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視えすぎる巫女は、戦場で壊れる


凱帝国軍がじわじわと後退し始めているのを見て、

レイラとテュエルは自然と背中合わせの体勢になる。


凱帝国にもオーラを扱う者はいる。


だが――その力は未熟。


纏うことはできても、

制御し、戦いに昇華できる者はほとんどいない。


それでもなお、

彼らの力を“視る”ことのできる者は、確かに存在していた。


レイラが静かに息を吸うと、

鋭い風のオーラが纏わりつき、砂塵を切り裂く。


テュエルは逆に、

熱量の高い炎のオーラが噴き上がり、空気を揺らす。


その温度差すら、二人の間では完璧なバランスだった。


凱帝国兵

「なんだ……あの煙……靄……いや、光は……」


見たことのない膨大なオーラの光に、目を奪われる。


レイラ

「……行くぞ、テュエル」


テュエル

「ふふ、やっと“ボクの隣”に戻ってきてくれましたね」


レイラが踏み込めば、

冷風が鋭い刃となって敵陣を裂き、


テュエルが振り抜けば、

爆発のような斬撃が広範囲の敵兵を薙ぎ払った。


ただの武力ではない。


二人の攻撃は、

まるで一つの生き物のように――完全に連動していた。


レイラ

「……まだ削れる……」


二人が動いた瞬間、周囲の兵が一斉に吹き飛ぶ。


レイラの足元から伸びる風が、敵の脚を奪い、

テュエルの炎がそのまま焼き払うように薙ぎ払う。


だが――その頃から、レイラの表情が少しずつ歪み始めていた。



巫女の目に映る――

兵の“気の流れ”が線となって飛び交う。


耳に突き刺さるのは、兵士たちの断末魔。


「ぎゃあぁぁ!!腕がっ!!」

「やめてくれ……帰らせてくれ……」

「母ちゃん……母ちゃん……っ」

「痛い痛い痛い痛い……助け――」


それが全方向、重なって押し寄せる。


それだけではない。


血の鉄臭さ、焦げた肉の油の匂い、

恐怖の汗、怒り、怨恨、後悔……


すべてが“匂い”となって鼻を貫く。


レイラ

「うっ……」


視界が揺れる。

気の流れが多すぎて、視界が黒く染まっていく。


テュエルは背後から、わずかなレイラの揺らぎを感じ取る。


テュエル

「レイラ様……?!」


しかしレイラは、そのまま無理な姿勢のまま斬り込んだ。


完全にバランスが崩れるはずの軌道――

普通なら地面へ叩きつけられる。


だがレイラは“わかっていた”。


どんな姿勢でも、どれほど身体が揺れても――

テュエルが絶対に支えてくれる。


テュエルは空いた片腕で即座に彼女の腰を支え、回転させる。

レイラの斬撃が、敵の喉元を一閃する。


テュエル

「もう……ボクの動きと……ボクの思考まで読んで攻撃を繰り出すの、やめてください……」


言葉は呆れているが、

声は嬉しさで打ち震えている。


レイラ

「ふっ……お前とじゃないと出来ない攻撃だ」


だがその声も、わずかに息が震えていた。



次の瞬間。


レイラの視界が大きく揺れ、足がふらつく。

赤と黒が混ざり合い、吐き気が込み上げる。


レイラ

「っ……ぁ……」


血の匂いが、もはや“味”に変わるほど濃い。


テュエル

「レイラ様――!?」


――その刹那。


レイラ

「…………?」


(……懐かしい……匂い……)


(……この匂い…)


それが誰のものか、

考える前に、意識が遠のいた。


そのまま、崩れ落ちる。


テュエルが即座に抱き上げる。


テュエル

「あれほど病み上がりに無理するなと言ったのに!!」


怒りと焦りで声が震える。


―――――

煌龍国陣営

―――――


リア

「レイラ!!」


シンジュ

「顔色が……! 完全に過負荷ですね……!」


煌龍兵たち

「レイラ姫ぇぇぇ!!」


兵A

「あんなに強い姫が……倒れるなんて……」


兵B

「命削って戦ってたのか……?」


シャガルは飛びつく勢いで駆け寄る。


シャガル

「レイラ!!!! 大丈夫か!!? 余がすぐ抱――」


テュエル

「触るな。今は刺激するな」


シャガル

「おい猿!! なぜ倒れるまで戦わせた!?」


テュエル

「気づけなかったことは詫びますが、無茶をしたのはレイラ様ご自身です。

あれだけ病み上がりに無理するなと言ったのに……」


一瞬、目を伏せる。


「……でも、安心してください。もう連れて帰りますから」


シャガル

「うむ……そうだな。早く休ませねば!」


撤退を開始しようとしたその時――


カイハクが進路を塞いだ。


カイハク

「今帰るのは困ります。

あなた方が去れば、こちらの戦力は――」


テュエルが一歩前へ出る。


その瞬間、空気が張り裂ける。


テュエル

「――レイラ様をこれ以上、利用しようとするな」


「それ以上踏み込めば――容赦しません」


声は静か。


だがその静寂の底に――

“殺気”が沈んでいた。


シャガル

「開戦前に約束したはずだぞ

 役目を終えれば帰る、と。

 ……それとも、なんだ?約束を破るのが煌龍か?」


カイハク

「っ……!」


シンジュはすぐに手をかざして制する。


シンジュ

「カイハク。下がりなさい。

 ……彼らは帰します。もう十分すぎるほど働いて頂きました。」


リアも静かに頷く。


その時――


テュエルに抱えられたレイラの指先が、わずかに動いた。


次の瞬間、力の入らない身体が、反射的に身を起こそうとする。


テュエル

「レイラ様!」


シャガル

「レイラ!!!」


リア

「レイラ……!」


支えられながらも、

レイラは必死に視線を上げる。


焦点は合っていない。

それでも――伝えなければならない、と言うように。


レイラ

「……リ……ア……」


リア

「……なに?」


かすれた息の合間、

ほとんど音にならない声で呟く。


レイラ

「……ロイロ……の……匂いが……」


その瞬間――


リアの胸が、ぎゅっと強く締め付けられる。


(……え……?)


言葉には出さない。

声も、表情も、ほとんど動かない。


(ロイロ……?

 いるの……?)


だが――


次の瞬間には、その感情を深く押し殺した。


(……“匂い”だけ……

 確証はない……)


(ここで希望を抱くには……あまりにも残酷すぎる……)


レイラの身体から、完全に力が抜ける。


リアは、その重みを受け止めながら静かに息を吸った。


リア

「……もう…………限界よ……!

 これ以上は……無理……させられない」


シンジュ

「はい。この度はありがとうございました。

 また――会いましょう」


(――聞きたいことは山ほどある。

 だが――今は、その時ではない)


それぞれに想いを抱えたまま――

撤退が始まる。


テュエルの腕の中で気を失ったままのレイラを護りながら、

双国軍は煌龍国の援護を受けつつ後退していく。


道中、敵軍は追撃を試みるが――


シャガルがすべて薙ぎ払った。


問題はなかった。


煌龍の兵たちは、遠巻きにその背を見つめながら呟く。


兵C

「……あの二人……絶対敵に回しちゃだめだ……」


兵D

「味方でよかった……心の底から……」


シンジュは、その背を見送りながら、静かに目を細めた。


(……レイラ姫)


脳裏に焼き付いたのは、

あの戦場で見せた――圧倒的な力。


(あれは……一国の戦力を超えている)


ふと、視線をリアへ向ける。


(……そして、リアもまた……何かを隠している)


一瞬だけ――


(……婚姻……か)


その言葉が、思考の奥をかすめた。


利用価値としては、あまりにも大きい。

――手に入るなら、これ以上ない。


(惜しいな……)


だが――


シンジュは、わずかに息を吐く。


(……今は、それどころではない)


戦場を見渡す。


(彼らが去ったあと……我々はどう動くべきか……)


(だが今は――)


(ただ、感謝するしかない……)


双国の三人は――


嵐のように戦場を後にした。


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