序ノ章
妖と知られぬよう、正体を隠して生きる親子がいた。
父は王。
娘は――笑わない姫、レイラ。
不器用な王の、歪んだ愛に守られ、鳥籠のような暮らしを送っていた。
退屈な日々を過ごしていた彼女の前に、一人の少年が現れる。
西部族出身の少年、テュエル。
初めて握った剣で彼を圧倒したレイラが、ほんの一瞬だけ見せた笑顔。
その笑顔に、テュエルは心を奪われた。
いつか、この人の専属護衛になる。
そう誓って五年。
彼は本当に、レイラの専属護衛となった。
けれど――
レイラには、何度も縁談が届いていた。
そのすべてを、王は無視し続けた。
人ならざる力を宿す、たった一人の娘。
王にとってレイラは、愛しい娘であると同時に――決して手放してはならない存在だった。
そしてついに、痺れを切らした相手国が従者を送り込んでくる。
国を守るか。
レイラを守るか。
その時、テュエルが選んだのは――レイラだった。
王を裏切り、彼女を逃がす。
そうして二人は、離れ離れになった。
三年後。
かつて友好国だった国の姫との出会いをきっかけに、二人は再び巡り合う。
三年という長い時間を越えて。
ようやく取り戻した、大切な時間。
――けれど。
それは、まだ二人だけの物語だった。
◆ ◆ ◆
その夜は、新月だった。
現れたのは、人間ではない。
妖界を統べる王――酒呑童子。
後に、シャガルと呼ばれる男である。
レイラはその手によって、一度妖界へと連れ去られる。
激しい戦いの末、どうにか人間界へ戻ってきた。
これで終わった。
誰もが、そう思っていた。
――その翌日。
「また会おうと言ったであろう?」
再び現れた妖王は、何食わぬ顔で笑っていた。
こうして。
一人の姫と。
彼女を守るため、国さえ裏切った護衛と。
彼女を妖界へ連れ去った妖王。
――二人だった運命に、もう一人の男が絡み始める。
◆ ◆ ◆
――ここから先、読み方は二つ。
レイラとテュエル、二人の歩みを見届けたい方は、第一話から。
そして――酒呑童子、後のシャガルとの出会いから物語を楽しみたい方は、第二章から。




