8、届かない恋(2)
あたしは思い出を重ねていく日々の中で樋坂君に惹かれていき、この好きという想いを伝えたい気持ちが強くなっていった。
もっと近づきたい……女の子として見てほしい、恋人として一緒に過ごしたい。そんな風に思えたのはやっぱり、身近に恋人と過ごす幸せを満喫する光の影響が大きかったと思う。
でも、あたしには不安材料があった。
それは、唯花先輩の存在だった。
あたしはアルバイト終わりに思い切って唯花先輩に質問した。
「樋坂君とは付き合っているんですか?」
あたしは先輩呼びしていることもあり、唯花先輩には相変わらず敬語だった。
唯花先輩は少しは動揺してくれるかと思ったけど、首を横に振り簡単に否定した。
そしてあたしに……、「好きになっちゃった?」と意地悪っぽく聞いた。
あたしは途端に顔を真っ赤にして、あからさまに図星な態度をしてしまった。
「何となく舞の気持ちは分かってたよ。だから全然不思議じゃない。
私は浩二の気持ちは分からないけど、舞が好きなら気持ちを伝えてみたら?」
本当に予想外だった。あたしは唯花先輩のことを恋敵のように見ていたのに、それが情けなくなるほどに唯花先輩の言葉は優しく、あたしに対する思いやりで満ちていた。
あたしは思わず涙ぐんで……それでも、唯花先輩を意識していたことを打ち明けることは出来なかった。
それから、あたしは告白する覚悟を決めて、いつものようにゲームセンターに寄った帰りに公園で話したいことがあると樋坂君を誘った。
不思議そうにする樋坂君を連れて、強張る顔を必死にリラックスさせてあたしは公園に行き、ベンチに座った。
いざ告白しようとすると、寒気がして、喉が渇き声が震えてしまう。
緊張のあまり胸の鼓動が高鳴る。大きく深呼吸してもう早く伝えてしまおうとあたしはつい前のめりになりながら樋坂君の事を見つめた。
「―――樋坂君のこと、好きになりました。どうか付き合ってください」
普段のあたしは男勝りな感じで女らしくなんてなくて、だから……こんな自分でも乙女らしいことが言えてしまうのかと自分を笑いたくなるほどだった。
恥ずかしさで瞳が潤み、思わず身体を震わせて、今すぐに逃げ出したい衝動を抑えるのであたしは必死だった。
ドキドキしながら樋坂君からの返答を待つ。そして、樋坂君はあっさりとあたしの告白を断った。
「ごめん、舞の気持ちには応えられないよ。辛くなるなら無理しなくてもいいけど、これからも変わらず友達同士でいてほしいかな。俺はさ、舞と一緒にいるのは楽しいからさ」
期待は……していたと思う。全くしていなかったら告白なんて勇気のいることをしていない。あたしは恋愛経験はおろか、告白するのも初めてだったから。
一緒にいて楽しい時間を共有出来ていた自信はあったし、初めて本気で男の人を好きになった。もっと深く繋がって、あたしのことも知ってもらって、樋坂君のことも知りたいって思った。女の子らしいあたしのことも、見てほしいって思った。だから……あたしは胸が苦しくなって、どうしようもなく次の言葉を抑えられなかった。
「どうしてなの……あたしに魅力が足りないから? それとも……唯花先輩のことが好きだから?」
言わないつもりでいた、問い詰めないつもりでいた。でも、胸に残る苦しみが衝動を抑えきれなかった。
「舞……これは絶対秘密にしてほしいんだけどな。唯花にはもう彼氏がいるんだよ」
悲壮感を抑えられない様子で、重苦しく樋坂君はそう言った。
あたしは、全く想像していなかった返答に血の気が引いた。
この前、唯花先輩と話した時、そんな……彼氏がいるような様子は一切見せなかった。演技力の高さなんて単純なものではない。女のあたしが気付かないくらい、絶対に守り抜きたい秘密だったに違いないとあたしは察した。
「じゃあ……やっぱり樋坂君は、唯花先輩のことが好きなんですね。
どうしてですか……どうして本当の気持ちを伝えようとしないの。
隣近所の幼馴染で、クラスメイトで、あんなに仲が良いのに……。
どうして、諦めちゃうのよ……!!」
言葉を続けていく内に感情を表に爆発させていた。
あたしなんて最初から眼中になかった。唯花先輩のことが樋坂君は好きだったのだ。
あたしと一緒にいてくれたのは、唯花先輩に彼氏が出来て、付き合いが悪くなったから……そういう、色んな辻褄が頭の中で怒涛のように思い浮かんで納得できてしまって……あたしはもう、悔しくて、情けなくて、言いたくないことまで吐き出してしまった。
「そんなの、幼馴染だから、初めてあいつに彼氏が出来たこと、祝福しないわけにはいかないだろ!! 俺も真奈も、ずっと唯花の世話になって来たんだ!!
だから、彼氏が出来たこと、祝福してあげないわけにはいかないんだよっつ!!」
こんなのバカみたいだと思いながらも、悔しさと強い想いが溢れた樋坂君の言葉をあたしは受け止めた。
もう、この場であたし達は”同じように失恋の痛みを共有する同志になってしまった”のが、はっきり分かってしまう程に、互いに感情を爆発させていた。
あたしは我慢しきれなくなり、泣きじゃくりながら公園を後にした。
樋坂君が苦しむ姿を見るのも、あたしが慰めて欲しそうに樋坂君の前で泣きじゃくって甘えてしまうのもたまらなく嫌だった。




