26 身に覚えのない実力
身体の感覚が戻った。
「……あ」
フェアは右手を握る。
開く。
もう一度握る。
今度はちゃんと、自分の意思で動いた。
どうやらニアの操作は解除されたらしい。
よかった。
「うおおおおおおっ!」
コロシアムを揺らすほどの歓声が、四方から一斉に降り注ぐ。
「すげぇ!」
「なんだよ、やっぱり一位じゃねぇか!」
「最後の動き見たか!?」
「床全部凍らせてたぞ!」
「氷の上をあんな速さで……!」
「…………」
フェアの顔から、みるみる血の気が引いていく。
違う。
いや、私なんだけど。
言いたい。
ものすごく言いたい。
でも。
言えるわけがない。
それこそ不正じゃん……
「どうしよう……」
フェアは頭を抱えた。
『これじゃフェアじゃなくてアンフェアだね』
「うわ!」
『じゃあ戻るね。バイバイ』
『ちょっとまって!』
あー……
これから私、この実力がある前提で学校に入るの?
無理なんだけど。
絶対無理なんだけど。
「フェア・ノルディス」
フェアはゆっくりと顔を上げる。
目の前にはレオンが立っていた。
さっきまでの険しい表情は消えている。
剣を鞘へ収めると、真っ直ぐフェアを見据えた。
「俺の負けだ」
「……え?」
「認める」
レオンは悔しそうに拳を握る。
「お前は一位にふさわしい。あれがお前の本当の実力だったんだな」
「えっと……」
「なぜ最初から本気を出さなかった」
「それは……」
フェアは必死に頭を回した。
「……温存?」
「なるほど」
レオンは小さく息を吐くと、フェアへ右手を差し出した。
「次は負けない」
「はい」
「次に戦う時までに、必ずお前を超える」
「はい」
そう言い残し、去っていく。
その背中を見送りながら、フェアは力なく肩を落とした。
「……ああ」
観客席からは、まだ歓声が聞こえている。
試験一位。
レオンに逆転勝利。
氷上を自在に滑りながら戦う、見たこともない戦法。
完全に。
とんでもなく強い人として認識されてしまった。
「フェア」
今度は観客席からマキナが降りてくる。
「すごかった」
「マキナちゃん……」
「氷の上、速かった」
「どうしよう」
「え?」
フェアが項垂れていると、不意に聞き慣れた声がした。
「いやー、終わった終わった」
フェアの肩がぴくりと動く。
ゆっくり振り返る。
そこには何事もなかったかのような顔で、ニアが歩いてきていた。
「素晴らしい!」
「…………」
「すごいじゃん。一位の実力、証明できたね」
「…………」
「どうしたの?」
ニアは不思議そうに首を傾げる。
フェアは無言のまま近付いた。
「ニア君」
「はい」
「どうするの?」
ニアは微笑んだ。
3章 終わり




