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“猿魔”再臨


――会議を終え、レイラが幕を押し分ける。

冷たい風が流れ込み、外で待っていたシャガルの紅い瞳がぱっとこちらを向いた。


シャガル

「……レイラ!」


レイラの後ろではテュエルが腕を組んで呆れ顔。


レイラはシャガルへ歩き、淡々と――しかしどこか優しく告げた。


レイラ

「外の警護、ご苦労だった。」


シャガル

「当たりまえだ。…余にできぬことはない」


耳まで赤くしながらどこか誇らしげに胸を張る。


見えないはずの犬の尻尾がぶんぶん揺れていそうだ。

さらに先ほどの覇王の声が余程効いたのか、妙に従順な様子を見せていた。


テュエル

「……単純すぎるだろアイツ……」


ナイル

「まあまあ、あれがシャガル様の可愛いとこでしょ?」


(※お前らも大概だろ)


レイラは周囲を一瞥し、


レイラ

「……シャガル、ついて来い」


とだけ言って少し離れた木陰へ向かう。


テュエルは嫉妬で胃が痛い。

だが何を話すか察して反対できない。


ついていく途中、シャガルはぼそっと呟く。


シャガル

「……何だ。余は叱られるのか?」


レイラは振り返り、真っすぐな瞳で射抜く。


レイラ

「シャガル。戦が始まる前に、これだけは約束しろ。」


シャガルは姿勢を正し、真面目な顔になる。


レイラ

「一つ。妖力は使うな。……オーラだけなら許す。」


シャガル

「む……っ、わ、分かった……!」


レイラ

「二つ。私の指示なしに勝手に戦場へ出るな。」


シャガル

「……?レイラが危ない時はどうするのだ?」


レイラ

「その時は私が指示する。」


レイラ

「三つ。王やリアたちに危険が迫った時だけ戦闘を許す。……お前の持ち場は戦場ではなく、シンジュとリアの元だ。」


シャガル

「なっ……!!余はレイラの護衛だぞ!!なぜ他の者を――」


レイラ

「……すまない。私が知る限り、一番強いお前にしか頼めないことなんだ。」


(わずかに芝居がかった声色で)


シャガル

「…………………………………」


レイラ

「……ダメか?」


(ほんの僅かに柔らかい声色で)


シャガル

「……しょうがない。余が全員守ってやる。皆、余の後ろに隠れるがよい……!」


頼られたことに気を良くし、どこか得意げに声が弾んでいる。胸を張り、いかにも誇らしげな様子を見せていた。


レイラ

「最後だ。四つ。煌龍の者と喧嘩せず仲良くしろ。……頼むぞ。」


シャガル

「あぁ、任せろ。余は完璧だ!」


頼られていることに応えるように迷いなく即答し、その言葉に一切の躊躇がない。自信に満ちた口調で言い切った。


レイラはほんの少しだけ息をつき、シャガルの頬をツン、と指で押す。


レイラ

「お前が暴れずに協力してくれるなら、心強い。……あとは私に従え。」


その瞬間――

まるで矢に射抜かれたかのように、シャガルの思考が一気に吹き飛ぶ。完全に撃ち抜かれ、視線がとろける。


シャガル

「こ、心得た……♡」


遠巻きに見ていた一行とテュエル。


テュエルは頬ツンに耐えられず、悔しさで爆発寸前。


ナイル

「あらあら♡あれはもう主従完成してるねぇ。テュエル君も、大変だねw」


シアンはおぉ…と静かに感心し、

シュシャは「レイラ殿……強い……!」と震え、

レオは笑って見守る。


リアはこっそり胸の前で手を握りしめている。


――全員が、レイラという存在に魅せられていた。


シャガルと陣営側に戻ろうとした時――


シャガル

「レイラ」


レイラを引き止める。


レイラ

「なんだ、シャガル」


シャガル

「またそんな男物の着物など着ておるから、間違われたのだぞ。せめてこれでも挿しておれ」


足元のたんぽぽを当然のように摘み、そのままレイラの髪へと挿す。


レイラ

「……邪魔になる」


すぐに振り払う。


シャガル

「なにをしておる! お前は宝石よりも美しい。それなのに自ら美しさを隠すな!」


言い切るや否や、再びたんぽぽを強引に髪へ挿し込み、有無を言わせぬまま満足した様子で背を向ける。大股で地面を踏みしめるように、そのまま陣営へと戻っていく。


レイラ

「はぁ……全く……」


そしてついに――その時がやってくる。


煌龍の地・峰郷(ほうごう)へ向かう軍勢。


峰郷では、凱帝国軍が煌龍国のグレン将軍の兵たちに対し、投石器と爆弾で激しく攻め立てようとしていた。


次々と投げ込まれる爆弾が、陣を崩そうと迫る。


その一つが、

グレンのすぐ傍へと落ちようとした瞬間――


間一髪、ナイルが駆けつける。


地を蹴り、爆弾の軌道に割り込むと、蹴り上げるようにしてそのまま弾き返す。


爆弾は弧を描き、凱帝国軍の方へと投げ返された。


ナイル

「ふぅ……危なかったね? グレン将軍?」


次の瞬間――


凱帝国軍の陣で爆弾が炸裂する。


轟音と共に土煙が上がり、兵たちが吹き飛ばされる。

一瞬にして陣形が崩れ、前線に動揺が走った。


一方、シアンは峰郷の山肌を見つめ、目を見開く。


数日前――凱帝国によって山が爆破され、岩と土砂が崩れ落ちた。

その岩雪崩に、子供を庇い、ロイロが巻き込まれたとナイルから聞いていた。


だが――未だに姿が見つからない。


シアン

(ロイロ……どこにいる……)


リア、そして他の一行もロイロの名を心の中で叫ぶ。


(ロイロ……!)


その時――


ふと、リアの藤色の瞳とレイラの視線が交わる。


キィ……………ン、と耳鳴りのような感覚がレイラの意識に響いた。


流れ込んでくるのは、強い想い。


レイラ

「…なるほど……ここにいるのか」


(よりによって敵陣の奥か……厄介だな)


テュエル

「レイラ様、どうしました?

 それと…たんぽぽ可愛いですね♡」


レイラ

「いや、気にするな……」


(……たんぽぽには…触れるな)


――次の瞬間、空気が変わる。


鋭い目でテュエルを見つめる。


レイラ

「テュエル、準備はいいか?」


テュエル

「はい。バッチリです^^

 でも……正直、またこの格好をするのは嫌なものですね……」


エール将軍として凱帝国に身を置き、“猿魔”として振る舞っていた過去を思い出し、表情が曇る。


テュエル

「この外套……せめていつものレイラ様のお色、紺色にしちゃダメですか?」


今、テュエルが身に纏っている紅い外套は、まるで血を吸ったかのように重く、鈍い色をしている。


視界に入るたびに、あの頃の記憶を否応なく引きずり出してくる。


(……今すぐ脱ぎ捨てたいんですけどね。鎧も重いし)


レイラは珍しく、わずかに怖い笑みを浮かべる。


レイラ

「…ダメだ。

 お前には一番働いてもらわねばならない」


テュエル

「…かしこまりました。やり遂げてみせます。」


小さく息をつく。


「でも……途中で帰りますからね? 無理はしないで下さい?」

(病み上がりなんですからね)


レイラ

「わかってる。私だって心配だからな」


双国で待っている爺や民を思い出し、目を細めた。


テュエル

「それならよかった。

 では……そろそろ行きますか」


レイラ

「あぁ……行こう」


二人はリアたちの元を離れ、喧騒が渦巻く前線へと歩みを進めた。


遠ざかるにつれ、空気は張り詰め、戦の気配が濃くなっていく。


やがて――


テュエルは懐から猿の仮面を取り出し、静かに装着する。


―――――


ナイルたち一行は、別の戦線を任され、この場にはいない。


戦の気配が張りつめる峰郷。

煌龍国軍も凱帝国軍も、息をひそめるように一瞬の静寂を迎えた。


だが――凱帝国軍が異変に気づく。


最前列、ただひとり。

風を切って佇む人影。


凱帝国兵A

「……あれ……あそこに立ってるの、誰だ……?」


凱帝国兵B

「一人……? 敵陣の最前で……?」


その正体を確認した瞬間、前列の凱帝国軍が一気に色を失う。


凱帝国兵たち

「まっ……まさか……!!!」

「嘘だろ……!?」

「エール将軍……!? いや……“猿魔”だ!!!」

「聞いてない!! なんであの大王がここに!?」

「無理だ! 前に出たら殺される!!!」

「悪夢だ……!!!」


百の声が千の悲鳴へと変わる勢いで、前列が総崩れになる。


エール将軍――“猿魔”。

一度睨まれれば、生きて帰れぬと恐れられた“命の裁判官”。


レイラの計算通り。

兵たちは混乱し、恐怖し、足を前に出すことすらできなくなっていた。


しかし――


――ボォォォォ……ッ!!


煌龍国軍の角笛が、戦場を震わせた。

開戦の合図だ。


シンジュは天幕からその様子を見て、静かに微笑む。


シンジュ

「さすがですね……もう効果が出たようです」


彼自身が、この瞬間を見計らって角笛を吹かせたのだった。


凱帝国軍を率いる、ガルム将軍もようやく異変の正体を掴む。


ガルム将軍

「くそ……あの猿……!!」


ガルム将軍

「貴様ら!! 早く進めと言ってるだろうが!! 進まんか!!!」

「殺すぞ!!!」


怒号に追い立てられ、凱帝国軍は震えながらも前進を始めた。

だが――進むほどに、“猿魔”を避けるように進路をずらし、無様に迂回していく。


すべてがレイラの仕掛け通り。


その瞬間。


タンッ――!!


レイラの足が軽く地を蹴り、ひらりと宙へ舞う。


刀一本。

まるで舞うような動きで、凱帝国軍の只中へと滑り込む。


周囲の兵が次々と倒れ、視界が嘘のように開けた。


ガルム将軍は目を見開く。


ガルム将軍

「なんだぁ……あいつは……」


その中心に立つのは、一人の――“男”の姿。


血の匂いに、レイラはわずかに眉をひそめる。


レイラ

「……ふん。全く、戦など……くだらない」


――その時。


ガルム将軍の背後から、ぬらりと影が現れる。


「……あれは……!! レイラ姫!?」



「まさか……双国に居るのではなかったのか……!?」


かつてレイラを捕らえ、逃げられた過去を忘れられず――

再び手に入れることに執着し続けてきた男。


ソンゴル。


ソンゴル

(……ちっ……カーカスでも攫えなかったか)

(だが……まさか自ら姿を現すとはな……)


歪んだ笑みが、その口元に浮かぶ。


ソンゴル

「レイラ姫!! あれは男ではない!! レイラ姫だ!!!」


ソンゴル

「ちょうどいい……今度こそ、逃がさんぞ」


ソンゴル

「捕らえよ!! 傷は最小限だ!!」


(今度こそ、この手で――)

(俺のものにしてやる……!)


(……正妻に……迎えてやる……!)


その声には、隠しきれない欲望と執着が滲んでいた。


その醜悪な気配を背に受けながら――


レイラが、ゆっくりと振り返る。


レイラ

「……ソンゴル。来ていたか」


その瞬間――


テュエルの目に、はっきりと殺意が宿る。


テュエル

「…………アイツ……」


テュエル

「レイラ様……殺しても?」


レイラは迷いも躊躇もなく、淡々と言い放つ。


レイラ

「あぁ。ここは戦場だ」


レイラ

「――機会があれば殺せ」


その一言で、テュエルは静かに笑みを浮かべる。


テュエル

「……かしこまりました♡」


その笑みは――


まるで処刑の刻を待つ、閻魔のように。


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