。」


 少しだけ、ぷくっと頬を膨らませる。


「まったく……姫さまには敵いませんな。

 この姿が、一番落ち着くのですよ。」


レイラ

「……いい。

 爺が、爺でいてくれるなら。」


「……ずっと……そばにいてね、爺。」


「もちろんです。

 姫さまは……私の宝であり……娘なのですから。」


 その言葉に、レイラの表情がふっとやわらぐ。

 一瞬だけ目を細め、安心したように息を吐いた。


 そして嬉しそうに微笑み、

 さらに深く、爺の膝に身を沈めた。


シャガル&テュエル

((…………これは……勝てん…………))


シャガル

「……なぜ余らは、あの膝に辿り着けぬ……?」


テュエル

「……爺殿が相手では、一生無理かと……」


シャガル

「……全く、あの爺……読めん男よ……」


その声に、

ピクッと耳を動かし、レイラが起き上がりこちらへ寄ってくる。


レイラ

「どうした、コソコソして。」


テュエル

「……すみません、レイラ様……

 少し居眠りをして……!」


レイラ

「……わざと起こさなかっただけだ。」


 そう言って、微笑む。


シャガル

「レイラ……昨日のことだが……覚えておらぬのか?」


レイラ

「昨日のこと?」

 

シャガル

「そうだ、昨夜のあの宴会での発言と振る舞い、

 3人で寝ることになった経緯、忘れたとは言わせぬぞ」


レイラ

「…………………………」

 少し恥ずかしそうにもじっとするレイラ


シャガル

「!覚えておるのだな?!」


レイラ

「……あぁ……意外と……美味しかった……」


シャガル

「?!おいし――?!」

 完全に耳をかぷっとされたことと勘違い


レイラ

「すまなかったな……シャガル……我慢させてしまって……」(酒)


 シャガル

「……ぁぁ……いや……良いのだ……」 


 (まさか……余の……告白の返事を……?)

 胸が高鳴っていくシャガル


レイラ

「また……」


 シャガルは息が浅くなり

 ドキドキが最高潮に――


レイラ

「また…飲もうな…酒」


シャガル

「…………………………?酒……?」

 きょとん顔をする


レイラ

「あぁ……そんな我慢などしなくてもいい」


シャガル

「……………………」

 

テュエル

「…では昨日、三人で寝ることになったことは?」


レイラ

「あぁ、飲み始めてすぐに眠くなってしまって――

 覚えていない。」


テュエル&シャガル

「………………………………」


レイラ

「心配して一緒に寝てくれたのだろう?

 ……本当にお前たちは、過保護だな……」


 と、優しく微笑んでみせる。


テュエル&シャガル

(そんな笑顔を見せられたら、何も言えない)


――


そして夕食。


レイラ

「……!餅巾着だ……!」


「姫さまのご要望でしたからな^^」


レイラ

「爺、碗をよこせ。入れてやる」


「姫さま、ちゃんとご自身の分がありますから^^」


レイラ

「いいんだ、爺にあげたい」


 少し子どものようにムッとしながら、

 自身の餅巾着を半ば無理やり爺の碗へと運ぶ。


「はっはっは、食べきれるかのう!」


レイラ

「いっぱい食べて精をつけろ、爺」


「ありがとうございます、姫さま^^」


シャガル

「…………」


テュエル

「…………」


(なんだ、この違いは……という純粋な嫉妬もあるが……微笑ましい)


テュエル

「レイラ様!ボクのお浸し、あげます!」


シャガル

「むっ!レイラ!余の吸い物、やるぞ!」


テュエル

「レイラ様!だし巻き、好きですよね?あげます!」


シャガル

「ぐっ!レイラ!余の――」


レイラ

「おい……」


シャガル&テュエル

「…………ん?」


レイラ

「…………こんなに食べれない……」


 レイラの目の前には、山積みのご飯たち。


「はっはっはw おかわり、ありますからなw

 気にせずにお食べくださいね」


シャガル&テュエル

「…………!」


(おかわり……忘れていた)


レイラ

「…ははっ……」


 思わず声が漏れ、笑ってしまう。


 その笑顔を見て、皆もつられて微笑んだ。


――


夕食を終え、就寝前。


資料室で一人、静かに読書をするレイラ。


頁をめくる指が、ふと止まる。


昨日と、今日。

胸の奥が、あたたかく満たされるのを感じて——


そのとき。


吹き抜けから流れ込んできた風が、

書架の隙間をすり抜けた。


ぴくり、と

レイラの肩が、わずかに震える。


レイラ

「…………」


 窓の外へ視線を向けて——


レイラ

「……生ぬるい……」


 少しだけ眉をひそめる。


レイラ

「……嫌な風だな……」


夜が、静かに息をひそめていた。


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