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16.シルフィという男 ②

「……ガウンすこしいいか」


シルフィは村の木こりであり幼馴染でもあるガウンに話し掛けた。


「あ~。シル、どうしたよ」


「………実は…………頼みがあってな」




話は数日前の夜に遡る。



食事が終わり、それぞれがゆったりと過ごす憩いの時間。ランタンの灯りが優しい陰影を作り出す。


ライラは織物の手仕事をしたがら、近くにいる雪継としゅーしの様子を伺っている。


シルフィは椅子に座り、揺らめく灯りのもとで、書籍を読んでいた。この世界では子供の時には働かず、自由な時間がある為、簡単な読み書きや計算を学んでいる。雪継がアニメやラノベの村人とかとは違うんだなと思ったひとつである。

また、書籍も高額ではあるが、定期的に村にくる、巡回商人が貸し出しをしており、娯楽の少ない村の人々に親しまれているのだ。


「ん……にいちゃ」


「どうしたの、しゅー?」


「……おはなし」


暇なのか、木剣の手入れをしていた雪継に何か話しをせがむしゅーし。


「しょうがないなあ」


木剣を置くと、少し考えながら雪継が、ポツリポツリと語りだした。


「これは……ある貴族の娘が、手に入れた一冊の本から始まった話しなんだけど…………」


貴族の娘が手に入れた本には7日後にお前は死ぬと書いてあり、その通りに奇怪な死を遂げ、次々と人々の手に渡り死を振りまく呪われた本。


「そして、法術師の女性と騎士の若者は、呪いの本が生まれた古井戸を見つけて、浄化をした瞬間7日が過ぎたんだ」


「…………」


「どうなるかしら」


なぜか手仕事を止めたライラが膝の上にしゅーしを乗せて二人で聞き入っていた。


「何も起こらない。助かったと思った瞬間に、燃えて無くなったはすの本がなぜか騎士の手にあったんだ。

驚いて本を投げ捨てると、本を閉じていた紐がほどけていく。何と紐だと思ったものは女の髪の毛で、本の中から白い服を着た女が手を伸ばしながら……」


「…………」


「ドキドキ」


「ズルズルと本から這いずり出して……わっ!!」


「「びくっ!!」」


「といった感じで、二人の姿を見たものはいませんでしたとさ。めでたしめでたし」


しゅーしが笑う雪継をポカポカと叩き、ライラは「二人は結婚できたのかしら」と斜め上の感想を述べている。


そしてその時、シルフィは分かりにくいが白目を向いて気絶していた。雪継としゅーしが眠り、その姿を眺めていたライラに声をかけられるまで……




「…………」


脂汗が流れる。考えるなと思うほど、気になってくる。

シルフィは絶賛尿意と闘っていた。便所は外だ。頭を雪継な話が横切り、もしかしたら商人から借りた本が呪いの本だったのではと嫌な妄想が膨らんでいく。そう、シルフィは怖い話が苦手なのだ。いや天敵と言っていい。それどこら、基本的に恐がりなのだ。





ありったけの勇気を振り絞って、最低限の尊厳を守った、シルフィは巨体を丸めてそそくさと家に入る。


(助かった)


ドアを開しめたその時、カタンと何かが倒れる音がして油断していたシルフィは飛び上がった。


「…………………………………………ぼ、棒か」


ドアの側に立て掛けられていた棒きれが倒れただけであったようで、拾い上げて息を吐いて、雪継としゅーしが眠る部屋のほうに視線を向けて固まった。


ふわりと暗闇の中に白が流れる。


ゆらりゆらりと揺れながら、シルフィに近づいてくる。


徐々に輪郭がはっきりする。


白い服を着た女が


「あら、あなたもお便所?」


ライラだった。


「お便所のついでにちょっとね」


おそらく雪継達の寝顔を見ていたのだろう。


「……ライラ、お前…」


「あら、それしゅーちゃんが剣の練習で使っている棒よ。捨てちゃダメよ」


ライラは外に出ていった。シルフィは手にしてた棒きれをドアの近くにあったボロボロの木剣の隣りに立て掛けて、寝室に戻ろうとしたが、雪継としゅーしが眠る部屋に足を向けて、スヤスヤ眠る兄妹の姿を眺めるのであった。





「……今帰った」


いつもより遅い時間、シルフィが帰ってくる。


「お帰りなさい。……あら?また怪我したの?」


「……ああ。いや気にしなくていい」


最近帰りが遅く、もともとおっちょこちょいで顔の傷も全部農作業中につけてしまう不器用な旦那ではあるが、流石に怪しい。


「それに、その布は?」


何かを包んだ布を抱えている。


「……ああ、これは」


「あっ、おかえりなさい。シルフィさん」


「ん……。おかえ…なさい」


「ああ…………ただいま」



そのまま、布を抱えて部屋に戻るシルフィを半目のライラが訝しんでいた。


(もしかして…………浮気!? ……な〜んてね)



そして夕食が終わると、シルフィは席から離れようとしていた雪継としゅーしに声をかけて再び座らせる。


「…………」


無言のシルフィに何か叱られのかと不安になる雪継であったが、おもむろに何かを包んだ布をテーブルに取り出してほどいた。


「あっ!これ」


「ん!」


布の中から出てきたのは二本の新品の木剣であった。


「ささくれて……危ないからな」


と一本を雪継に渡す。


「棒よりもいい……はず」


そして雪継のよりも小さな木剣を、栗のような口になっているしゅーしに渡す。ここ数日、木こりの



「お揃いに……したつもりだが……気にいらなければ……」


シルフィが話し終わらない内にしゅーしは椅子からぴょんと飛び降り、シルフィの足にひしりとしがみつく。


「ん……にいちゃとおなじ……うれしい」


「僕も凄くうれしいです!!」


「……そうか」


顔を真っ赤にしたシルフィに新しい木剣を嬉しそうに撫でる雪継。しゅーしは足から離れて木剣を振ろうとして雪継に注意されている。


皆が笑顔で幸せそうな中、シルフィが振り向いた先には、ライラがいて


「ずるい! 私も! しゅーちゃんに!ユキツグちゃんに!うれしいっていわれたかったのに!!秘密にして! ズルイ!!」


呪いの本から飛び出てきたかのように、ずるい、ずるいとシルフィの背中に額をぐりぐり押し付けるライラ。


雪継は笑い、しゅーしも真似して雪継におでこを押し付ける。


暖かな笑い声がシルフィ家を包んでいたのであった。




くーる。きっとくる。


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