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第48話:誓いの果て

 広間全体がリサが放つ灼熱の光に包まれた。

 灼熱の炎が爆発し、瓦礫が弾け飛ぶ。


 リサが纏う白炎はまるで太陽のように輝き、彼女自身が光と熱の彗星となってバルバトスに突撃する。


「これで終わりよ……堕天の使徒!!」


 ――ドォォォォォンッ!!


 リサの咆哮とともに、バルバトスの周囲に白炎が炸裂した。灼熱のエネルギーが触手の一部を焼き、炭のように黒く焦げ落ちていく。


 一瞬、広間には勝利の兆しが漂った。だが――。


「クックック……その力、我らの糧になるとは知らずにか?」


 バルバトスの低い笑い声が響き渡る。その声は余裕そのものだった。


「なっ……何よこれっ!?」


 リサが驚愕の声を上げる。バルバトスの触手が彼女の身体に絡みつくと、蛇のようにうねりながらリサの手足、首筋に絡みつく。


 そして締め上げると同時に――その先端が彼女の肌に深く突き刺さった。


「うっ……!」


 するとリサの全身を覆う紅蓮の炎が、触手を通じて吸い取られていく。輝きを放っていた彼女の体から徐々に光が失われ、冷たい感覚が彼女を蝕んでいく。



【リサちゃん、やばい!吸われてる!?】

【誰か助けて……リサが……】

【バルバトスって化け物かよ……】

【まさかエネルギーを奪われてるんじゃ?】



「その力、我らの力に同調し、我を満たす――いい燃料だ」


 バルバトスの声には、勝ち誇った響きがあった。


 リサはなおも抵抗しようと白炎を爆発させる。だが、その度に炎は触手に絡め取られ、呑み込まれていく。力が抜け、意識が薄れ始める。


「こ……んな……もの……!」


 涙が浮かぶ視界に、崩れた天井がぼやけて見える。仲間のために戦おうとしたはずの炎が、今は彼女自身を蝕んでいるようにも見えた。


 

 その様子をモニターで確認していた神楽アヤメはテーブルを叩いた。

 

「リサ……怒りの炎は抑えろと、あれほど言ったでしょう……」


 アヤメには、リサの原初の紅い炎が、怒りによって増幅されることの危険性が分かっていた。だからこそ、感情をコントロールし制御する術を徹底的に叩き込んでいたのにも関わらず、最悪の状況でそれは起きていまった。


 それと同時に、もし自分であっても、あの状況で感情を抑えることなどできなかっただろうとも感じていた。


「ごめん、リサ……私の判断ミスを許して……」


 アヤメの赤い瞳には、涙が溢れていた。




「リサさん!!」カイの絶叫が広間に響く。


 しかし、『鎖縛』に縛られた彼は、指一本動かすことすら叶わない。


 バルバトスはぐったりと力尽きたリサを触手から解放すると、そのまま腕に抱え、ゆっくりと空中に浮かび上がった。


「これは素晴らしい素材だ……これで堕天の王ルシフェル様の降臨も早まるだろう」


 冷酷な笑みを浮かべ、バルバトスはリサの力をその手中に収めたことを確信していた。


「リサさんを……返せッ!!」


 カイが叫ぶ。だが声を振り絞っても、その体は鎖に縛られたまま。虚しく響く声が、広間に空しくこだました。


 バルバトスは、這うようにカイの方へと向かおうとするシンジに目を向ける。


「……無様に生きることで仲間を縛り続けるとは、解術者とは哀れなものだな」


 シンジは震える手を伸ばし、カイへと這い続けた。その姿はもう、かつての狂気に満ちたシンジではない。ただの少年――自分の過ちに苦しむ少年だった。


「カイ……くん……ごめん……僕のせいだ……僕のせいで、みんな……」


 その涙混じりの声は細く、弱々しかった。


「シンジ……くん……」


 カイの目に涙が滲む。捕まったリサ、倒れたメイ、懺悔するシンジ――だが、鎖に縛られたまま、彼には何もできなかった。



【シンジ……泣くなら最初からやるなよ……】

【バルバトス、ヤバすぎる。強すぎる……】

【カイ、お願いだから……立ってくれ!】

【リサちゃんが、連れかれちゃうよ……】



「ククク……結局、人間は弱く脆い。貴様らはその弱さを捨てきれぬ。だからこうして、いつの時代も同じよう苦しむことになる」


 バルバトスの言葉が鋭く突き刺さる。


「返してほしければ、『鎖縛』を解き、塔の最頂部まで来るがいい……。ただし、一度反転した『解術』スキルは二度と元に戻すことは出来ない。つまり、その少年を殺さぬ限り解けぬということだ。」


「リサさんを……離せ……」


 カイは声を振り絞る。しかし、バルバトスは冷たく笑うだけだった。


「まあ、とことん甘い貴様にはそれは出来まい。ずっとそこに縛られておくが良いわ」


 バルバトスの笑い声が遠ざかり、広間から姿を消した。


 残されたのは、瀕死のメイ、動けないカイ、そして地面を這うシンジだけだった。


「リサさん……メイ……シンジ……」


 カイの声は震えていた。拳を握りしめようとしても、その手には力が入らない。


「ボクは……どうすればよかったんだ……」


 瓦礫の隙間から差し込む光が、あまりに儚く見えた。胸に広がるのは、絶望と後悔――自分の力不足が仲間を傷つけたという現実だった。


 だが、その時。


「カイ君……」


 シンジのかすれた声が聞こえた。彼がカイの腕を掴み、そのままゆっくりと立ち上がった。


「僕にとって君は、ずっとヒーローだったよ……だから必ず、僕が助ける」


 シンジはふらつきながら塔の端へと向かう。足元は覚束ず、血の跡が彼の歩いた道を染めた。


「シンジ君……何をする気!?」


 カイが必死に声を上げるが、シンジは振り返り、微笑んだ。


「カイ……君なら……きっと……もっと強くなれる……だから……信じてるから」


 風がシンジの髪を揺らし、広間が静寂に包まれた。次の瞬間――彼はそのまま、塔の外へと身を投げた。


「シンジィィィィィ――ッ!!」


 カイの絶叫が広間に響く。そして、鎖が弾けるような音と共に、彼を縛っていた『鎖縛』が解けた。


 だが、それは――シンジの死を意味していた。


 広間には、重苦しい静寂が戻った。


「シンジ……君……」


 カイは地面に膝をつき、拳を握る。その手には、シンジの温もりだけが残っていた。


 瓦礫の隙間から差し込む光は、あまりに淡く、儚かった。だが、その光がカイの心の奥底で、小さな炎を灯そうとしていた――


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