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ただ兵士を指導しているだけなのに、なぜか全員に惚れられています


香油の間に満ちていた甘い香りは、まだ微かに残っている。


レイラ

「……ん……」


薄く目を開けると、額に落ちていた髪がさらりと滑り落ちた。

身体が軽い。肩も、腰も、今朝よりずっと楽だ。


(……寝てしまっていたのか……)


ゆっくりと視線を後ろへ向ける。


――二つの影が、静かに立っていた。


レイラ

「……ぇ……」


気まずそうに、しかし妙に平然を装った二人の夫――

テュエルとシャガル。


気づかれたらまずい、と理解した二人は

即座に“もっともらしい嘘”を選んだ。


テュエル

「お目覚めですか? レイラ様^^」

「先ほど施術していた宦官二人は、施術が終わりましたので……先にお帰りいただきました。」

※実際は締め出した


シャガル

「まったく……レイラ。

余らから離れるなと申したであろうに。隙をついたように勝手にいなくなるな。」


レイラ

「……そうか、悪かった。」


ゆっくりと上体を起こしながら、肩に触れる。


「しかし……随分とうまい宦官だったな。

 つい……寝てしまった……」


テュエル&シャガル

「………………」


絶句。


(自分たちがやったと……言いたい……)

(しかし言えば……施術前に宦官を締め出した罪が……)

(……いやそれより嫉妬の方が面倒なことに……)


二人は揃って喉を引きつらせ、無言のまま視線をそらした。


レイラは静かに衣を整えた。


その背中を見ていた二人――テュエルとシャガルは、

施術中に死ぬほど我慢していた本音を一瞬で思い出し、揃って肩を震わせる。


テュエル

(……あの背中……素足……)

(香油を塗りながら……何度“飛びつくな”と自分に言い聞かせたか……)


シャガル

(……癒してやるつもりが……癒す以上のことを……)

(何度考えたかわからん……)


二人

((……理性が本当に死ぬかと思った……))


背中を滑る香油。

腰の曲線。

ほんのり赤く染まった肩。


――全部、限界ギリギリの破壊力だった。


香油の香りをまとったレイラが立ち上がると、

二人の喉が、同時に“ゴクリ”と鳴る。


少し間を置いて――


二人

「……レイラ(様)。」

「今日は……一緒に過ごしましょう(過ごすぞ)。」


レイラ

「…………」


即、察した。


レイラ

「……今日は……一人でいい……や……」


二人

「………………」

(ちっ……バレてる……)


そして無言の目配せ。


シャガル

【余らの妻は本当に……無防備すぎる】


テュエル

【えぇ……今日だけで何度危なかったか……】


二人

【他の男に触れられ、見られ、素肌を晒し】

【【絶対に、ダメだ。】】


一日中、

宦官への嫉妬、

独占欲、

施術中の理性の消耗……


すべてが積み重なり、二人はもう限界寸前。


テュエル&シャガル

((……よし……))


二人は同時に頷く。


テュエルは半泣きの目で縋るように言った。


テュエル

「……レイラ様……お願いします……

一緒に寝たいんです……。」


シャガルも低く、深い声で求める。


シャガル

「……疲れておるのは承知だ。

添い寝でよい……

だから……一緒に過ごせ、レイラ。」


レイラ

「……っ!」


(だ、だめだ……!!

この二人と同じ布団に入ったら……絶対に何か起こる……!!)


レイラ

「だ、だめだ……」


テュエル

「レイラさまぁ……」


シャガル

「レイラ……」


「…………」


あまりの切なさに、レイラはついこめかみに手を当てる。


レイラ

「……はぁ……

……添い寝……だけだからな……?」


二人

「「レイラ(様)!!!」」

((よし…!!!))


ぱぁぁぁぁっと光り輝く二人の顔。

心の中で二人は拳を握りしめた


◆◆◆


レイラの部屋へ向かう途中――


扉の前で、二人はバッタリぶつかった。


テュエル

「…………」


シャガル

「…………ふん」


【今日こそ俺が(余が)満足させてみせる】


目だけで火花を散らしながら、

無言で扉を開けて中へ入る。


寝台に近づくと――


「…………すぅ……すぅ…………」


レイラは。


すでに。


完全に無防備でぐっすり寝ていた。


布の端を握り、小さく動く指。

柔らかな寝息。


――どうやら“秒落ち”だったらしい。


テュエル

「…………ね、寝てる……」


シャガル

「……起こす……か?」


テュエル

「……いえ……これは……」


二人はレイラの寝顔を覗き込む。

そこには――“二人を信じ切っている”穏やかな顔。


テュエル&シャガル

「…………起こすのは……」

「……忍びないな……」

「完全に……信用されている……」


二人は見つめ合う。


次の瞬間。


二人

((……はぁ……))


そっと、そっと、

レイラを起こさぬよう左右から布団に潜り込んだ。


レイラは気づかぬまま、

二人の腕の中へすっぽり収まる。


テュエルはその手を優しく包み、

シャガルは肩をそっと抱き寄せ――


二人

((……あぁ……辛い……))


その夜、

レイラの“平穏”は守られた。


――だが夫二人の理性は、瀕死のままだった。



そして――――



香油の残り香がふわりと漂う朝。


レイラは、真ん中で丸まったまま――

最高に幸せそうな寝顔で目を開けた。


レイラ

「……んぁ……よく寝た……」


その瞬間。


左右から声にならない呻きが聞こえた。


テュエル

「…………っ…………。」

(…起きましたか)


シャガル

「…………ぉのれ……朝が来てしまったか……」

(何もしておらぬのに…)


二人は目の下にうっすら暗い影。

完全に寝不足。いや、まったく寝てない。


理由は簡単――

レイラが夜通し、無自覚なスキルを発動しまくっていたからだ。


・寝返りで胸元がふわり

・足を絡めてくる

・手を握り返す

・香油の香りが残っている

・息が甘い


その度に二人は――


テュエル

(……殺す気か…ガチで…)


シャガル

(余は何度布団を抜け出しかけたことか……)


一睡もできなかった。


◆◆◆


レイラは、のそのそと身体を起こし――


――大きく伸びをした。


レイラ

「ふぁぁぁ……」


その瞬間、布がずれて

胸元の膨らみが柔らかく強調され、

伸びた腕で脇がチラり。

捻った腰でしなやかな曲線が露わに。


朝日がそこに落ちて――

二人の視界は一瞬、純白。


テュエル

(あ……朝からこれは…っ……)


シャガル

(逆に…これは誘っておるのでは……?)


二人の呼吸が止まる。

理性が一気に赤色に点滅状態。


テュエルの指先が微かに震える。

シャガルは肩に乗せた布団を握り潰しそう。


このままでは――

二人とも“臨戦態勢”不可避だった。


が。


レイラ

「よし! ――稽古の準備するか!」


二人

「「………………は?」」


レイラはすくっと立ち上がり、

軽く髪を整えながら扉へ向かった。


腰布がさらりと揺れ、脚線がちらり。


二人

「「っっっっ…………」」


シャガル

「ま、待てレイラ!」

(声が裏返り気味)


テュエル

「そ、そんな格好で……他の男の前に……?!」


レイラ

「? 着替えてから行くに決まってるだろ?」


二人

「「…………そ、そうか(ですか)……」」


ほんのり肩の力が抜けた、次の瞬間。


レイラ

「じゃ、先に行くぞ」


ぱたん、と扉が閉まる。


残された夫二人は――

同時に布団に倒れ込んだ。


テュエル

「……無理……限界……」


シャガル

「……朝から……殺す気かあの女は……」


二人

((……でも……かわいい………。))


フラフラのまま顔を上げる。


テュエル

「……行きますよ……シャガル……

レイラ様が……他の男の前に……」


シャガル

「……あぁ……見張らねばな……」


夫二人、理性ゼロのまま出陣。


――――――


◆◆◆

東西南北部族合同・打ち込み稽古当日

◆◆◆


その日は四方の部族が一堂に会する、

**月に一度の“大規模合同稽古”**の日だった。


しばらく双国を離れるレイラのために、

「最後に思い出を作ってほしい」と兵らが声をかけてきたのだ。


向かう道中、レイラは小さく息を吐く。


レイラ(心の声)

(……ふ。別に……二度と帰ってこないわけではないのにな)

(いつ帰れるかわからないのは事実だが……)

(今日は、私も……楽しもう)


彼女の表情は、ほんのわずかに柔らかい。


◆◆◆


稽古場に到着すると――

四方の兵が整然と並んでおり、その光景はまさに圧巻だった。


東部族長・イブキ(ヤヒロの父)が、一歩前へ出て声を張る。


イブキ

「姫様!! おはようございます!!」


その声に合わせ、兵士たちも一斉に深く頭を下げた。


レイラ

「おはよう、皆。早いな」

「今日は……よろしく頼むぞ」


イブキ

「姫様、来てくださってありがとうございます! 我々のことも気にかけてくださり……」

「あっ……! 姫様、いえ……巫女王様とお呼びした方が……?」


レイラ

「呼び方も立場も、何も気にするな」

「私はこの国で生まれ育ち、ただ王の子であっただけの女だ」

「今日は分け隔てなく……剣を交え、“思い出”を共に作ろうではないか」


その言葉に、兵士たちの胸は一気に撃ち抜かれる。


兵士たち(心の声)

(ぁああああああ♡)

(姫様……いや……レイラ様……尊すぎ……)

(推しが……天使が……女神がここにいる……)

(え?好き……普通に好き……)

(艶…!艶がすぎる……!!♡)


レイラは王代理として多忙になってからも、

体が鈍るのを嫌ってよく稽古場へ顔を出していた。

その結果――


推しの民が異様に多い兵士たちが誕生していたのである。


◆◆◆


イブキ

「何かご希望はございますか?」

と、興奮を隠しきれない声で尋ねた。


レイラはふっと挑発的に口角を上げ――


レイラ

「……打ち込み稽古だ」


イブキ

「えっ……!」


レイラ

「打ち込み稽古だ!」

「全員、私にかかってこい!」

「全員と手合わせをしなければ、“思い出”にならないだろう?」


兵士たち(心の声)

(はぁぁぁぁぁあああああぁぁぁ♡)

(可愛い!! かっこいい!! しんどい!!)

(その笑顔……反則……殺人級……!!)

(兵士想いで…尊い…!!)

(いやむしろ殺して!!(物理的に打ち込みで))

(思い出にされたい!!)


稽古場全体の士気は一気に最高潮へ――。


レイラの放った

「全員、私にかかってこい!」

のひと言で、稽古場の空気は爆発した。



そして、レイラは

ひとりひとりの名前を呼び、正確な癖を見抜いて指導を始める。


兵たちの心を射抜く時間の始まりだった。


⸻


レイラ

「カイ、お前は腕に力が入りすぎている。

 もっと肩を落として、呼吸を合わせろ」


カイ

「は、はいっ!!

 肩の力……抜きます!!」


カイはその場で肩をぐるぐる回しながら、

レイラの言葉を反芻し、顔を真っ赤にしている。


(俺……名前、呼ばれた……

 姫様に見てもらえた……)


その瞬間――

カイの膝がガクッと折れた。


レイラ

「おっと……!」


そっと腕を引いて支える。


レイラ(微笑)

「焦るな。だが、よくやったな」


カイ

「…………死ねる……(尊死)」


⸻


レイラ

「タツミ、斬り上げの初動が遅い。

 腰を落とす前に足が動いてしまっているぞ」


タツミ

「はっ! 次は必ず速く見せてみせます!」


勢いよく答えたが――

踏み込みすぎて転けそうになった。


レイラ

「タツミ!」


すかさず腕を取って引き止める。


レイラ

「……ふっ。元気があるのはいいことだ。

 その熱意、大事にしろ」


タツミ

(ああああああああああああぁぁぁ!!)

(笑った!!姫様が俺に笑った!!!)


完全に昇天。


⸻


レイラ

「タケミネ、悪くない……だが力任せすぎる。

 “当てにいく”のではなく、“斬る軌道”を意識しろ」


タケミネ

「……っ! 心得ました!!」


剣を構え直そうとして足がもつれ――

片膝をついてしまう。


レイラはすっと膝を折り、

同じ目線の高さで覗き込む。


レイラ

「タケミネ。

 ……倒れてもすぐ立てる、それは強さだ。

 よくやったな」


タケミネ

(や、やめて……近い……)

(そんな顔されたら……惚れる……いやもう惚れてる……)


耳まで真っ赤。


⸻


レイラ

「ヨリト、お前は目線が浮きやすい。

 敵の胸元を見る癖をつけろ。視線は命取りになる」


ヨリト

「は、はい……! 以後、気をつけますっ!」


返事をした瞬間、緊張で力が抜けてしまい、

そのまま尻もちをついてしまう。


レイラは苦笑しながら、手を差し出す。


レイラ

「ふふ……ヨリトらしいな。

 だが真面目さは武器だ。よく頑張ってるぞ」


ヨリト

「っ~~~!!」

(手!!姫様の手!!!)

(もう離したくない!!)


震える手で立ち上がる。


⸻



レイラ

「サイジ、踏み込みはいい。

 だが戻りが甘い、退き足をもっと速く!」


サイジ

「了解です姫様! 次は戻りも完璧にします!」


……が、勢いよく下がりすぎて尻から転倒。


レイラ

「あぁ、サイジ! 大丈夫か?」


手を取って引き起こす。


レイラ

「勢いがあるのは良いことだ。怪我はないか?」


サイジ

「な、ないです……!!

 怪我より……心臓が死にそうです……!!」


⸻


―――――兵士全員、撃沈。


レイラが微笑むたび、

手を差し伸べるたび、

名前を呼ぶたび――


兵士たち(心の声)

(え……待って……)

(レイラ様……俺たちの名前……全部覚えて……)

(覚えてくださってた……?!)

(…………これもう結婚では???)


感動が爆発し始める。


兵士たち(心の声)

(天使……?)

(いや、女神……?)

(俺の推しどころじゃねぇ……尊い……)

(今日の稽古、思い出どころじゃねぇ!!)

(――これは宝物だろ!!!!)


その頃、裏では……


兵士A(心の声)

(次……俺の番……倒れよ……倒れよ……)

(姫様に手ぇ取ってもらえる……!!)


兵士B(心の声)

(よし……自然に尻もちだ……自然に……!)

(いった!!痛っ!!……でも触ってもらえた!!最高!!)


兵士C(心の声)

(膝をつくのは……計画通り……)

(姫様の「大丈夫か?」が聞きてぇぇぇ)


……という、

触れられたくて転倒者が異常増加する始末。


当然、レイラはそんな裏事情は露知らず。


兵士D(心の声)

(ありがとう神……いやレイラ様……)

(手、触ってもらえた……もう浄化された……)


稽古場はすでに

**“レイラ様しか見えない戦士”**で溢れかえっていた。


レイラはそんな彼らを見渡し、満足そうに頷く。


レイラ

「……皆、よくやったな」


その笑顔は――

まさに殺人スマイル。


兵士たち

(あああああああああぁぁぁぁ!!!)

(一生ついていきます!!!!)

(今日死んでもいい!!いや死ねない!!レイラ様のために!!)


レイラの笑顔と柔らかな声、

そして一人一人への気遣いにより――


稽古場は、ほんのり桃色の空気に染まっていた。


誰もが胸を押さえ、

顔を赤らめ、

妙にそわそわしていた。


――その場にいた全員の脳内が、

 同時に“恋の花畑”になっていた。



兵士たち(心の声)

(レイラ様……やっぱり天上の人……♡)

(触れられただけで寿命が伸びた…♡)

(今日という日は子や孫に語り継ぐ……

 いや…むしろ産んでくれ……♡)


その熱の最中

なぜか、ざわ……と兵たちの一角が騒ぎ始める。


兵士A

「なぁ……思ったんだけどさ……」


兵士B

「ん?」


兵士A

「旦那様って……二人、だろ……?」


兵士B

「……まぁ、そうだが?」


兵士A

「じゃあ……その…………

 三人目って……可能性……ゼロじゃなくね……?」


兵士B

「!?」


周囲の兵士

((こいつバカか!?))

((いや、一瞬でも“ワンチャンあるかも”って思った俺もバカだ!!))

((無理に決まってるだろ!!))

((“あの二人”に殺されるわ!!))


脳内に同時再生される、

冷酷な殺戮王シャガルの赤い瞳と

微笑みながら全てを計算しているテュエルの黒い影。


兵士たち

((まずシャガル様が首飛ばして――))

((テュエル様が死体消す未来しか見えねぇ!!))

((3人目とか言ってる場合じゃねぇ!!命がねぇ!!))


だが愚か者の妄想は止まらない。


兵士A(心の声)

(レイラ様が優しくて……笑ってくれて……

 手まで取ってくれて……

 あれ……俺……ワンチャン……???)


兵士C

「おい、お前……命惜しくないのか……?」


兵士A

「いやいやいや! 言うだけタダだろ!?

 もしかして俺らにもワンチャン――」


兵士一同

「ねぇよ!!!!!!」


地響きのようなツッコミが走る。


だが――

その愚か者の甘い妄想は、次の瞬間。

 氷点下の気配によって消し飛んだ。


――その時だった。


稽古場の空気が、ふいに ひやり と冷えた。


背筋に刺さるような、

鋭くて……重い……

圧が、遠くからゆっくり迫ってくる。


兵士D

「……え? なんか……寒くねぇか……?」


兵士E

「今……誰かに…………睨まれたような……」


兵士F

「気のせい……だよな……?」


ざわり、と草が揺れる。


風が流れただけに見えた――

だが、誰もが感じた。


何かが来る。

 怒っている“誰か”が。

 こちらへ向かって来ている。


そして、その場の者はまだ知らない。


レイラに向けて甘い声を出した兵士Aの背に、

じわり……と“冷たい殺気”が張りついていることを。


――この光景を、遠くから目撃している者がいた。


女神のように兵に微笑むレイラ。

彼女に触れられ、名を呼ばれ、

喜びに打ち震える兵たち。


その全てを――


クマを作った夫二人が。

 めちゃくちゃ静かに。

 めちゃくちゃ怒りながら。


見ていた。


次回――

夫二人、修羅化。

稽古場、地獄の黙示録編へ。


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