-What's the dream of human beings stepping corridor of green linoleum?- 1-1 出だし
さてゝゝ誤解の無きやう申し上げておきますと、これより始まる戯れは全て夢の中での出来事なのです。
東西南北自由人、今宵はどちらへ往かれます?ちょいと未知たる老い生いへ。
されどやうゝゝ暮れゆく夜を背に、彼が行燈持たずして夢々揺蕩ふ件の所以、先ずは明かすと致しませう。
...
砂時計の中で、指輪を探している。
空からは雨のように砂という砂が降り注いでくる。
残り時間は後僅か。既に砂は三分の二は落ちてしまった。
時計の長針が八時を指した頃だろうか。
折角掘り起こして探している場所にも容赦なく砂はこぼれてくる。
立ち上がり、彼方へ視線を伸ばす。何処まで続くのか、この砂漠は。
少女は目に涙を浮かべながら、必死に砂をかき分ける。
悲しいかな、砂はいつまで経っても底を見せず、少女を嘲笑うように頭上から新しい砂が降り注がれる。
手を貸して上げたいのだけど、何をすべきか分からない。
手を伸ばしてみるのだけど、持った途端に砂は湿り気を含み、粘土のようにまとわりつく。
知っているのは、テレビで見たサハラ砂漠。そこは見渡す限りの砂漠らしい。
……それくらいの知識で、実際に五十度を超える気温も知らないし、突き刺さる太陽熱も体験していない。
手で触れたのは、幼い頃に公園で遊んだ砂場。しかも雨上がりで、ひどくぬかるんでいた。お陰で砂場は嫌いになったっけ。そのせいで粘土も嫌いだ。あの時握った砂場の砂の感覚を思い出してしまう。
つまり、熱帯の砂漠のど真ん中に突っ立ってるように見えて、その実知っているのはブラウン管に映る遠い砂の世界と粘土みたいな砂。拭う汗も、滴る汗も、カラカラの喉も、熱による目眩や立ちくらみも、蜃気楼も、どこかにあるというオアシスも、みんな「知らない」のだ。
知らないものを知覚することなど出来ない。そう考えてしまえば、眼前に広がる光景の滑稽さに気付く。
ところで、なんで砂漠にいるの?
探してるのは指輪、ってそりゃまたなんでそんなこと知ってるの?
しかもここにいる少女って誰よ?
……ふっと体が軽くなったのが分かる。これが俗に言う、悪夢ってヤツですか。解放されましたか、そうですか。そいつは良かった。




