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主を侮辱したので、かつて仕えていた王族を解体しました


ソンゴルはレイラを捕えるため、

帝国直属暗殺集団“カーカス”の一人を前へ押し出した。


ソンゴル

「見ろ。さきほどレイラ姫に斬られた兵たちを……まだ生きているではないか」


ソンゴル

「ふふ……人は殺せんのだよ。“氷霧の剣士”などと持て囃されていたが、所詮は姫。隙がある」


ソンゴル

「――だが油断はするな。必ず捕えろ」


カーカスは静かに頷き、音もなく地を蹴る。



一方、テュエル――エール将軍の前には、

ガルム将軍が怒り狂ったように兵を叩きつけていた。


ガルム将軍

「まずは猿魔の息の根を止めろ!! あいつを突破せねば話にならん!!」


テュエルは猿の仮面の下で、わずかに口元を歪める。


(ふん……この程度で俺が倒れるとでも?)



レイラの周囲は凱帝国兵に埋め尽くされ、完全な包囲網が形成されていた。


そこへ、カーカスが歩み出る。


カーカス

「フッフッフ……レイラ姫。もう逃げ場はございませんよ」


「大人しくついて来ていただければ、お怪我はさせません。さぁ、こちらへ」


レイラは沈黙したまま、微動だにしない。


カーカスは肩をすくめ、ため息を吐く。


カーカス

「やれやれ。父親に似て強情だ」


「ならば仕方ありませんね――眠っていただきましょう」


次の瞬間、姿が掻き消える。


無音、無影。

常人では追えない速さで四方を跳び回り、撹乱してくる。


レイラは静かに愛刀【愛娘】の柄へ手を添える。


カーカス

「貴女の抜刀と私の速さ……どちらが速いか、試してみましょうか!」


その声が背後からした瞬間――


レイラの拳が、オーラを纏ってみぞおちに突き刺さる。


「ぐはっ!!」


呼吸が止まり、動きが鈍る。


直後――


レイラは抜刀し、

ためらいなくその首を刎ねた。


落ちるはずの首は、そのまま掴み取られ

ぶらり、と揺れる。


凱帝国兵たちの動きが、完全に止まる。


「ひっ……!!」

「どう捕えろと……!?」

「あのカーカスを……!?」

「殺せぬ姫ではないのか!?」

「……氷霧の……剣士……!」


レイラは冷ややかに言い放つ。


「“殺せぬ姫”だと思ったか」


「私は無闇な殺生を好まぬだけだ」


「だが――必要とあれば斬る」


「さぁ……来い。“戦”はまだ始まったばかりだ」


そのまま舞うように兵の群れへ跳び込み、

次々と斬り伏せていく。



その瞬間――


まるで雷が走ったかのように、

煌龍国陣営にざわめきが広がる。



煌龍国陣営


兵A

「なっ……何だあの姫……!」


兵B

「うそだろ……あの速さ……!」


兵C

「斬ってるのに……まるで舞ってるみたいだ……」


兵D

「待って……強すぎない……? 誰……?」


兵E

「今カーカス一瞬で……え、好き……♡」


兵たちの瞳が、完全に熱を帯びていく。


リア

「レイラ!! さすがよ!! かっこいいわ!!♡」


シャガル

「おぉ……さすが余の女」


「無駄な動きなど一つもない!! まさに流麗!!」


「あぁ……ますます惚れる……!」


カイハク

「あ……あんなことが……陛下……!」


シンジュは目を奪われたまま、静かに呟く。


シンジュ

「……はい。確かに、心奪われる」


シンジュ

「美しい剣技です……そして、本当に無駄がない……」


シンジュ

「あれはまるで……舞――」


(だが……あれは本当に“人”の域か?)



テュエルは兵を叩き伏せながら、

全く別の意味で震えていた。


(あぁ……♡レイラ様……♡)

(なんて素敵なんだ……♡)

(カーカスの代わりに俺が斬られたかった……♡)

(そしてそのお手で掴まれたい……♡)


(はぁぁぁ♡)


完全に戦場であることを忘れている。


――が。


次の瞬間、視線が凍りつくように変わる。


テュエル

(さてと――俺も――)


テュエル

(“あの頃”の怨みでも晴らしに行くか――)


指をパキッと鳴らす。



逃げ腰になった凱帝国兵たちは、

前方から迫る災厄に気づく間もなく、テュエルへと雪崩れ込む。


兵士たち

「ひっ……まだあんな力を……!」

「無理だ……あれは人間じゃない!!」

「助け――」


テュエルは深く息を吸い込む。


次の瞬間――


全身から、炎のオーラが噴き上がる。


「はぁ……まったく……」


「無駄に命を“燃やす”なよ」


ドッッ!!と地面が揺れる。


双剣が振り抜かれた瞬間、

衝撃が爆ぜるように広がる。


ただの一振り――


それだけで十数人がまとめて吹き飛び、

肉も鎧も関係なく、空中で弾き裂かれる。


その双剣は――


レイラから与えられたもの。


主の力を宿すかのように、

常識外れの威力を叩き出していた。


テュエルは続けざまに斬撃を放つ。


その軌跡は、まるで火の彗星が大地を駆け抜けるかのように、赤く尾を引いていた。


テュエル

「凱……凱……凱……

――三年だ。」


刃を振るうたびに、炎が唸る。


「あの人の声を思い出すたび、

お前らの首が欲しくなった。」


一歩、踏み出す。


「――国?

 ――主?」


低く、吐き捨てる。


「――知るか。」


その目は、もはや人のものではない。


「――お前らは、俺からすべてを奪った。」


炎が膨れ上がる。


「だから俺は――

お前らの“生きていた時間”を殺す――」


凱帝国兵たち

「や、やめろ――!!」

「逃げ――っ!!」

「死ぬ……死ぬ……!!!」


――


ソンゴルは歯噛みし、怒りに顔を歪める。


ソンゴル

「誰かあいつを止めろォ!!!」


送り込まれたのは、凱帝国の誇る“三巨体”。


背丈四メートル近い巨人族の怪物たち。


巨人族

「潰ス」

「粉砕ス」

「殺ス」


三体が同時に襲いかかり、地面が砕け、空気が震える。


だが――


テュエルは微動だにせず、ただ一歩踏み出す。


次の瞬間。


地を蹴り、爆ぜるように加速。


オーラにより筋力がさらに膨張し、双剣を逆手に持ち、回転しながら一瞬で懐へ潜り込む。


テュエル

「遅ぇな。“山”かよ」


ズバァァァ!!


巨体の手足が、一瞬で宙を舞う。


続けざまに二閃、三閃。


巨人たちは声を上げる間もなく、崩れ落ちた。


テュエル

「悪いが……相手にすらなんねぇよ」


血と土煙の中、静かに立つ。


「役不足どころか……

お前らじゃ、俺の怒りの鎮火にすら足りねぇ」


凱帝国兵

「ム……ムリだ……」

「進めば死ぬだけだ……!」

「エール将軍は……化け物だ……!」


士気は完全に崩壊する。


――


ついに、ソンゴルが前へ出る。


その一歩は、場の空気そのものを変えた。


まるで――

戦場の主導権が、彼へと移ったかのように。


ソンゴル

「エール将軍……調子に乗るなよォ……?」


覇気と殺気が空気を歪める。


だが――


テュエルは、その姿を見た瞬間。


全身の炎が、歓喜するように揺らいだ。


テュエル

「来たか……ソンゴル」


一歩、踏み出す。


「三年だ」


静かに、確かめるように。


「夢の中で――

何度お前を殺したと思う?」


間。


「……だから決めてた」


わずかに笑う。


「お前だけは、

一思いに殺しちゃいけないってな」


ソンゴル

「……なんだと、猿が」


「口の利き方に気をつけろ。

もうお前は凱の者ではない!!」


「その仮面も外套も、今すぐ捨てろ!!」


テュエル

「は……はは……」


肩が震える。


「三年前から……

こんなモン、二度と着たくなかったさ!!」


そう吐き捨てると同時に、

血のように紅い外套を乱暴に引き剥がし、地に叩き捨てる。


続けて――


顔を覆っていた猿の仮面に手をかける。


一瞬の迷いもなく、それを外した。


「テメェの命令も……

テメェの顔も……全部、吐き気だった!!」


ソンゴル

「吐き気だと……?」


ぴくり、と口元が引きつる。


「貴様が……」


一歩、踏み出す。


「レイラ姫の傍に居たことの方が――

よほど吐き気がするわ…!」


低く、粘つく声。


「護衛などと……よくもまあ、俺の女に触れていたな……?」


一瞬の沈黙。


「どこまで近づいた?」


「どこまで見た?」


「……どこまで“許した”?あの女は」


低く、探るように呟く。


口元は笑っていない。


代わりに――


眉間に、わずかな皺が寄る。


「まさかとは思うが……」


「俺の姫に“触れて”などいないだろうなぁ……?」


吐き捨てるように続ける。


「護衛風情が……」


「分を弁えろ」


「レイラ姫は――」


わずかに恍惚が混じる。


「俺のものになる女だ」


「貴様のような下賤の者が、

傍に居ていい存在ではない」


一歩、詰め寄る。


「明け渡せ」


「今すぐにだ」


声が低く落ちる。


「あの女は俺――」


――ヒュンッ。


音だけが、先に届いた。


ソンゴルは、

自分の言葉が途中で“消えた”ことに気づかないまま、

喉を押さえて膝をつく。


声が出ない。


舌が、そこにあるはずなのに――ない。


テュエルは、低く息を吐いた。


テュエル

「……まずは口だ。

 その汚ねぇ舌で、

 レイラ様の名を呼ぼうとした……それが罪だ」


次の瞬間、

ソンゴルの身体が不自然に跳ねる。


剣閃が走るたび、

“何か”が落ち、

“何か”が使えなくなっていく。


右腕が、だらりと垂れた。

左脚が、支えを失った。


テュエル

「触れた手。

 近づいた足。

 ……見た、目」


愉悦すら滲ませて。


テュエル

「全部……いらねぇだろ?」


ソンゴルの視界が、唐突に暗転する。


何も見えない。

何も感じない。


ただ、

生きていることだけが、わかる。


そして――


最後に。


――ヒュン。


首が落ちた。


床に転がったそれを、

テュエルは一瞥もせず、吐き捨てる。


「俺――がなんだ?」


「……何を言おうとした?」


わずかに苛立ちを滲ませる。


「……その汚ねぇ口で、

レイラ様の名前を二度と発すんじゃねぇよ」


「クソが……」


炎が再び噴き上がる。


「あの方は――」


低く、確信を込めて。


「お前のものでも……

誰のものでもねぇんだよ……!!」


ソンゴルの身体が、遅れて崩れ落ちる。


その音を背に――


テュエルは狂気じみた笑みを浮かべた。


「ははは……」


炎が唸る。


「さぁ……凱帝国」


一歩、前へ。


「地獄はここからだ」


――


ソンゴルの首が地面へ転がる。


鈍い音を立て、それは無造作に止まった。


テュエルの炎のオーラは、なおも獣のように揺らめいている。


血煙の中に立つその姿は――もはや人ではない。


その光景を前に、煌龍国の兵たちはレイラから視線を外し、


ゆっくりと――


完全にテュエルへと目を奪われていった。


そして。


遅れて、理解する。


“あれ”が味方であるという事実を。


同時に――


抗いようのない恐怖が、胸の奥から這い上がってくる。


――――――

煌龍国陣営

――――――


兵A

「ひ……ひぃ……な、なぁ……

あれ……ほんとに“味方”なんだよな……?」


兵B

「い、一瞬だぞ……!?

王族の首を……あんな簡単に……バケモノかよ……」


兵C

「まさに……命の裁判官……猿魔……

裁きが速すぎる……お、恐ろしい……!」


兵D

「姫殿下……あんなのを護衛につけて……

護衛の範疇ってレベルじゃねぇ……災厄だろ……」


兵たちの視線が、レイラからゆっくりと逸れていく。


そして、血煙の中に佇むテュエルへと、吸い寄せられるように向かっていった。


リア

「テュ、テュエル……!?」


「も、もう完全にブチギレちゃってるわ……」


シャガル

「……やはり異常者、あやつ」


「どこか壊れておるとは思っていたが……ここまでとはな……」


視線は戦場から外さないまま、低く呟く。


「……だが」


ほんのわずかに、口元が歪む。


(あそこまでの緻密な王羅(オーラ)の扱い……

やはり侮れぬな……)


(……いいな)


ぞくり、と背筋を走る感覚。


「……ふむ」


「余も混ざりたくなってきたぞ……」


静かに、疼く。


カイハク

「え……猿魔とは聞いていたが……

まさかここまでとは……!」


完全に戦慄している


「こ、こんな規格外……

敵に回すのは……死を選ぶようなものだ……!」


シンジュは、一見すると冷静だった。


だが。


こめかみに一筋の汗が流れ、


指先が、わずかに震えている。


シンジュ

「……彼は……」


言葉を選ぶように、ゆっくりと続ける。


「“純粋な殺意を体現した戦士”……」


一拍。


わずかに首を振る。


「……いえ、違う」


視線は、ただ一点。


炎を纏う男へ。


「あれは……」


静かに、断じる。


「命を裁く側の目だ」


「名の通りですね……

命の裁判官――猿魔」


喉が鳴る。


本能が、警鐘を鳴らす。


「味方でよかった……」


小さく、息を吐く。


「本当に……心の底から……そう思います……」


(……絶対に、この男だけは敵に回してはいけない)


(ロイロでも――いや……)


(この者たちは……誰一人として……)


(太刀打ちできない)


その確信が、冷たい刃のように背筋を刺していった。


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