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双国ノ巫女 〜愛されることを諦めた姫が愛を知る物語〜  作者: Su
出会いと誓い――護衛テュエルとレイラの軌跡
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退屈すぎる姫が最強の少年と出会った結果――一方的にボコられて恋に落ちた件

退屈。


毎日が、ひどく退屈だ。


朝は決まった時間に起きる。

舞の稽古をし、琴に触れ、本を読む。


それだけで、一日が終わる。


剣も、やりたいと言ったことはある。



だが父は許さなかった。



「手に豆ができたら傷物になる。女は舞い、奏していればいい」


それだけだった。


父と話すことは、ほとんどない。


———


窓の外では、兵たちが剣を振っているというのに。


「……はぁ」


資料室の窓辺に肘をつき、外を眺める。


乾いた音が、規則正しく響いていた。


木刀が打ち合う音。

掛け声。

土を蹴る足音。


その一つ一つが、やけに鮮明に耳に届く。


――速い。


東の隊、三列目。

左から二人目の男。


踏み込みが浅い。

次の打ち込みで、必ず右肩が空く。


案の定、打ち込まれた。

 

(……やっぱり)


視線を少しずらす。


別の組。


あちらは――


(あの者、癖が強い)


振りかぶる前に、わずかに息を止める。

力を溜める癖だ。


だから動きが読める。


三、二、一――


打ち込み。


受けられる。


「……つまらない」


ぽつりと零れた言葉は、誰に届くこともない。


実際に剣を握ったことはない。

触れたことすら、ほとんどない。


それでも――


(勝てる)


理由はわからない。


けれど、そう思った。


⸻


ふと、風が吹き込む。


土と、汗と――


(……焦り)


まだ打ち合いは続いているのに、

一人だけ、匂いが違った。


視線を向ける。


先ほどの男だ。


(やっぱり)


⸻


「――レイラ様」


静かな声に振り返る。


「本日の稽古のお時間でございます」


「……あぁ」


差し出された扇子を受け取り、立ち上がる。


今日もまた、同じ一日が始まる。



――そう思っていた。


この退屈が、壊れるまでは。


 

廊下の向こうから、ひそひそとした声が聞こえてくる。


「ねえ、今日の合同稽古――」



「月に一度のやつでしょ?各部族の精鋭が揃うらしいわよ」


「今回は当たり、いるかしらね」


「どうかしら。強いだけじゃつまらないもの」


ふと、足を止めた。


(……もう、そんな時期か)


耳に入った言葉に、わずかに意識を向ける。


(精鋭……か)


自然と、足が資料室の方へ向いていた。


⸻


資料室の窓から見下ろす稽古場は、いつもより騒がしい。


(……多いだけ、か)


視線を滑らせる。


一人、二人、三人――


筋のいい者はいる。


だが、それだけだ。


(足りない)


父は言った。



――優秀な護衛をつけた場合に限り、外出を許す。


 

それは許可であり、同時に条件だった。



(……この中から選べと?)



もう一度、見渡す。



速さも、力も、技もある。


けれど――


(預けるには、弱い)


三手先で崩れる。


守れる者ではない。


「……つまらない」


小さく息を吐く。


(やっぱり、いないか)



――外へ出ることは、できない。


そう結論づけて、視線を外した。


 

⸻


気づけば、庭へ足が向いていた。


静かな場所が、好きだった。


誰もいない場所の方が、落ち着く。


皇族の庭。


本来、限られた者しか立ち入らない場所。


風が、木々を揺らす。

 

(……やっぱり、ここが一番静かだ)



そのはずだった。


(……?)


違和感。


視線を向ける。


木陰。


――人がいる。


(……え?)


横になっている。


堂々と。


(なんで……ここに?)


ここは、外部の人間が入れる場所ではない。


それなのに、


(寝てる……?)


無防備に、眠っている。


片腕を頭の下に入れ、

無防備に寝ているようでいて――



手の届く位置に、木刀が二本置かれている。



呆れと、ほんの少しの興味。



近づく。



足音を消す必要もない。



部族の装い。


西――


(……西の部族か)


さらに目を細める。


(この体つき……)


無駄がない。


よく鍛えられている。


(族長の子息か)


稽古をサボって、こんなところで昼寝とは。


(……飽きた、か)


小さく息を吐く。


――だが。


(……もったいないな) 


視線が、わずかに鋭くなる。


ただ、寝ているだけのはずなのに。


(……濃い)


違和感。


確かに、そこに“在る”。


触れられるものではない。


それでも――


(ここまでのものは、見たことがない)


静かに横たわっているだけのはずの身体から、


――溢れている。


抑えられているのに、


隠しきれていない。


(……ここまでで止まる器じゃない)


(鍛えれば――どこまで届く?)


ほんの少しだけ、興味が湧いた。


視線が、わずかに鋭くなる。


(もっと、伸びる……)


レイラはそのうちの一本を拾い上げる。


軽く振る。


そして――

 

ぽい、と。

 

少年のすぐ横に落とした。


カタン、と乾いた音。


「……っ!?」


反射的に跳ね起きる。


「うわぁぁ!!? ……は!? だ、誰だ!?」


距離を取る。


――気配が、なかった。


(いつからいた……?)


さっきまで、確かに誰もいなかったはずだ。


それなのに、


(こんな近くまで……?)


視線の先。


そこにいたのは――


「……へ?」


女の子、だった。


青みがかった銀色の髪が、風に揺れる。


陽の光を受けて、淡く光っていた。


大きな瞳。


宝石みたいに――いや、 


(……なんだ、あの色)


見るたびに、色が揺れる。

 


(……綺麗だな)

 


一瞬、思考が止まる。



――ハッ。



(いや、待て)



違う。



(なんで気づけなかった)



ここまで近づかれて、



気配を一切感じなかった。



普通じゃない。


 

(……なんだ、こいつ……)



言葉が、わずかに遅れる。



その間に、


 

女は首を傾けて――



「私と、手合わせして」



そう言った。



「……いいけどさ」



木刀を拾いながら、眉をひそめる。

 


「怪我するぞ?

 そんな、剣も握ったことなさそうな体で」



「……やらないの?」


 

 少女は、じっとこちらを見る。



「……そうか」



興味が失せたように、わずかに視線を外す。

 


そして――



「なら、その程度で満足していればいい」



(……は?)



一瞬、思考が止まる。

 


(このガキ……)


  

(鉄仮面みてぇな……)


 

じわっと、熱が上がる。



「……言ってくれんじゃねぇか」



拾った木刀を、握りしめた。



「後悔しても知らねぇぞ」



少女は、静かに構えた。


「……私から行く」


――次の瞬間。


消えた。


「――は?」


カンッ!!


「っ――!!」


腕に衝撃。


(はや――っ!?)


重い。


(なんだこれ……!)


踏み込む。


だが――


ドカッ!!


「ぐっ……!?」


(蹴り!?)


体勢が崩れる。


(まずい――)


連撃。


カンッ! カンッ! カンッ!!


(見えねぇ……!!)


防ぐので精一杯。


(なんだこいつ……!!)


速い。


正確。


容赦がない。


(くそっ……!)


「まだだッ!!」


無理やり踏み込む。


一撃を振り抜く――


スカッ。


「……は?」


いない。


――背後。


トン。


「終わりだ」


――ドンッ!!


地面に叩きつけられる。


「っ……!!」


(くそ……!)


歯を食いしばる。


――立ち上がる。


踏み込む。


カンッ!!


弾かれる。


――もう一度。


――さらに、もう一度。


気づけば、

何度も打ち込んでいた。


何度も叩き伏せられていた。


どれくらいやっていたのか、

もうわからない。


「はぁ……っ……はぁ……」


息が整わない。


体が動かない。


「……負けた……」


視界が揺れる。


(うそだろ………)


悔しい。


けど――


その時だった。


その少女を見上げた瞬間。


 


――空気が、止まった。


 


「………………」


 


呼吸を忘れる。


 


視界の中心に、

ただその姿だけがある。


 


(……あ)


 


目が、離れない。


何を考えればいいのか。

何を思えばいいのか。


わからない。


ただ――


“何か”が、


そこにあった。


レイラ

「……鍛錬を怠るな」


「……っ、は、はい!!」


声が遅れて出る。


気づけば、

少女はもう背を向けていた。


去っていく。


しばらく、動けなかった。


⸻


音が戻ってくる。


風の音。


遠くの掛け声。


現実が、ゆっくりと戻ってくる。


「………………は?」


ぽつり、と。


ようやく思考が動き出す。


(……なんだったんだ、今の)


胸の奥がざわついている。


理由はわからない。


ただ――


落ち着かない。


「……っ」


勢いよく立ち上がる。


(……親父)


聞けばわかる。


あれが何なのか。


あの女が誰なのか。


我に返った瞬間、体が勝手に動いていた。


⸻


「親父!!」


西部族長・セルガ

「てめぇ、テュエル!!

 どこ行ってやがっ――」


テュエル

「あのさ!!」


息を切らしながら言葉を叩きつける。


「髪がふわっとした銀髪で、

 瞳がでかくて――

 その目が宝石みたいに揺れる女、知らねぇ!?」


セルガ

「……はぁ?」


眉をひそめる。


「……どこで見た」


テュエル

「あーーー……庭。」


一瞬の沈黙。


セルガ

「……は?」 


「……どこの庭だ」


テュエル

「いや、その……城の奥の――」



セルガ

「皇族の庭か?」


テュエル

「……たぶん」


ゴンッ!!


テュエル

「いってぇ!!?」


セルガ

「当たり前だろうが!!!!」


「バレたら首飛ぶぞこの馬鹿が!!」


テュエル

「いやバレてねぇし……」


セルガ

「そういう問題じゃねぇ!!」


セルガは額を押さえ、大きくため息をついた。


「で……その女は、なんだ」


テュエル

「……こっちが聞きてぇよ……」


ぽつりと零れる


(誰なんだ……)


(……なんだったんだ、あれ)


セルガ

「…………」


一瞬、黙る。


そして、


「……一人しかいねぇだろ」


「いや――“いらっしゃらない”だな」


言い直す。


テュエル

「……え?」


セルガ

「姫様だよ」


「ダイン殿下の御息女――レイラ様だ」


テュエル

「……え……?」


思考が止まる。


「………………姫、様……?」


さっきまでの光景が、

一気に現実味を帯びていく。


 


あの少女が。


 

姫。


 

あの、

近寄りがたいと噂される――



(……嘘だろ)


 


あの鉄仮面みたいなやつが。


 


――ふいに。


 


記憶が繋がる。


 


地面に倒れたまま、

見上げた、あの瞬間。


 


(……あの時の……)


 


頬が、わずかに紅くて。


 


呼吸が、ほんの少しだけ乱れていて。


 


そして――


 


(……笑ってた……?)


 


ぞくり、と。


 


背筋を何かが駆け上がる。


 


あの無機質な顔が。


 


あの、何も感じていないみたいな目が。


 


 


(……あんな顔、するのかよ)


 


心臓が、


 


強く、鳴った。


 


「……っ」


 


拳を、強く握る。


 


(……もう一回)


 


浮かんだのは、それだけだった。


 


(もう一回、見てぇ)


 


あの顔を。


 


(いや――)


 


違う。


 


(……俺が)


 


喉の奥が、熱くなる。


 


(俺が、あの顔を――)


 


ぐっと、歯を食いしばる。


 


「親父!!!」


セルガ

「なんだ今度は――」


テュエル

「俺、西の部族やめるわ!!」


セルガ

「……は?」


テュエル

「東に行く!!!」


セルガ

「ハァ!?!?」


テュエル

「そーゆーことだから!!!!」


踵を返す。


セルガの怒鳴り声が背中に飛んでくるが、

もう聞いていない。


(東部なら――)


(あの人に、近づける)


(また会える)


(……それに)


(専属護衛になれれば――)


一瞬、息が詰まる。


(あの人の、すぐそばにいられる)


(守れる)


(……いや)


わずかに首を振る。


(違う)


拳を、強く握る。


(俺が――)


(あの人を、笑わせる)


胸の奥で、


何かが、はっきりと形を持った。


(あの人を、笑わせる)


それが、


テュエルの――


最初の恋だった。


 


そして、


二度と手放すことのない感情だった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


本作は、感情表現が苦手な少女レイラが、人との出会いを通して成長していく和風ファンタジーです。


なお、主要人物はまだ出揃っておりません。

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― 新着の感想 ―
一文が短くて非常に読みやすい!!です!! テンポも良く、情景も浮かんできました。 そして次も読みたくなる感覚。これを伝えたくて一話に感想入れました。 追わせていただきます。
戦闘場面の強者感を含めて、 引き込んで心情を読ませてくださる作品です。
縦書きが合う感じですね。間と余韻を意識して、この一言をちゃんと嚙み砕いて欲しい、という意図が込められている印象です。 才能で打ち勝ってきていて、格上との戦闘経験がない感じがリアルな戦闘描写だったと思…
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