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1 異世界転生物は前世の話をどれだけ早く終わらせるかが肝


 終業式、壇上では校長先生のまったく意味の無い、ありがたい話が続いていた。


 長い拍手が体育館に響き、ようやく式が終わる。


 明日から夏休みだ。


 「やっと終わったー!帰りコンビニ行こ」


 「いいよ」


 校舎を出ると、夏の日差しが肌を焼いた。


 「お前、夏休みなにすんの?」


 「漫画、アニメ、あとゲーム」


 「やば、夏休みなんだから外で遊べよ」


 思わず顔をしかめる。


 「夏休み外で遊ぶバカがどこにいるんだよ」


 「バカはお前だよ」


 他愛もない会話をしているうちに、コンビニへ着いた。


 「涼しー!ん?何してんの?」


 僕は周りの目を気にすることなくエナジードリンクが並んだ棚に腕を突っ込み、奥に隠れていた分までまとめてかき集めそのまま全部カゴに放り込んだ。


 「いや、ホントに何してんの」


 「夏休みに寝るのは死と同然、死なないためにみなやっていることだ」


 「やってねーよ。ていうかそんなエナドリ飲んだら飛ぶぞ。寝ないために飲んでんのに永遠に寝ることになるわ。本末転倒だわ」


 「うるさいなー、翼をさずけるって書いてないし大丈夫だよ」


 「やかましい」


 家に帰ると、カバンを放り出してそのまま部屋にこもった。


 朝から深夜まで漫画、アニメ、ゲームに浸り、気づけば三週間が過ぎていた。


 もう夏休みも終わりか。


 そう思いながら漫画を読んでいるとスマホが震えた。


 「なに?」


 「遊ぼ」


 「いや今ラストスパートだから無理」


 胸の上に広げた漫画をゆらゆらと揺らしながらページをめくる。


 「宿題やってんの?偉……って思ったけどどうせ漫画のラストスパートとかだろ」


 「え、エスパー?」


 「何年お前と一緒にいると思ってるんだよ。じゃー明日海だから。準備しといてね」


 「明日かよ唐突すぎだろ、課題が全然終わってないって」


 「徹夜すれば終わるでしょ」


 「もっと早く言えって、てかこないだも海行ってなかった?そんなに海行くとお化けに攫われるよ。やばいじゃんエスパーなのに」


 「いやエスパータイプじゃねーよ」


 「……今から終わらせるから待ってろうみんちゅ野郎」


 通話終了のボタンを押した。


 まずはエナドリ補充。


 ベッドから立ち上がった瞬間、視界が傾いた。


 あれ……


 一歩踏み出そうとしたが、足に力が入らず、身体だけが前に投げ出される。


 助けを求める言葉を口に出そうとしても、舌がまるで動かない。


 ヤバい……これ、本当に……


 視界が黒く染まる。


 耳鳴りだけがやけに大きく響いた。


 ◇ ◇ ◇


 目を覚ますと、見知らぬ男女が僕を見下ろしていた。


 ん?だれだ?


 いったいどれくらい時間が経ったんだ。


 小さな手が視界に映る。


 ん、人形?なんだ?


 ……僕の手?


 ……まさか……


 落ち着け……


 ポジティブに考えろ……


 助かったー課題やらなくて済むー。僕の体は助からなかったけど……。


 海行きたかったなぁ。


 ◇ ◇ ◇


 そしてなんやかんだいろいろあって七年の歳月が流れた。


 七年も暮らせば、この世界の常識くらいは身につく。


 この世界には当たり前のように魔力があり、魔法がある。


 魔法はまだ使えないが、魔力の使い方なら大体わかった。


 例えば魔力で身体を強化すれば何の仕掛けもなくアンチグラビティ•リーンができる。


 「お前何してんの?腕なし腕立て伏せ?どうなってんの?体幹」


 「父さんもやってみれば」


 たぶん魔力とはこのように使うのであろう。


 そして一番気になる魔法、僕が魔法を使えないのには理由がある。


 この家には魔導書がないのだ。


 だから僕はなんでこの家には魔導書がないのか母さんに聞いてみたら「全部覚えたから捨てちゃった」と言っていた。


 そんな卒業後の教科書みたいな感覚で魔導書を捨てないでほしい。


 とりあえず魔導書が無いと何も始まらないから、僕はクリスマス前の子供のようにほしいものを遠回しに言う事にした。

 

 「ニア」


 父が木刀を担ぎ、笑みを浮かべながら話しかけてくる。


 きた……


 「何?」


 「お前どうせ暇だろ。俺が剣術教えてやるよ」


 よし、ここから魔導書を買ってもらう流れにもっていこう。


 「いやいい、そんなことより魔法を教えてよ」


 魔法を教えるには魔導書が必要、だから必然的に魔導書を買う流れになる。


 完璧だ。

 

 「なんで?剣の方が強いしカッコイイじゃん」


 「魔法の方がカッコイイ」


 即答。勢いも大事。迷いがあってはいけない。


 父さんは肩をすくめ、右腕をぶらぶらさせる。


 「はぁー父さん魔法で右腕飛ばされてからもう魔法見たくないんだよなぁ~」


 「いや、両腕あるじゃん」


 「治った」


 ? どこの種族だよ。


 「……僕、母さんの口から生まれてないよね?」


 「んなわけねぇーだろ、気持ちわりーな」


 「ほんとに?じゃー一応どこから生まれてきたか聞いていい?」


 沈黙が落ちる。


 「それはー……あれだよ……コウノトリさんのおなかの中だよ」


 そっちのほうが気持ちわりぃーだろーが。


 ていうかこの世界にもコウノトリのシステムあるのかよ。


 ……


 「もういいよ、わかったよ……」


 「よし!父さん暇だったんだよなー」


 もうやだこの人。


 「じゃあ俺が攻撃するから全部防いで」


 何言ってんのこの人。

 

 「じゃあ行くぞー」


 「ちょっと待って!」


 とっさに身体強化をして攻撃をすべて防ぐ。突き。薙ぎ払い。振り下ろし。強い衝撃が腕や体に伝わってくる。


 「剣より魔法のほうが才能あるかもな」


 「だから魔法を教えてって言ってるじゃん」


 「これからは俺の攻撃を見切ることに専念するんだ」


 話聞けよ。


 「なんか素振りとか体力づくりとかはしないの?」


 「ない! 俺とずっと模擬戦してればすべて身につくでしょ」


 もうヤダこの人。


 「初心者がいきなり見切れるわけないじゃん」


 ていうか見切りってなんだよ、会心率でも上げんのかよ。


 「ん、うん。頑張れぇ」


 「……」

 

 ◇ ◇ ◇


 数か月が経った。


 魔法は相変わらず使えない。


 ならせめて、本物の魔物くらい見てみたい。


 そうだ、魔物を見に行こう。


 親には森へ近づくなと言われているが、好奇心には勝てない。


 剣を腰に差し、森の奥へ足を踏み入れる。


 初めて入る深い森は、昼間だというのに薄暗い。風で枝葉が揺れるたびに、どこかから視線を向けられているような気がした。


 その時だった。


 背筋を撫でるような、言葉では言い表せない気配が走る。


 「なに⁉」


 思わず剣の柄に手を添え、周囲を見回す。


 茂みをかき分けながら慎重に進むと、木々が途切れ、小さな開けた場所へ出た。


 そこには、一人の少女が倒れていた。


 「……人⁉」


 僕は驚き、小走りで駆け寄った。


 いやこれ……

 


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